059話 勇者リア・リンデンドルフ③
俺の紫色の<魔法闘気>に反応して、リアが白色の<魔法闘気>を発動した。
様々なことに対して「なぜ?」という疑問が湧いたが、今はリアとの決闘に勝つことを優先だ。
今度は俺から斬りかかった。
リアは先ほどよりも凄まじい速さで反応する。
訓練用の剣だというのに、互いの剣がぶつかり合うと、衝撃波が生まれた。
一つ一つが必殺の威力を持つ斬撃を、
だが互いが人智を超えた高みにいる動きをするがゆえに、互いに決定打に欠ける。
これが、<魔法闘気>で強化した者同士の近接戦闘か。
決闘を見守っていたギャラリーからも、感嘆の声があがった。
「すげぇ、何だあれ……。フェリクス、お前は今の動きが見えたか……?」
フェリクスに話しかけたのは、勇者パーティーのひとり、大盾のアーダイン。
その問いかけに、フェリクスは悔しそうな顔を返していた。
「勇者殿とカイ君が互いに攻撃を行ったとしか分からん……。次元が違いすぎる……」
フェリクスの言う通り、先ほどと比べたら別次元といってもいいほどの動きだ。
互いに<魔法闘気>で圧倒的にパワーアップしたように映るだろう。
だが、リアの動きはぎこちなかった。
まだ<魔法闘気>をまとっての戦いに慣れていないのだ。
チーザイの時もそうだった。
いきなり<魔法闘気>でパワーアップした人間は、その力を使い切れないんだ。
まったく、みっちり修行をつけてくれたマーナリアには感謝しかない。
1年の修行がある分、<魔法闘気>を使っての戦闘は俺のほうが有利だ。
リアが自分の<魔法闘気>に慣れる前に、速攻でかたをつける!
俺は先ほどよりも激しく攻め立てた。
俺の連続攻撃をリアは必死に凌ぐが、次第に追い詰められていく。
だがこれは決闘であって、剣の稽古ではない。
「<
勇者が人類最強のジョブと言われる理由のひとつに、
最初の魔術はリアなりに手加減してくれていたようだが、低級魔術では俺を倒せないと分かると、次第に魔術による攻撃は
そこからは膠着状態だった。
近接戦闘では俺のほうが上だが、決定打を入れようとすると魔術で妨害される。
だがそうして攻めあぐねるということは、俺の敗北を意味していた。
「うん、だんだん慣れてきた。じゃあ、今度は私から行くからねっ!」
リアが<魔法闘気>をまとっての戦いに慣れてきたのだ。
次第に俺はつばぜり合いでも劣勢になっていく。
驚くべきはその戦闘の才能か。
リアはあっという間に<魔法闘気>での戦闘を体得していた。
勇者のなせる技なのか、あるいはそれほどの才覚がゆえに勇者に選ばれたのか。
ともかく、持つものと持たざるものの違いを見せつけられているようだった。
俺の1年を、リアはたかが数分の戦いで体得したのだ。
まあだからといって負けるわけにはいかないし、だからこそこっちは策を
「<魔法闘気>、解除!」
「えっ!?」
俺が<魔法闘気>を解除すると、リアの<魔法闘気>も解ける。
勇者の能力で俺の<魔法闘気>に反応して発動していたのだから、当然だ。
唐突な身体能力の変化にリアは対応できず、大きくバランスを崩す。
もらった!
