027話 弓使いラミリィは当たらない①
[ラミリィ視点]
「くそっ、よくもやったな、このガキ……!」
チーザイは切られた側の足を引きずりながら、カイさんと距離を取る。
「逃がすかよっ!」
カイさんは機敏な動きで間合いをつめようとする。
だけど、互いの大きさが違いすぎた。
カイさんの間合いからチーザイが離れるほうが早かった。
「バカが、元のてめぇがどんなに素早かろうと、その小ささだと遅くなるんだよ! そして理解した。俺はもう二度とてめぇには近づかねえ。遠距離攻撃なら俺のほうに
いつのまにか、チーザイはその手に砂利を握っていた。
そしてそれらを、あたしたち目掛けて一斉に投げつけた。
砂利といえども、今のあたしたちの大きさだと、1粒1粒が岩のように大きい。
「どうだっ! ちっちゃなお前らには岩石の嵐に見えるだろうっ!」
「それがどうしたっ!」
カイさんは素早い動きで、投げつけられた無数の石を次々に真っ二つにしていく。
だけど、チーザイを倒すために前に進むどころか、あたしを守るために戻ってきてしまった。
もう、チーザイとの距離は霞むくらい遠い。
「いつまでそうやって岩の嵐を絶えられるかな? 女を守りながら、俺のところまで、その
チーザイの挑発にも乗らず、カイさんはあたしの前に立っている。
あたしを守るために。
「ごめんなさい、カイさん。あたしが足手まといなせいで……」
「それは違うよ、ラミリィ」
カイさんは優しく言ってくれた。
だけど、ここまで戦いが長引いている理由は、あたしが一番分かっている。
だから、言わなくちゃ。
あたしを見捨てて、勝ってくださいと。
けれども、あたしが言葉を出すまえに、更に状況が悪化した。
「てめぇら何かブツブツ言ってるようだけど、ちっちゃすぎてここまで声が届かねえぜ! 命乞いなら態度で示してみろっ!」
あたしたちの周りには、カイさんが切り裂いた石が散らばっている。
このまま耐え続ければ、いつか相手の石が尽きるんじゃないか。
あたしは淡い期待を抱いたけど、その希望は儚く散った。
チーザイという男は、予想以上に狡猾だった。
「そして、俺が投げた小石が、ただの砂利だと思ったか!? それら全部、本当はもっと大きな岩だったんだぜぇ~!! スキルで小さくしていたのさっ!」
「何っ!? ラミリィ、伏せろっ!」
「俺が岩を一斉に元に戻せば、お前らは今度こそペシャンコだ! 潰れろ! 岩にかけた<
重たい音とともに。
一瞬で、目の前が真っ暗になった。
それからあたしは、周囲に散らばっていた岩が本来の大きさを取り戻して、あたしたちを押しつぶしたんだと理解した。
そして、それでもなお自分が生きている理由も、分かる。
「カイさん……また、あたしを庇って……」
「とっさに剣をつっかえ棒にして隙間をつくった。俺は無事だよ。だけど、この剣ではもう戦えなさそうだ……」
暗さに次第に目がなれて、あたしはひしゃげて使い物にならなくなったショートソードを目の当たりにした。
「カイさん、ほかにカイさんの武器はないんですか……?」
カイさんは静かに首を横に降った。
「俺の武器は、あとは拳だけだ。けれど、この小さな体だと、<魔法闘気>の拳だけでチーザイを倒し切ることはできない。<魔法闘気>の力を乗せた武器で、あいつを攻撃する必要がある」
「だけど、そういうことだと……カイさんの武器が無いんじゃ……もうカイさんはあいつに勝てないってことに……」
「いいや、それは違う。
カイさんはそう言って、あたしの矢筒から矢を取り出した。
そしてカイさんの握る矢が、オーラをまといはじめる。
先程チーザイの足を切り落としたカイさんの剣と同じように。
「矢に<魔法闘気>をまとわせる。あいつのスキル<
「カイさん、もしかして……」
「そう、君がやるんだ。ラミリィ。俺は最初から、君が足手まといだなんて思っていない。最初から、君を頼るつもりだった。本当は、それを伝えるために君を追ってきたんだ。隙を見てあいつのスキルの範囲から逃れて、そこから矢であいつを攻撃するんだ」
「で、でも、カイさんだって知っているでしょう! あたしの攻撃は当たらないって! それにもし、カイさんに攻撃があたったら……」
「当たるか、当たらないかじゃない。当てるまでやるんだ。それに好都合なことに俺は小さくされてるからな。
その目は確かに、あたしを信用している目だった。
不思議と、その目を見ていたら、活力が湧いてきた。
「……分かりました。やります。あたし、やってみせます!」
あたしは力強くうなづいた。
そして、強化された矢を矢筒に可能な限り詰め込んで、岩の隙間から抜け出した。
手持ちの矢は16本。
チャンスは16回。
最弱モンスターの<プチ>にすら攻撃を当てられないあたしが、たった16回でチーザイを狙撃しなければならない。
それ以外に、勝ち目はないのだから。
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