037話 死神少女は生き残る


 俺たちの仲間に加わりたいと言ってきた少女は、ロリーナと名乗った。


「えっと、ロリーナ。仲間になりたいって言ってくれるのは嬉しいんだけど、その前にまず色々と確認したい。君は本当に大人なのか?」


「ふむ、哲学的な問いじゃな。何をもって大人とするか次第じゃが、この国で成人として認められている15歳はとっくに超えておる」


 ロリーナはあっけらかんと言った。

 言い方からは嘘の気配は全く無い。


「えっと、君が大人だという話は信じるとして、本当に冒険者なのか? ランクは?」


「Eランクじゃ。おぬしらと同じじゃな。あいにく、階級を示すプレートは紛失してしまったところじゃがのう」


 それとなしに受付嬢のサイリスさんに視線を移す。

 俺の視線に気づいたサイリスさんは静かにうなづいた。


「カイ君、その人がEランク冒険者だというのは事実です。というかロリーナさん、また失くしたんですか。いい加減にしてください。あれは身分証明書も兼ねてると何度も説明しましたよね」


 無表情ながらもサイリスさんの言葉には怒気が込められている。

 どうやら、本当に冒険者らしい。

 そうは見えないぐらい華奢きゃしゃなんだけども。


「冒険者なのも分かった。だけど、こう言っちゃなんだけど……なんで俺たちを選んだんだ? さっきの<黒衣の戦士団ブラックウォーリアーズ>とのやりとり、見てなかった訳じゃないだろ?」


 誰もが俺たちを避けていたときに、ロリーナは話を持ちかけてきた。

 何か裏心があるか、全く空気が読めてないかのどちらかだろう。


「それはじゃな……なんと言ったらよいかのう……」


 そしてどうやら、裏心のほうみたいだ。

 ロリーナは言いにくいことがあるようで、あからさまに言いよどむ。


 そんな時、俺たちの様子を見ていた冒険者たちの会話が耳に入った。


「おい、見ろよ。死神少女がカイに絡んでるぜ。どうなるか賭けてみないか」


「おいおい、それじゃ賭けになんねぇだろ。<黒衣の戦士団ブラックウォーリアーズ>に目をつけられたEランクの駆け出しと、死神少女の組み合わせだろ? 誰だって破滅するほうに賭けるぜ」


 死神少女?

 ロリーナのことか?


 会話をしていた冒険者のほうを見ると、視線に気づいた冒険者たちは「やべっ」と言いながら顔をそらした。

 あの様子だと、あいつらから聞き出すのは無理そうだな。


 俺の疑問は、受付嬢のサイリスさんがすぐに解消してくれた。


「死神少女というのは、ロリーナさんの二つ名です。これまでロリーナさんが加わったパーティーはことごとく壊滅。そして毎回、ロリーナさんだけが生き残ることから付いたらしいです」


 サイリスさんの話を受けて、ロリーナは諦めたように肩をすくめた。


「そんなわけで、不名誉なあだ名を頂いてしまったのじゃ。おかげで今じゃ疫病神あつかいでな。新たなパーティーを探すのも一苦労じゃ」


「ちょっと前に俺が仲間を探したときは、フリーの冒険者はいないって話だったんだが」


「……また、全滅したのじゃよ。妾以外、全員な。またフリーになってしもうた」


 間違いない。

 このロリーナという少女、何かある。

 死神少女と呼ばれるようになった、何かの理由が。


「弱みにつけ込むようなマネをして悪いが、おぬしらのような仲間探しに困っている連中でないと、入れてもらえるパーティーがもう無いのじゃ。おぬしらでもダメなら、妾は別の街に移る。まあ元より流れ者じゃからな、気にするでないぞ」


「ロリーナさんは、この街の生まれじゃないんですか?」


「うむ。記憶が無いもので、どこの生まれかは分からんがのう。ともかく、流れに流れて、この街にたどり着いたのじゃ。まあ前の街でも居場所がなくなったからの。いつものことと割り切っておるよ」


 ロリーナの境遇が琴線に触れたのか、ラミリィがいつになく強気になった。


「カイさん、あたし、この人を助けたいです! 事情はあるみたいですけど、仲間にしてあげましょうよ!」


「ああ、いいよ」


「死神少女だなんて言われてのけ者にされて、かわいそうです! ワガママ言ってごめんなさい! でも、カイさんなら分かってくれますよね!?」


「だから、いいって」


「えっ、あれ。いいんですか? てっきりカイさんは反対するものだとばっかり……」


「事情はだいたい分かったからね」


 それに弱みにつけ込むのはお互い様だ。

 俺たちは<魔法闘気>を主軸にして戦う必要がある。

 仲間として一緒に戦う以上、隠し切るのは不可能だろう。

 それならば他に行き場のない、孤独な人間のほうが秘密を漏らさずに済む。


「これからよろしく。俺はカイ・リンデンドルフだ」


「ラミリィ・クーレルハイムです」


「リンデンドルフ殿に、クーレルハイム嬢じゃな。こちらこそ、よろしくたのむ。飯にありつければ、妾としては他に希望はない。報酬の分配や妾の使い方などは、好きに決めてくれたもれ」


 慣れた感じでロリーナは言った。

 きっと色んなパーティーを転々として、何度も似たようなやり取りをしたのだろう。

 とりあえず、呼び名についてはカイとラミリィでいいと説明した。


 そうして俺たちはロリーナを仲間に加えた。


「さて、まずは互いの能力を把握しようか」


「何を言ってるんですか、カイさん! その前にやることがありますよ!」


 ラミリィはロリーナをガシッと掴んだ。


「オシャレです! 女の子に、こんなボロボロの格好をさせておくわけにはいきません!」


 ラミリィの提案に、ロリーナは目を見開いて驚いていた。


「いや、妾は別にこれでいいのじゃが……」


「自分に自信がないと、だんだん見た目を取り繕うのも面倒になるんですよね、分かります! でもロリーナさんは、素材がいいので絶対に映えるんですよ! こんな格好をしているのは世界の損失です! あたしに任せてください!」


 ラミリィが燃えていた。

 そうしてラミリィは前回稼いだお金を使い込んで、ロリーナに服を買い与えた。


 買い物の最中、ロリーナはずっと服を新調するのに消極的だった。

 ラミリィやメルカディアがファッションにこだわるタイプなのか、それともロリーナが無頓着すぎるのか、男の俺には分からなかった。


 まあラミリィが楽しそうだったので、よしとするか。

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