千載一遇のチャンスをものにすべく、俺は剣を振り下ろす。
だが、リアは倒れかかったまま体を回転させ、俺の攻撃を剣で受け止めた。
「残念だったね、お兄ちゃん」
「くっ。<魔法闘気>、発動!」
再び魔法闘気を発動して一気に距離を取る。
「いや、驚いたよ本当に。リア、お前にここまで戦いの才能があるなんて思っていなかった。このまま戦いが続けば、俺は勝てないだろうな」
「それは降参ってことかな?」
「いいや、予告だ。俺は次の一撃で勝負を決める。長期戦は俺に不利だからな。運命を賭けた一撃ってやつだ。さあ、かかってこいよ、リア。覚悟ができたらな」
俺はリアに向かって手招きする。
さきほど距離を取ったので、俺とリアはそれなりに離れている。
リアはすぐにはかかってこなかった。
そのかわり、得意げに俺に言った。
「ふーん。私、お兄ちゃんが何を狙ってるのか、分かっちゃった」
自信満々に言うリアの表情は、幼い頃の面影が残っていた。
それを見て、勇者なんて言ってるけど、やっぱり俺の妹なんだなと呑気なことを考えてしまった。
「どうだかな。お前が俺の発想に追いつけたことがあったか?」
俺の言葉に、リアは少し不満そうな顔をする。
「これでもちょっとは成長したもん。私のこの白いオーラ、お兄ちゃんの紫のオーラに反応して出るみたいだけど、ちょっとだけ時間差があるよね。だから、またその時間差を利用して、私だけオーラが出てない一瞬の隙をついて攻撃するつもりでしょ」
「おいおい、その身体能力で洞察力もあるのは、もはやズルだろ」
「妹の成長を見守らなかったお兄ちゃんが悪いんだよ」
互いに軽口を叩きあった。
次の一瞬で互いの運命が決まるというのに、お互い余裕がある。
ただリアのほうは、自分の勝利を確信しているがゆえの余裕だろう。
「いいよ、お兄ちゃんの狙いに乗ってあげる。さっきので感覚も分かったし。それに、全力を出した真っ向勝負で負けたほうが、お兄ちゃんも納得するでしょ?」
「やれやれ、兄思いの妹を持てて嬉しいよコンチクショー」
リアは身を低くして走り出した。
<魔法闘気>をまとったリアは、一気に俺との距離を詰めてくる。
そして、互いの間合いに入る、その一瞬前。
「<魔法闘気>、解除!」
「ここでやると思ってたっ!」
リアは俺の動きに、完璧に対応した。
「再び<魔法闘気>、発動!」
「ごめんね、お兄ちゃん! 私の勝ちっ!」
俺の動きを完璧に予測していたリアは、俺が<魔法闘気>を解除するタイミングで減速していたのだ。
だから、俺だけが<魔法闘気>を発動している刹那の瞬間、リアはギリギリ俺の間合いの外にいた。
認めるよ、リア。
お前は戦いの天才だ。
だけどお前、予想外の展開には弱いんだよなっ!
「<装備変更>!」
「へっ!?」
最初から俺の狙いは剣での攻撃じゃない。
リアが勝ちを確信した瞬間に、予想外の出来事を起こすこと。
そして俺だけが<魔法闘気>を発動している刹那の瞬間であれば、勇者といえども俺の<装備変更>のスキルが効く!
「悪いな、リア! お前の体格に似た服だと、手持ちがそれしか無かった!」
「待って、お兄ちゃん! 私に何をしたの!? 私、どうなってるの!?」
突然自分の服装が変わっていることに気づいたリアは、あからさまに動揺した。
「鏡が無いから、教えてやるよ。今のお前は──猫耳メイド服だっ!!」
どこぞのメスガキ魔族に押し付けられた猫耳メイド服。
そういえば押し付けられて<アイテムボックス>に入れっぱなしだったのを思い出したのだ。
「待って待ってどういうこと、ていうか猫耳メイドって何、猫耳ってこの頭にぴょこぴょこしてるこれってもしかして勝手に動いてるの待ってよ意味分かんないなんでいきなり決闘中にこんなことするのもしかしてお兄ちゃんの趣味なのだったらこれまでに何が──」
「はい、お前の負け」
俺は突然の展開にテンパって動きが止まったリアを、訓練用の剣で軽く叩いた。
「あ──」
自分が負けるのはさらに予想外だったようで、リアは頭の処理が追いつかずに、猫耳メイド服のまま硬直した。
決闘の相手が負けを認めてくれないが、俺が勝利条件を満たしたのは確かだ。
突然の急展開に呆然としている全員に向かって、俺は高らかに宣言した。
「俺の勝ちだ!」
立会人たちからは総スカンだったのは、言うまでもない。
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