055話 決着

 <堅牢なる守護結界セイント・バリアフォース>に守られながら、俺達は<死霊兵団>の戦いを見ていた。


 もちろんロリーナを狙って、俺たちのところにも魔物たちは集まってくる。

 だが、やつらの攻撃では結界を破壊できなかった。


 結果として、<死霊兵団>は俺たち以外の冒険者だけに襲いかかる。


「こんな魔物を相手にしてられるかっ! 俺は逃げるぞっ!」


 <死霊兵団>を相手にしていた<黒衣の戦士団ブラックウォーリアーズ>の1人が、ついに逃げ出した。


「おい待て、ずるいぞっ!」


「やってられん! 俺もずらかるぜ!」


 1人が逃げ出してから、総崩れになるまではあっという間だった。

 <黒衣の戦士団ブラックウォーリアーズ>の冒険者たちは次々に逃げ出した。

 いつのまにか<闇討ちのゴメスダ>もいなくなっている。


 そして残ったのは大賢者パーシェンのみとなった。


「カイ・リンデンドルフ……やってくれましたね……」


「さっさとこの<堅牢なる守護結界セイント・バリアフォース>を解除したほうがいいんじゃないか? お前の魔力も無尽蔵ってわけじゃないんだろ?」


「ぐぬぬぬぬ……だが、あなたの言う通りですね……」


 そう言ってパーシェンは結界を解いた。

 大賢者が自分の意志で結界を解除するという、俺の宣言通りの結果となった。


「おお、カイ! 見事なものじゃな! 完璧におぬしの言う通りの結末になったぞ! それで、結界が無くなったことで<死霊兵団>に囲まれている妾たちはピンチなわけじゃが、これを打開する策ももちろんあるんじゃな?」


「ロリーナ、ごめん……」


 無いんだ、策。


「そうなるんじゃろうなって気はしておったよ……」


 ロリーナは哀しそうに言ったあと、<死霊兵団>を消滅させるために自害した。

 蘇ったロリーナは不満そうにこちらを見つめていた。


 ロリーナが苦しまずに<死霊兵団>を消滅させる方法も、早いとこ見つけたほうがよさそうだ。



■□■□■□



 戦いは終わった。

 結界を解除したあとは、大賢者パーシェンは俺たちには何もしてこなかった。


 向こうも、ここで直接攻撃を仕掛けたら、どちらかが死ぬまで戦うことになると分かっているのだろう。

 ここはいくらでも誤魔化しの効く、ダンジョンの奥深くなのだから。


「パーシェン! 何度も何度もちょっかいかけやがって! いい加減、俺も怒るぞ!」


「あなたが魔族の使徒である疑いは晴れたわけではありません。ですが、ここまで何度も魔族の力を使わずに切り抜けるとなると……」


「これでもまだ納得せずに俺たちにつきまとうって言うなら、昨夜の件も含めて冒険者ギルドに報告させてもらうからな! それに、勇者パーティーにも苦情を入れるぞ!」


 そこまで言って、ふと気づいた。

 勇者のそばには、導き手である聖女がいるはずだ。

 そして聖女とは、回復系ジョブの中で最上位の存在。


 ロリーナの呪いを解くための手がかりを、聖女から得られるかもしれない。


「パーシェン、分かってると思うが、今回お前は他の冒険者と共謀して、俺たちを破滅させようとしたんだぞ。昨夜ロリーナに危害を加えた件よりもさらに、これについては言い訳ができない。それは分かってるな?」


「……何が望みですか?」


 パーシェンは恨めしそうに俺を見た。

 立場や状況の理解が早いのは助かる。


「俺はロリーナの呪いを解きたい。そのために、聖女と話がしたい。勇者パーティーの拠点まで、俺たちを案内してくれ。嫌とは言わせないぞ?」


「しかし……それは……」


「それとも、ここで殺し合うか? お前が勝っても、俺たちが帰還しなければギルドはお前を怪しむぞ? <黒衣の戦士団ブラックウォーリアーズ>が保身のためにお前を売らなければいいがな」


 パーシェンはCランク用の依頼に、本来ならば力量不足の俺たちを連れてきた。

 そのEランク冒険者たちが全員死亡となれば、ギルドからの事情聴取は免れない。


 嘘発見器……じゃなかった、<真実の瞳>を前に、全てを隠し通すのは無理があるだろう。


「……分かりました。我々の拠点まで連れていきましょう」


 パーシェンもそれを分かっているのか、素直に俺の提案を受け入れた。

 この大賢者も、俺たちと同様に”冒険者として成り上がる”という目的により、行動を縛られているのだ。


 パーシェンは転移魔術を発動する。

 そして俺たちは一瞬でサイフォリアの街に戻った。


 転移した先は、勇者パーティーの拠点。

 そこは、質素な民家だった。


「聖女と話をつけてきます。すこしそこで待っていなさい」


「逃げるなよ?」


「ここで逃げて何になるのですか。私が戻らなければ、ギルドに報告するなり好きにしなさい」


 大賢者パーシェンはそう言って民家の中に入っていった。

 そしてすぐに、パーシェンは約束通り聖女を連れてきた。


「えー、ウソでしょ。パーシェンが客人を連れてくるなんて。もしかして冗談? 言っておくけど、つまらない冗談だったら、しばらく話のネタにするからね?」


 変な話をしながら出てきた聖女は、見たことのある顔だった。

 輝く金色の髪に、白い羽。

 こんな辺境の街に、天使の生まれ変わりと言われるホワイトフェザー種の有翼人は2人といないだろう。


「あっ! カイさん、この人! 確かフェリクスさんの妹の……!」


「だ、大根のプリセア……!?」


 現れたのは大剣のフェリクスの妹、プリセアだった。


 確かにホワイトフェザー種といえば神聖魔術と治癒魔術の適性が極めて高い種族。

 そして大剣のフェリクスとともに勇者パーティーの一員なのだから、その可能性はあったのだが……。


「おいおいおい、カイ! 俺様たち、騙されてるんじゃねえのか!? この大根のプリセア、ただの面白系お嬢ちゃんだろ?」


 勇者を導く聖女に向かって、ディーピーがありえないほどの暴言を吐いていたが、言いたくなる気持ちは少し分かる。


「おっと、そこの魔物クン。言ってくれるじゃない。でも、私が聖女なのは、正常・・なのだよ! セイジョだけに!」


 この人、こういう人だもんな。

 俺たちが反応に困っていると、聖女プリセアは首をかしげた。


「あれ、もしかして。私、また滑った?」

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