お隣に、学校一の清楚可憐な『盲目美少女』が引っ越してきました~恋愛不信であるはずの俺が、隣人付き合いをしているうちに君に恋してしまうのは時間の問題かもしれない~
第82話 お隣さんとイメージチェンジ②
第82話 お隣さんとイメージチェンジ②
今日は少し早めの昼食を取ったあと、紗夜がどこかへ出掛けて行った。
だいぶ目が見えるようになってきたとはいえ、やはり景色がぼやけて見えることに変わりはない。
一人で行かせるのはどうかと思って俺も同行しようと思ったのだが――――
『もう、颯太君は過保護すぎですよ。お留守番よろしくお願いしますね?』
といった感じで断られてしまった。
確かに、いくら恋人関係で好き同士だと言っても、いつもいつでも一緒にいると狭苦しく感じてしまうのかもしれない。
ときに一人の時間も必要か……と、そんなことを考えてしょっぴり悲しい気持ちになりながら、春休みの宿題の残りをやる。
ただ、こうして一人で紗夜の家にいるというのは妙な気分だ。
紗夜が出掛けるのであれば、俺はその間自分の家に戻っていた方が良い気がするが、紗夜が『お留守番よろしくお願いしますね?』と言っていたので、ここに留まれということなのだろう。
「ってか、相変わらず無防備なのな……」
彼氏とはいえ、自分がいないときに居座られるのは嫌ではないのだろうか。
勝手に何かされるのでは――なんて、まぁ思わないんだろうな。
俺もそんな紗夜の信頼を裏切りたくないから、実際何もしないのだが。
時々窓の外から、近隣住民や通りすがりの人の話し声が聞こえてくるが、基本的に部屋は無音。
いつも紗夜とソファーでくつろいでいるときに沈黙が生まれることがあるが、あれはあれで心地良いものだ。
しかし、こうして一人でいるときの静けさは、少し寂しさを感じてしまう。
紗夜が出掛けてから、宿題をして過ごすこと約一時間半。
玄関の扉のカギが解錠される音がした。
「ただいま帰りました~」
「あ、お帰り~」
紗夜の声を聴いただけで、先程までの寂しさはどこへやら。
少しニヤついてしまうほどに嬉しく感じるのは、自分でも呆れるほど紗夜が好きだからなのだろう。
廊下から足音が近付いてきて、リビングの扉が開けられた。
俺はそちらに振り向き、改めてお帰りを言おうとした――――
が。
喉元で言葉がつっかえて、ただただ驚愕して開いた口が塞がらなくなった。
白い肌に楚々と整った顔。大きな瞳は榛色で、紗夜であることに間違いはない。
しかし――――
「えっと、私もイメチェンというか……髪、切ってきました」
ということだ。
いつも腰辺りで揺れていた黒髪が、肩を過ぎて肩甲骨辺りで切り揃えられている。
もちろん前の髪の長さの紗夜も好きだが、こうして髪を切ると、雰囲気に涼やかさが加わった感じだ。
「あの、どうですか……? 変じゃないですか?」
「まさか。凄く似合ってるぞ」
「ほ、ホントですかっ?」
「ああ。綺麗だ」
えへへ、と紗夜がとろけたような微笑みを浮かべて、形が整えられた前髪にサッと触れる。
「これで揃ってイメチェンですね?」
「まぁ、そうなるな」
これで春休みが開けて学校に行ったとき、一体どんな反応をされることか。
誰も俺のことなんて見ていないだろうが、紗夜が髪を切った姿を拝もうとする生徒達が群がってきそうだな。
「ところで……颯太君は宿題を終わらせていたのですか?」
「ああ」
「終わりましたか?」
「もうちょっとってところだな」
紗夜はそう言ってリビングテーブルに広げていた俺のテキストを覗き込む。
髪が垂れないように、横髪を耳に掛ける仕草。
俺はそんな姿を真横から見ていたものだから、その色っぽさをもろに感じてしまった。
気付けば、手が紗夜の耳に伸びており、指先でちょこんと触れてみた。
「みゃぁ――ッ!?」
相変わらず過敏な反応を示す紗夜。
俺はその飽きない反応があまりにも面白くて、笑いながらソファーに深く座り込んだ。
紗夜も俺の右隣に腰を掛けつつ、「もう!」と不満げに口を尖らせてくる。
「耳はダメって言ってるじゃないですか~!」
「すまんすまん。無性に触りたくなって」
「まったく颯太君は……そんなに耳が好きなんですか?」
「何か、耳って可愛くないか?」
「よくわかりませんが……」
不思議そうに首を傾げた紗夜が、俺の横顔に手を伸ばして来たかと思ったら、そのまま優しく耳たぶを摘まんできた。
「……あ、結構楽しいかもです」
「だろ?」
紗夜が触って来てるんだから俺も良いだろうと思って、改めて紗夜の耳に手を伸ばすが、紗夜がジト目で睨んできた。
「俺だけダメってずるくないか?」
「だって私、耳弱いんですもん」
「知ってるから余計触りたいんだが」
「いじわるしないでください」
紗夜が俺の鼻先を指で突いてきた。
まぁ、しつこく迫るのもどうかと思うし、俺は「わかったよ」と答えておく。
しかし、俺が引っ込めようとしていた手を掴み、自分の頭の上に乗せた。
「これは……撫でろと?」
「それ以外にないですよ?」
「頭は良いのに耳はダメってよくわからんな」
「頭を撫でられてると落ち着きます……でも……」
「でも?」
紗夜がほんのりと顔を赤く染めて、それを隠すように俺の身体の横に顔を埋めてきた。
ついでにグリグリしてくるのは、特に深い意味はなさそうだ。
しばらく黙り込んでいた紗夜が、籠った声で呟いた。
「耳は何だか……ドキッ、へにゃぁ、うずうずってします」
「さ、さっぱりわからん!?」
「と、とにかく! ダメなものはダメです! 触るなら、もうちょっと……ムードのあるときに……」
「ん?」
後半になるにつれて小声になってしまったのでよく聞き取れなかったが、紗夜が良いから撫でてくださいと言わんばかりに頭を寄せてきたので、俺は美容室帰りでいつもよりサラサラ感が増している紗夜の髪を堪能しながら、紗夜が満足するまで撫で続けた――――
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