お隣に、学校一の清楚可憐な『盲目美少女』が引っ越してきました~恋愛不信であるはずの俺が、隣人付き合いをしているうちに君に恋してしまうのは時間の問題かもしれない~
第81話 お隣さんとイメージチェンジ①
第81話 お隣さんとイメージチェンジ①
俺と紗夜は、デートをした日から二日後の朝――実家で三日間過ごしてから、帰ることにした。
父さんと母さんはもうちょっといればいいのにと名残惜しそうにしていたが、それでも見送りには奏も含めて家族全員で来てくれた。
電車にしばらく揺られて駅に到着し、バスに乗り換えて見慣れた住宅街に着いたのは、昼を少し過ぎた頃だった。
「いやぁ、帰省って疲れるなぁ……」
「あまり歩いてはいませんが、電車に長いこと乗っていると意外と体力が削られていきますよね」
俺はひとまず自分の家で荷物の整理をしてから、いつものように合鍵で紗夜の家に入った。
俺が自宅で準備を済ませている間に、紗夜も荷物を片付け終わっていたようで、空になった大きなカバンを自分の部屋に運び込んでいるところだった。
「ですが、颯太君の場合は運動不足なだけではないですか?」
「確かに、それは否定出来ない……って、紗夜もそうだろ?」
「私はお風呂に入る前に軽く筋トレして、入浴後にはストレッチを欠かしません」
「ま、マジか……」
まだ知らない紗夜の一面があったことにも少し驚いたが、その一方で納得も出来ていた。
紗夜が容姿端麗なのは、もちろん生まれ持ったスラリとした手足や華奢な骨格のお陰でもあるだろうが、やはりそれだけでは今のプロポーションは保てない。
無駄な肉を付けず、かつ不健康にガリガリでもない。
その引き締まったウエストや、ラインの美しい脚を作り上げるのには、やはり日々の努力が必要なのだろう。
「颯太君は細いですが、それはただ肉がないからってだけです。体力的な面でも、やはり筋肉は付けた方が良いかと」
「まぁ、紗夜がそこまで言うならちょっとやってみようかな?」
「ふふっ、何だったら付き合いますよ」
「インストラクター紗夜だな」
ふふん、と得意げに腰に手を当てて胸を張る紗夜。
そんな姿を見て、俺は地元で紗夜とデートしたときからずっと考えていたことを、やはりやってみようと思った。
学校で紗夜が告白された時も、一昨日俺のトラウマの原因となった中学の同級生と会ったときも、紗夜が怒った原因は俺だ。
俺が侮辱されると紗夜が悲しむ。
正直俺自身は自分が侮辱されても、それが客観的な自分の評価で、分相応なものだと思って納得してしまう。
しかし、それではいけないと気付かされた。
紗夜の隣に立つものとして恥ずかしくない人間になるべきだ。
もちろん俺が侮辱されて紗夜が悲しむのも嫌だが、何より俺と一緒にいることによって「紗夜って男の趣味悪いよね」などと紗夜の評価が貶められたりしたら、それはもっと嫌だ。
「紗夜、俺髪切ってみようかなって思うんだけど……」
初めて紗夜と出会い、街案内をした日の帰り道、バスの中で紗夜が俺の髪を持ち上げて、割と整っている顔だと言ってくれたのを覚えている。
もちろんお世辞も多分に含まれているだろうが、顔の良し悪し関係なく、やはり前髪が顔に掛かっていると、それだけで暗い印象を与えてしまうというものだ。
「凄く良いと思います! でも、急にどうしたんですか?」
「いや、紗夜の隣に立っても恥ずかしくない男になろうと思いまして……まぁ、その第一歩ということだ」
「ふふっ、颯太君は今のままでも充分魅力的ですけどね?」
紗夜はそう言って微笑みながら、俺の方へと歩み寄ってくる。
そして、俺の前髪を人差し指と中指で挟むようにして持ち、「これくらいでしょうか……」と何か考え込むように見詰めてくる。
「えっと、紗夜さん?」
「はい?」
「何をしているので?」
「えぇっと……私に切らせてくれないかなぁ~なんて思ってました」
「え、紗夜人の髪切れるのか?」
「ど、どうでしょうか。一応理髪用の道具はあるのですが……」
紗夜が上目に視線を向けてきて、無言で「切らせてください」と訴え掛けてくる。
絶対美容室に行った方が間違いないのだが、そう言うと紗夜がしょんぼりしてしまう姿が目に浮かぶ。
「う、うぅん……じゃぁ、お金掛かるし、紗夜に頼もうかな……?」
「え、良いんですかっ?」
瞳をキラキラと輝かせて、嬉しそうにする紗夜。
まるで欲しいオモチャを親に買ってもらった子供のような顔で……非常に心配だ。
そして、紗夜はさっそく自分の部屋から理髪用の道具を持ってくる。
リビングの床に要らない広告を敷き詰め髪が落ちても良いようにし、その上に丸椅子を置いて、俺が座る。
「では、始めますね?」
「あぁ」
ど、どうとでもなれ…………っ!
◇◇◇
――――約二十分後。
「ま、マジか……」
「ど、どうでしょうか?」
紗夜が洗面所を貸してくれたので、俺はそこで自分の姿を鏡で見る。
目が隠れ掛かっていた前髪は眉の辺りで整えられ、隠れていた耳もきちんと姿を現していた。
つまりは……
「良い……凄く良いぞ、紗夜」
「あ、ありがとうございます!」
「いや、ホント凄いな。ってか、改めて思ったが、紗夜本当に万能だな」
「いえいえ、そんなことはないですよ」
謙遜してくる紗夜だが、人の髪をここまで綺麗に切れる女子高生などそうそうないだろう。
自分的には、この髪型は凄く気に入った。
しかし、やはり一番気になるのは紗夜の評価である。
「えっと、紗夜? その……どうかな?」
「……颯太君」
「な、なんだ?」
紗夜がやけに真剣な面持ちになった。
もしかして、前の髪の方が良かったのか――――
「凄くカッコいいです!」
「……変に間を開けるから、俺不安になってたぞ……」
「えへへ、ごめんなさい」
紗夜はそう言って俺の胸に飛びついてくる。
俺はそんな紗夜の頭を優しく撫でて、心臓の鼓動が加速しているのを感じながら言った。
「紗夜」
「はい」
「せめてその手に持ってるハサミ置いてから抱き着いて来ような?」
「あ……え、えへへ……」
「いや笑って誤魔化そうとしても無駄だからな?」
ポコッ、と本当に優しく紗夜の頭を平手で叩いた。
紗夜は万能だが、やはり少し抜けているところもあった――――
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