第73話 お隣さんと春休み②
先日修了式を終えて、春休みを迎えた俺と紗夜はいつもと変わらず紗夜宅のリビングでのんびりと過ごしていた――――
「俺と紗夜の関係の話題で持ち切りだって、周からメッセージ来たわ」
「実は私も鈴音さんから……」
紗夜はそう言って手に持っていたスマホの画面を俺に向けてくる。
表示されていたのは鈴音とのメッセージのやり取りで、そこには鈴音から『色んな人から紗夜ちーとつっしーのこと教えてって迫られてるよぉ~!』と書かれていた。
そして今、追加で『どこまで話して良いのかなぁ~?』と送られてくる。
紗夜もそれを見て、俺に「どうしましょうか」と聞いてくるので、少し考える。
正直あまり騒がれたくはないが、まったく俺達のことを話さずにいて、勝手に変な憶測を立てられるのは避けたい。
「ま、プライベート以外のことなら良いんじゃないか? 付き合ってる事実と、お隣さん同士だとか」
「そうですね。では、そう伝えておきます」
紗夜はそう言って再びスマホに視線を落とし、キーボードを操作し始める。
俺も周にその旨を伝えておき、『必要以上のことは教えないでおいてほしい』とメッセージを送信する。
「それにしても紗夜。なかなか大胆だったな、昨日は」
「うぅ……恥ずかしいです。昨日はつい勢いで言ってしまって……」
独断でバラしてしまってごめんなさい、と紗夜がシュンと肩を落とすので、俺はそんな紗夜に笑い掛ける。
「別に良いよ。どうせいずれはバレるんだから、遅いか早いかの問題だろ」
ただ……、と俺は紗夜にちょっぴり意地悪な視線を向ける。
「紗夜も橋田のこと言えないんじゃないか? 後日以降学校で騒がれないよう、春休みに入る直前ってのを利用したんだろ?」
現在も生徒間のメッセージのやり取りでは話題になっているようだが、それでも学校で直接多くの生徒に集られるよりは断然マシというものだ。
すると、紗夜が不満げにぷくぅ、と頬を膨らませて「一緒にしないでください」と言ってきた。
「彼は最初からあわよくばを狙っていて、それどころかフラれたあとの気まずさまで考えて告白してきました。そんなの自己中心的ですし、不誠実ですし、良い気がしません。私の場合は単に騒ぎ立てられないようにという理由だから良いんです」
「まぁ、そうだな。俺ももし今日学校があったら、多分男子生徒達の殺気に満ちた妬み
「恋の恨みは怖いですからね」
「やめろやめろ。夜道背後から刺されないか不安になってくるわ」
そんなことを話していると、パッと俺のスマホ画面の表示が変わり、電話の着信メロディーと共に、見慣れたアイコンと通話と拒否のボタンが表示された。
「悪い、ちょっと電話」
俺は一度紗夜にそう断り、紗夜の「どうぞ」という意味の籠った微笑みを確認してから通話ボタンを押し、右耳にスマホを当てる。
「もしもし?」
『あ、颯太?』
「ん?」
電話越しに聞こえてきたのは、アイコン通り奏の声。
『そっちも春休みに入ったわよね?』
「ああ、昨日な」
『そう。だったらこの休みこそはこっちに帰ってきなさいよ。パパもママも心配してるんだから』
「あー……俺は元気だ、ってお前から伝えておいてもらうワケには――」
『――いかないわよ。馬鹿っ!』
「ですよねぇ」
そこまで遠いところではないとはいえ、なんせ高校生の息子が一人暮らしをしているのだ。それは親として心配するのは当然のことだろう。
奏から俺が元気にやっているという情報を伝えてもらうことも可能だし、俺が直接両親に電話なりメッセージなりを送って無事なことを伝えることも出来る。
だがまぁ、顔が見たいということなのだろう。
しかし、こちらには紗夜がいる。
別に俺が紗夜と離れるのは寂しいとか思っているわけではないが!? 紗夜を一人残すのは忍びない。
どうしたものかと紗夜に視線をチラリと向けてみると、紗夜が不思議そうに首を傾げていた。
『はぁ……。ま、アンタの考えてることくらいわかるわよ』
電話越しに、奏の大きなため息が聞こえてきた。
『パパとママが、良かったら紗夜さんも連れてきなさいだって』
「な、なるほど……ちょっと聞いてみるな」
少し待っててくれ、と奏に言い、俺は通話をミュートにする。
「紗夜、この春休み何か用事あったりするか?」
「いえ、特にはありませんよ?」
「えっと、今奏から、この休みは帰って来いって言われててさ、紗夜も一緒にどうかって話になってるんだけど……」
「は、早くも颯太君のご両親に挨拶ですかっ!?」
「違う違う! ……と、思う」
いや、父さんと母さんが紗夜も誘ってきている時点で、何かしらのアプローチをしてくることは明らかだ。
ハイテンションな二人のことだ。
まだ高校生だというのに、結婚前提で話を進めたりし出しそうで怖い。
「えっと、どうする? 別に無理に来なくても良いんだが――」
「――いえっ。伺いますっ!」
紗夜がグッと身をこちらに乗り出してきながら言い切った。
「き、気合入ってるな……」
「気合満点ですっ」
グッと両拳を胸の前で握って見せる紗夜。
俺はそれに頷いてから、電話のミュートを解除し、奏に話し掛ける。
「あ、もしもし?」
『どうだった?』
「オッケーだってよ。二人でそっち行くわ」
『そ。ならパパとママにもそう言っておくわね』
いつ帰ってくるの? と聞かれたので、俺は紗夜に「いつにする?」と聞く。
「私はいつでも構いませんよ」
「了解。んじゃ、奏。明後日にでも帰るわ」
『わかった』
それじゃ、と言って奏が通話を終了させる。
俺は画面の暗くなったスマホをソファー前のリビングテーブルに置き、背もたれに大きく体重を預ける。
すると、俺の右肩に紗夜が頭をこてんと乗せてきた。
「私、結構楽しみです」
「そうか?」
「はい。颯太君の家、家族、育った街……会って、見てみたいです」
「そんな珍しいものでもないけどな」
「それでも、です」
「……そっか」
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