013話 事情聴取


 俺とラミリィ、そしてディーピーは、受付嬢のサイリスさんに連れられて、冒険者ギルドの応接間にまでやってきた。


「それではギルド長を呼んでまいりますので、この場でお待ち下さい」


 サイリスさんは普段通りの無表情で俺たちに告げると、奥の部屋へ入っていった。

 ここでの会話を乗り切れるかが、俺にとって今回の騒動の山場となるだろう。


 ルールは簡単。

 俺が魔族のマーナリアと関わったことを隠し通せば勝ち。

 だがここには、嘘を見破る嘘発見器がある。


 ラミリィが緊張した様子で、テーブルの中央を指差した。

 それこそがまさに、正式名称が<真実の瞳>である嘘発見器だ。


 絶妙にダサい、目をモチーフにした意匠が入っていることと、嘘を感知すると「嘘発見!嘘発見!」と珍妙に鳴く緩さ加減から普段はバカにされがちだが、今日このときばかりは威圧的な存在感をだしていた。


 というかラミリィ、ガチガチだけど大丈夫なんだろうか。

 焦って変な行動を取らなければよいが。


 しばらく待つと、奥の扉から再びサイリスさんが現れた。

 だが、ギルド長の姿はない。

 たしかギルド長を呼びに行ったのではなかったか。


「お待たせしました」


 サイリスさんは俺たちとテーブルを挟んで向かい側、本来であればギルド長が座る場所に腰かけると、これまたいつもの無表情で言葉を続けた。


「毎度の口上ではありますが、この<真実の瞳>はこの場にいる者のいかなる嘘をも見抜きます。冒険者ギルドはこの装置が常に正しいという前提のもとで判断を行います。あなたたちが真実にして善なる言葉のみを口にすることを期待します。それでは、よろしいですね?」


 仰々しい言い方だが、いつもの「お前ら嘘つくんじゃねーぞ」ぐらいの定型句なので気にせずに、思ったことを口にしてみる。


「サイリスさん、その前にちょっと聞いていいですか? 今回はギルド長には話をしなくてもいいんですか?」


「ええ、ギルド長はずいぶんと立て込んでいるようでしたので。誠に不本意ですが、ギルド長に頼まれて私が代役を務めることになりました」


「嘘発見! 嘘発見!」


 突然の嘘発見器の鳴き声に、ラミリィがビクッと大きく体を揺らした。

 その様子をサイリスさんが見逃しているはずもなく、いきなり疑いの目を向けた。


「なんですか、ラミリィさん。今の反応は。何かやましいことでもあるのですか?」


「い、いやー。なんなんですかねー」


 言い訳ヘタクソか?

 だがそれはそれとして、今の嘘発見器の反応、明らかにおかしかった。


「それより、今の嘘発見器……じゃなかった、<真実の瞳>、サイリスさんの発言に反応しませんでした?」


「なるほど」


 サイリスさんはしばらく指で机を叩いた後、事も無げに言った。


「そうだったかもしれませんし、そうではないかもしれません」


 うわー。ふわっふわ。

 この人、なんか急に発言がふわっふわだよ。


「そんなことよりも、カイ君。あなたは現在、書類上では死亡した扱いになっており、このままではいかなるクエストも受けられません」


 やはり俺は死亡したことになっているようだ。

 ギルドの規定だと、ダンジョンに出向いた後に3ヶ月以上音信不通となった冒険者は死亡扱いになる。


「これを撤回するには、姿を見せなかった1年間、どこで何をしていたか正確に説明しなければなりません。教えていただけますか?」


「そうですね、どこから話したものか……」


「ちなみにこれは業務上必要だから確認するだけであって、別に私がカイ君のことが心配だったから聞くわけではありませんので、勘違いしないようお願いします」


「嘘発見! 嘘発見!」


 嘘発見器が反応した瞬間。

 サイリスさんは凄まじい速さで、嘘発見器をバンッと叩いた。

 今回もまたラミリィがビクッと反応したが、それはどちらかというとサイリスさんの奇行に驚いたからだろう。


「あのー、サイリスさん?」


「なるほど」


 サイリスさんはしばらく指で机を叩いた後、事も無げに言った。


「そうだったかもしれませんし、そうではないかもしれません」


 だからどうしたの、この人!?


「ともかく、話を進めましょう。私がカイ君のことをどう思っていたかなんて、今この場では関係のないことです」


「嘘発見! 嘘発見!」


 バンッバンッ!


「……サイリスさん?」


「なんですか。カイ君には、私がギルド長に頼み込んで事情聴取の役を代わってもらい、無事に戻ってきてくれたカイ君との1年ぶりの会話を楽しもうとしてる、公私混合のクソ女に見えるとでも言うのですか?」


「いえ、別にそこまで言ってるわけでは……」


 俺がそう言うと、サイリスさんは即座に嘘発見器に目を落とす。

 そして何も反応がないことを確認すると、勝ち誇ったような顔を浮かべた。

 いや、いつもと同じ無表情のはずなんだけど、俺にはサイリスさんが勝ち誇っているように思えたんだ。


「ほら、どうですか。嘘発見器に反応はありません。これはつまり私が公私混合していないと証明されたと言っても過言ではありませんね。つまり、この私に後ろめたいことなど何もないのです」


「嘘発見! 嘘発見!」


「なるほど」


 サイリスさんは小さくため息をついてから、事も無げに言った。


「この装置壊れてますね」


「サイリスさーーん!??」


「鬱陶しいだけなので、オフにしましょう。そのほうが話しやすいですから」


「装置が常に正しいって前提はどこいったんだーーーー!!???」


 そうしてサイリスさんは、嘘発見器をカチカチといじって、その効力を消した。

 つまりはもう嘘発見器は作動しない。

 予想外の展開に、俺は思わずラミリィと目を見合わせた。


 あれ、これってもしかして……

 事前にした打ち合わせ、全部無駄だった?

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