046話 絶望の死霊兵団①
幸い、ロリーナはすぐに見つかった。
街から少し離れた草原で、ひとりたたずんでいたのだ。
「こんなところにいたのか」
俺が声をかけると、ロリーナはびくりと震えた。
「おぬしら……どうして……」
「気が変わった。ロリーナが何を抱えているのか知らないけど、それは仲間をたった一人で寒空の下に放り出していい理由にはならない」
「えへへ、宿屋の女将さんに頼んで毛布を借りてきちゃいました! これでもう寒くないですよ!」
ラミリィはそう言って宿屋から持ってきた毛布をロリーナに手渡した。
「ロリーナ。俺たちじゃあ頼りないかもしれないけど、君の力になりたいんだ!」
ロリーナは俺たちの姿を見回してから、静かに微笑んだ。
「まったく、温かいやつらじゃのう。出会ったばかりの妾のために、こんなところまで来て……いかんなこれは。妾としたことが、嬉しくなってしまいそうじゃ。希望を抱いてしまいそうじゃ」
「いいじゃないですか! 嬉しいに嬉しいって言えるのが、幸せってものなんですよ! きっと!」
だがロリーナは哀しそうに数歩ほど後ろに退る。
「ダメなのじゃ。それこそがこの身体の宿命……。いかん、この距離だと巻き込んでしまう……。おぬしら、早く妾から離れるのじゃ!」
「待ってくれ、説明してくれロリーナ! 今度は手短かつ的確に!」
「”こやつ”はいつもそうなのじゃ……。妾が希望を抱くと、必ずそれを打ち砕く。”こやつ”は絶望以外を許さない……! 敵が来る! 武器を構えよ!」
ロリーナの言葉よりも少し早く、あたりに邪悪な気配が満ちていく。
大賢者が<冥府への道標>を使った時のような気配が、どんどん濃くなっていく。
そして周囲の地面が
「こ、これはっ!?」
「おぬしら、先に言っておくぞ! これから出会う敵に勝つ方法は……無いっ! 死なぬよう、身を守るのじゃ!」
それは、軍隊だった。
周囲を埋め尽くすほどの兵士の亡霊が、突如として湧いてきたのだ。
「こんな街の近くに、これだけのアンデッドが眠っていたのか!?」
「違うっ! これは妾のせいじゃ! 妾が嬉しくなったり、希望を抱いたりすると、必ずこの<死霊兵団>が現れる! そして、妾が再び絶望するまで、全てを破壊していくのじゃ! すまぬ、巻き込まないつもりだったのじゃが……」
「ロリーナ、それは違うぞ! 少なくともひとつ、明らかに間違えがある!」
「カイ、何を言っておる!?」
「これがロリーナに関わっている現象だとしても、これはロリーナのせいじゃないだろっ! ロリーナを貶めようとしている、悪い魔族の仕業だ! ロリーナが謝ることじゃない!」
「そうですよっ! それに、これだけ数が多いってことは、それだけ当たりやすいってことです! やりましょう、カイさんっ!」
「ああ! ロリーナ、ラミリィの前に出るんじゃないぞ!」
他人を巻き込まないために、ロリーナが街の外に出ていてくれたのは幸運だった。
ここなら、<魔法闘気>を思う存分に使える!
地面から湧いたアンデッドの兵隊たちは、速やかに隊列を整えて俺たちを取り囲んだ。
同じ大きさ、同じ模様の大盾が一列にならぶ。
まるで壁に囲まれているようだ。
だけど、そんなものでは俺たちの攻撃は防げない。
「いきますっ! <早打ち連射・一斉攻撃>!!」
俺の<魔法闘気>を込めた矢を、ラミリィが素早く放つ。
それはまるで紫色に輝く流星群だった。
1発1発が圧倒的な破壊力を持つ矢は、壁のような大盾を容易く貫く。
そして<死霊兵団>を次々と
ラミリィの正面にいた魔物たちは、あっという間に消え去った。
「カイさん、騎兵が来ます!」
矢の乱射を避けていた騎兵のアンデッドたちが、盾を構えた兵士たちの頭上を飛び越えて襲いかかってきた。
「<魔法闘気>、発動! さて、銀の剣の試し切りはお前たちでさせてもらうぞっ!」
フェリクスから貰った銀の剣に<魔法闘気>の力を乗せて、迫りくる騎兵を迎え撃つ。
剣を振り下ろすと驚くほど簡単に、滑るように剣は魔物を切り裂いた。
「よし、この感じなら攻撃面は問題なさそうだな」
「さすがはカイさんですね!」
俺たちが<死霊兵団>を次々に倒しているのを見て、ディーピーも前線に立った。
「なんだ、急に出てくるからビビったがザコじゃねえかこいつら! よし、俺様もここらで活躍して存在感をアピールしてやるぜっ!」
「あっ、ディーピー! 危ないぞっ!」
俺の話を聞かずにディーピーは残った兵士に攻撃を仕掛ける。
だがその攻撃はアッサリと盾で防がれてしまった。
その隣の兵士がすかさずディーピーを剣で切ろうとしていたので、慌ててそいつらを倒す。
「す、すまねぇカイ……。危なかったぜ」
「ディーピーも下がっていてくれ!」
「うそ……もしかして俺様、戦力外!?」
「違う、こいつらが妙に強いんだ!」
この街で暮らす冒険者の中で、ディーピーより強い者がどれだけいるだろうか。
そのディーピーが、<死霊兵団>には手も足も出なかった。
いや、まあディーピーは前足と後ろ足だけど。
ロリーナが街から離れていた理由も分かる。
こんな魔物が街の中で大量に湧いたら、大惨事だ。
「俺とラミリィで数を減らす。その間、ディーピーはロリーナを守ってくれ!」
「いや、カイ。どうもそういうわけにはいかねぇみたいだぜ」
ディーピーが地面をにらみつける。
まさかと思ったが、そのまさかだった。
再び地面が
「まさかこいつら、無限に湧くのか……?」
「カイさん、どうしましょう! このままじゃ矢が無くなっちゃいますよ!」
「これが、絶望の死霊兵団……」
俺たちが倒したのは無駄だったとあざ笑うように、あっというまに再び<死霊兵団>が周囲を埋め尽くす。
まさかロリーナの言う通り、本当に勝つ方法が無いのか!?
そのロリーナだが、自分の短剣を首に押し当てていた。
「すまぬな、おぬしら。礼を言おうぞ。おかげで勇気が湧いてきた」
「その短剣で何をするつもりだ? ま、まさか!」
「こやつらは妾を殺すまで止まらんのじゃ。じゃが、妾が死ねば、なぜか消える。ならば──」
「待て、ロリーナ!」
俺の制止を聞かず、ロリーナは自分で自分の首を切り落とした。
すると、どうだろうか。
<死霊兵団>の動きが止まった。
それどころか、手にしていた剣や盾を一斉に捨てていくではないか。
カランカランと、金属音があたりに鳴り響く。
それとともに、魔物たちは嗚咽にも似た雄叫びを上げ始めた。
「うおおおぉぉぉ……!!!」
ガックリと、膝から崩れ落ちる者もいる。
「カイさん、これは……?」
「分からない……けれど、これは俺の気のせいか? この魔物たち……
いや、何に対してかも、なんとなく分かる。
だが、そんなことがありえるのだろうか。
ロリーナが死ぬまで<死霊兵団>は止まらないと、ロリーナ自身が言っていた。
けれども、こいつらは……。
「ロリーナが死んだことを、悔やんでいる……?」
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