043話 さまよう少女の死に戻り


 背後からの、心臓を貫いたひと突き。

 いつのまにか、ロリーナの後ろに男が立っていた。

 見覚えのある、黒を基調とした服。


「クハハ……! まずは1人……!」


 <闇討ちのゴメスダ>が、手にした剣でロリーナを背後から貫いていたのだ。


「ゴメスダ……お前っ!」


「俺は<闇討ちのゴメスダ>だぜぇ? 不意打ちは俺の十八番オハコなんだよぉ!」


「ゴメスダ、覚悟は出来ているんだろうなっ!」


「クハ……クハハハハハ……! お前らが悪いんだぜ! お前らが依頼を達成しちまうから、このままだと俺はボスに殺されちまう! だけどよぉ……お前らが冒険者ギルドにまでたどり着かなければ、まだ依頼が達成したとは言えないよなぁ……? だからここでお前達を殺グバァッ!?」


 ゴメスダの話が終わる前に、俺はゴメスダを殴り飛ばした。

 ゴロゴロと勢いよくゴメスダの体が転がっていく。


「ゴメスダ! 命が惜しかったら、今すぐこの街を出ることだな! もしロリーナが手遅れになったら、俺はお前を問答無用で殺すぞ!」


「ひ、ひぃっ!?」


「今はまだ我慢してやる……! 正しいやり方でお前達を潰すよう俺をさとしたロリーナに感謝するんだな……!」


「ひいいぃぃぃっ!」


 ゴメスダは俺の言葉を聞くと、一目散に逃げていった。

 俺はすぐにロリーナに向き直る。


「ロリーナ、大丈夫か? 待ってろ、すぐに<治癒のポーション>を!」


 素人目に見ても、ロリーナの傷は深かった。

 心臓をひと突きだ。

 助けられるのか? 安物のポーションで!


「よい……。アイテムの無駄じゃ」


 ロリーナは静かに首を振った。

 それは自分の死期を悟っている者の顔だった。


「そうだ、大賢者パーシェンの治癒魔術なら……! あいつは食いちぎられた自分の腕を一瞬で治していた!」


「今から探しても間に合わないじゃろ……。それに……、あやつに貸しを作るべきではないと……妾は思うぞ」


「でも、このままだとロリーナさんが!」


 真っ赤な鮮血が、ロリーナの胸元からどんどん服に広がっていく。


「ラミリィか……すまんのう。せっかく買ってもらった服を、汚してしまった……」


「服なんて、どうでもいいじゃないですか! そんなことより、ロリーナさんが死んじゃいます!」


 ロリーナは静かに笑った。


「いまの言葉、確かに聞いたからの? 後でやっぱり服は弁償なんて言ってもダメじゃぞ……?」


「あたしは服よりも、ロリーナさんのほうが大切です!」


「出会ったばかりの妾のために、涙を流すのか……まったく、お人好しじゃな。お人好しついでに頼まれてほしいのじゃが……痛みが強くなってきた……できたら、おぬしらの手で介錯してほしい…‥」


「介錯って、あたしたちの手でロリーナさんを殺せって言うんですか!? そんな……そんなの、残酷すぎます!」


「ロリーナ、諦めるな!」


「いや、そうじゃなくて……言ってなかった妾が悪いのじゃが……ガフッ! く、苦しい……」


 ロリーナはついに吐血した。

 肺に溜まった血が溢れ出てきたのだ。


「苦しいから……早く……殺して……」


「くそっ! ゴメスダめ、よくもロリーナをこんな目に合わせたな! 見逃すべきじゃなかった! 絶対に許さんぞ!」


「いや……そういうのいいから……ひと思いに……」


「ロリーナさん! 出会ったばかりなのにお別れなんて、あたし嫌です!」


「ラミリィ、実は妾は……ガフッ! ゲフッゲフッ!」


 もはやロリーナは喋ることもままならない。

 もうじきロリーナは死ぬだろう。

 なんということだ。


 俺たちが悲しみと後悔に包まれている時。

 いきなりロリーナがキレた。


「お前らがお人好しなのは分かった! もういい……、妾は自分でやる! 文句は後で聞くからのう!」


 そして自分の胸に突き刺さっていた剣を引き抜くと、それを自分の首に当てて、一気に切り落としたのだ。

 ポロリと、ロリーナの首から上が落ちる。


「え……?」


 何が起きたのか分からず俺たちが困惑していると、さらに奇怪なことが起きた。


 落ちたはずのロリーナの首が、ふわりと浮き上がり、また胴体とくっついたのだ。

 さらには、飛び散ったはずの血液が、胸元の傷口にどんどん戻っていく。


「なんだこれ……巻き戻っているのか!?」


 ついにはロリーナの体が光りに包まれる。

 そして、光が止んだとき、そこにいたのは……みすぼらしい姿のロリーナだった。

 ボロボロの服に、くすんだ灰色の髪。

 出会った時とまったく同じ姿だ。


「12歳のこの時。妾はなぜかこのような姿で荒野を彷徨さまよっておった」


 そう言うロリーナの傷は、きれいサッパリ無くなっている。

 その時俺は、ロリーナの噂を思い出した。


 死神少女。

 パーティーが全滅しても、1人だけ帰ってくる。

 見た目は少女だが、15年以上は生きている。

 そういうことだったのか。


「そして、妾が命を落とした時……なぜか時が巻き戻り、肉体は12歳のこの時の姿になるのじゃ! 理由はまったく……妾にも検討はつかんがな」


 ”天啓”の無いこの少女には、とんでもない能力が備わっていた。


 自動蘇生。

 ロリーナは不死身なんだ。

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