042話 黒衣の戦士団の悪事
魔族の気配を察知するという<冥府への道標>は、壊れてからはピクリとも動かなくなった。
奇怪なことは起きたが、結局それが何だったのかは分からない。
俺たちはとりあえず、依頼が失敗になる前に薬草を届けることにした。
そうして街に戻り、依頼主の素材屋の店までやってきた。
そこは、見覚えのある店だった。
「あんたら、前に魔物の素材を持ち込んできた連中か」
俺とラミリィがダンジョンから帰還した日に、魔物の素材を売った店だ。
「依頼にあった薬草を届けに来た。確認してくれ」
俺は<アイテムボックス>から採取した薬草を取り出して並べる。
素材屋の店主は気まずそうにそれを見ていた。
なんだろう、漏れなく集めたはずだけど。
「すまないっ! 今月のみかじめ料は見逃してくれないかっ!」
突然、店主が頭を下げ始めた。
「待った、何のことだ? 俺たちはみかじめ料なんて求めてないぞ!」
「あんたら、<
店主は不思議そうに俺たちを見た。
どうしてここで<
妙な感じがしたので、俺は店主から詳しく話を聞いた。
「あいつら、自分たちで素材ポイントを独占して、俺たち素材屋にふっかけてくるようになったんだ」
なんでも、ここ1年で<
奴らは人海戦術で素材ポイントを占拠し、素材収集の
そしてあろうことか、奴らは自分たちが素材収集の
これからも素材をダンジョンから持ってきて欲しければ金を払え、他の冒険者に頼んでも無駄だぞ、と。
そういえばこの店主、初めて会った時に「最近はいい素材を手に入れるのが大変になってきてる」と言っていたな。
あれは<
「とんでもない話だな……<
俺の中で、あいつらの印象が変わった。
あいつらは人の邪魔をする厄介な同業者程度ではない。
<
「分かった、あいつらは俺が潰す」
「気持ちは嬉しいが、止めておいたほうがいい。<
「議長と……? <
「兄ちゃん……冒険者に何を憧れているのかは知らないが、やつらはしょせん街のゴロツキさ。最も強い暴力を振るえるやつが、その土地の支配者になる。それがこの街では冒険者だった、これはそれだけの話なんだ」
素材屋の店長は諦めたようにため息をついた。
「俺が冒険者に憧れたのは、人々を守ろうとする気高き精神に尊敬したからだ……! その冒険者が力なき人々を脅して金を巻き上げるなど、断じて許せないっ!」
「カイさん……」
「より強い力を持つ者が支配者になるだと? ならば思い知らせてやる! やつらが悪用した、強い力で完膚なきまでに叩き潰してやる!」
俺は店から飛び出そうとする。
けれども、それをロリーナが引き止めた。
「ならばこそ、おぬしは怒りを抑えるべきではないかの?」
「ロリーナ?」
「ここで力任せにヤツらを潰せば、おぬしは犯罪者となる。正しき道から外れた者を
ロリーナに諭されて、俺は怒りをおさめた。
「……すまない、俺はパーティーのみんなに迷惑をかけるところだった」
「気落ちするでない。おぬしの志は立派なものじゃ。町民を脅す
頭が冷静になって、つい怒ってしまった理由にも見当がついた。
俺は勝手に、冒険者が清く正しい人間であることを期待してしまっていたんだ。
ドズルクやチーザイのような、どうしようもないクズだっている。
いやむしろ、自分のことしか考えていない人間のほうが多いのではないか。
暴力で金を稼ぐ
「そうだな、俺たちの進む道が正しいってことを、正しいやり方で思い知らせてやろう」
少しばかり寂しい気持ちになりながら、俺は素材屋を後にした。
ロリーナには感謝しないとな。
俺は怒りに任せて破滅するところだった。
例えばそう──
「あのー、さっきここで上質な怒りの感情が取れそうな気配があったんだけど、何か知らなーい? ってゲェ! クソ人間じゃん!」
怒りの感情を好む魔族に付け込まれたりとか。
案の定、いきなり出てきたし。
「メルカディアか……人の顔を見てゲェとはなんだ。というか、人間に迷惑はかけるなって言っただろ」
「な、何よ! 迷惑はかけてないわよ! それにあんたのせいで、今日は赤字なんだからね! まだ前回のローンも残ってるのに、新たに魔物なんか作らせて……!」
「おっとそれ以上喋るな。俺に協力してくれたことは感謝してるよ、ありがとう」
「別にあんたに感謝されたくてやったわけじゃないわよ! 勘違いしないでよね、このクソ人間!」
メルカディアはそれだけ言うと、走り去っていった。
あいつ、本当に人間には迷惑かけてないんだろうな?
念の為にメルカディアの去りゆく姿を見守った。
見た感じだと、真っ直ぐ宿に戻るようだ。
案外、
そんなわけでメルカディアに意識が向いていたから、俺はすぐには気づかなかったんだ。
俺たちの背後に迫りくる影に。
「ともかく、これで依頼は1件成功ですね!」
「ああ。それに、<闇討ちのゴメスダ>との勝負は俺たちの勝ちだ。今後は<
「ふむ……。あの手のやからが、そう簡単に諦めるとは思えぬがな……。むしろ向こうが強攻策に出るやもしれん。しばらくは警戒していたほうが……ガフッ!」
ロリーナは言葉を途中で止めた。
それは、一瞬の出来事だった。
「まさか……もう来るとは……じゃが……やられたのが、妾でよかった……」
ロリーナの胸から、刃が突き出ていたのだ。
的確に心臓を貫いた
そして俺たちは、死神少女の名の理由を知ることになる。
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