030話 メスガキ魔族のメルカディア
ラミリィの大技によって長い戦いに決着がついた。
そのラミリィは、自分の放った技の威力に驚いているようだった。
「うそ、これ……本当にあたしが?」
チーザイが死んだことで、<
ディーピーは傷だらけになりながらも、フェリクスを口で咥えていた。
きっと射線の近くにいたから、引っ張り出してくれたのだろう。
フェリクスは意識を失ってはいるが、無事なようだ。
「まったく、お嬢ちゃんは容赦がねえな。俺様がいなかったら、こいつも巻き込まれてたかもしれねぇぞ」
「あはは……初めてだったので、加減が分からなくてですね……」
「しかし、お前らが魔族の使徒を相手に勝てるとはな……さすがのディーピー様も驚いたぜ」
といった感じで戦勝ムードだったところに、ピシャリと冷たい発言が飛び込んだ。
「あーあ。メルつまんなーい」
これまで戦いを静観していた、魔族のメルカディアだ。
「せっかく”寵愛”までつけたのに、あのお兄さん負けちゃうんだもん。まったく生意気な人間たち。メル、結構オコだよ?」
「このディーピー様も忘れていたぜ。まだ、とんでもないやつが残っていたことをよぉ……。おい、絶対にこいつの言葉に惑わされて怒るなよ! こいつは人間の怒りの感情を糧にする魔族だが、同時に怒っている人間を操ることができるんだ!」
そういえば魔族メルカディアは登場したときに、俺を操るとか言っていたな。
チーザイもこの魔族に何かされてから、どこか様子が変だった。
魔族は相手の感情次第で様々なことが出来るみたいだ。
「プークスクス。あんたたちみたいな人間と魔物が、メルと戦って勝負になるわけないじゃん。何を思い上がってるの?」
魔族メルカディアは子供のように無邪気に
なるほど、そうやって相手を挑発して怒らせれば、その時点でメルカディアの勝ちになるのか。
だんだん、魔族との戦い方を理解してきた。
「……あれ? そういえば、<魔法闘気>を使うお兄さんはどこにいったの? もしかして、ちっちゃくなって死んじゃったとかぁ? まあ、そうなるよね。あのお兄さん、<魔法闘気>以外はてんでダメそうだったもん」
「カイさんのことを悪く言わないでください!」
「お嬢ちゃん、心を沈めろ! 俺様の言ったことを忘れたのか! 怒ると操られるぞ! でも、カイのやつは本当にどこにいったんだ!?」
「やっぱり死んじゃったんじゃないの~? あんたたちは全員、メルに指一本触れられることなく、死んでくんだよ。必死に戦ったのに、残念だったね~」
隠れていたつもりではないのだけれど、会話の流れがよくないので姿を現すことにした。
俺は魔族メルカディアの肩に手を置いて、気さくに挨拶をする。
「よっ、挨拶の返事がまだだったよな。ママに聞いたぞ、魔族は挨拶が大切なんだろ? 俺はカイ・リンデンドルフ。よろしくな」
「……は? ちょっとまって、なんであんた、メルの後ろにいるのよ!?」
「みんながチーザイと戦っている間に気配を消して近づいたんだ。あいつは俺たちを尾行していたとき、小さくなって気配感知から逃れてたみたいだからな。俺も小さくなったんで、マネさせてもらったよ」
俺たちが気配感知をしてもチーザイの気配をつかめなかったのは、あいつが途中で小動物みたいに小さくなったからだ。
気配感知で分かるのは動いているものの存在と大きさだけ。
小さくなった人間なのか、それとも小動物や昆虫なのかなんて区別がつかない。
だからチーザイは堂々と俺達を監視できたんだ。
その時と同じ方法で、密かにメルカディアの背後まで回った。
そしてチーザイが死んだことで、俺も元の姿にもどったというわけだ。
「そうじゃないっ! 人間風情が、気安くメルに触らないでって言ってるの!」
俺に触られたことで、魔族メルカディアは激昂した。
その様子を見ていたディーピーが心配そうに叫んだ。
「カイ、気をつけろ! その魔族、自分が怒ることでも力を得られるようだ! すぐに離れろ! 何をされるか、わかんねえぞ!」
基本的な実力は人間よりも遥かに上。
不利になると怒ってパワーアップ。
そして相手が怒ったときは操れる。
まとめると、結構ズルい能力を持っているな、こいつ。
「いーや、もう遅いわよ! まずはこの人間を八つ裂きにして、それから残りを弄んであげるっ!」
「俺は離れる気なんてないぞ。むしろ逆だ、近づく! 捕まえるねっ!」
──<魔法CQC>36手が一つ、捕縛!!
機敏な動きで、俺は魔族のマーナリアを捕まえる。
<魔法CQC>の捕縛は絶妙な体勢で相手を捕まえるので、力量差があっても簡単には逃げられない。
「ウソっ、これは<魔法CQC>!? な、何よっ! メルに何をするつもり!?」
魔族の扱い方がだんだん分かってきた。
魔族は、自分の探し求める感情からは逃れられない。
体が小さくてすぐにお腹が空くネズミが、危険だと分かっていても常に餌を探して動き回らないといけないのと同じように。
「お前は人間を操って俺たちにけしかけた。それは悪いことなんだ。だからお仕置きが必要だな」
魔族メルカディアをうつ伏せにして抱きかかえる。
「こ、こんな格好をメルにさせて、一体何をするつもりなの!」
「教えてやろう。お尻ペンペンだ」
「……は?」
ぱぁん!
メルカディアが気の抜けた声を出したところで、いい音を一発。
そういえば俺や妹も悪さをしたときはこうやって、母さんにお尻を叩かれたもんだ。
「ふ、ふざけないでよ、この人間が! あんたの攻撃なんて、メルの<魔法闘気>の前ではまるで無力なんだから。ノーダメージよ、こんなの!」
「そうかもしれないな。でも、こうやって人間なんかにお尻ペンペンされている今のお前は、すごく情けない姿をしてると思わないか?」
「キィ~~~!! 許さないんだから!!!」
自分のあられもない姿を指摘されて、メルカディアはカンカンに怒る。
けれども、魔族の圧倒的な力を使って抜け出そうとはしない。
メルカディアの気が変わらないうちに、もう一度お尻を叩く。
ぱぁんと、乾いたいい音が鳴り響いた。
思ったとおりだ。
メルカディアの目的は、怒りの感情を採取することであって、人間を殺すことではない。
そしてこの魔族は自分が怒ったときでも力を得られるというのなら。
わざと、この魔族を怒らせればいい。
母性派魔族のマーナリアをママと呼んで態度を変えさせた時と同じだ。
このメスガキ魔族のメルカディアも、望むものを与えられている間は悪さができない。
更にお尻を叩く。
ぱぁん!
音を大きくしているのはワザとだ。
なるべくメルカディアが羞恥と怒りの感情を湧くようにしている。
「な、なによっ! 人間のくせにっ! 人間のくせに~~!! よくもメルを~~~!!!」
口では怒っているが、体は素直に俺の平手を受け入れている。
完璧に狙い通りだ。
だけど、ふと気づいてしまった。
今の俺は、魔族メルカディアを怒らせて、どんどん力を与えている状態なわけだ。
これ、お尻ペンペンを中断したら、俺は殺されるんじゃないか?
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