第44話 お隣さんは祝いたい②

【美澄紗夜 視点】


 一月二十二日土曜日。


 颯太君の誕生日を明日に控えた今日、私は鈴音さんと一緒にバスで街の方へ来ていた。


 目的は当然誕生日プレゼントということで、お昼前に大型ショッピングモールへと到着した。


 もう少し早く颯太君が誕生日を教えてくれていれば、もっとじっくり考えて購入することも出来たのですが……まぁ、そこは誕生日を聞いていなかった私の落ち度でもありますし、仕方ありません。


「ってか、紗夜ちーいなくてつっしー大丈夫なの?」


 私に肩を貸して隣を歩いている鈴音さんが、そんなことを聞いてくる。


「と言いますと?」


「お昼ご飯だよ~。いつもご飯作ってくれる紗夜ちーいないから、餓死するんじゃない?」


「そこは抜かりありません。いくつか作り置きしているものを、颯太君に渡してありますから」


「うっわ! マジで奥さんっ!」


「ち、違いますってっ!」


 ホントかなぁ~、と怪しんでくる鈴音さん。


 確かに、「今日は出掛けてくるので昼食は作れません」と颯太君に言えば良いだけの話ではある。


 颯太君だって私と会うまでは自分でご飯を作るなり買ってくるなりしていたのだ。


 少し歩けばファミレスもあるわけで、何の心配もない。


 けれど、颯太君には食費の半分を提供してもらっているので、私はその代わり颯太君にご飯を作ってあげる義務がある。


 そう、私はその義務を果たしているだけで、別に颯太君には私の作ったものを食べていてもらいたいとか、今頃美味しいって言いながら食べてくれてるんだろうなって想像したりしたいわけではない。


 ですが一応……帰ったら、きちんと食べたか聞きましょう。


 そんなことを考えながら少し歩いていると、鈴音さんが「服なんてどうかなぁ~」と言って、洋服店が並んであるフロアに到着する。


「あっ、見て見て紗夜ちー!」


「何か良いのありました?」


 興奮気味の鈴音さんに連れられて、ばやっとしかわからないが、何だか色鮮やかな店の前に来る。


 そんな店の商品を一つ取った鈴音さんが、私にも見えるようにグッとこちらへ突き出してきた。


「こんなのどうっ!?」


「こ、これブ――女性モノの下着じゃないですかっ!? それもかなり派手なっ……!?」


 どうやら鈴音さんが連れてきたここは、ランジェリーショップだったらしい。


 目の前に突き出されたソレは、妖艶な赤を基調とし、フリルやレースなどがふんだんにあしらわれた上の下着だ。


 そして、ちゃっかり私のサイズに合いそうなのを取っています……。


「そ、颯太君に女装趣味はありませんっ!」


「違うってぇ~」


 棚に戻してくださいっ、と言うが、鈴音さんは首を横に振って、商品を戻すどころか私の胸にソレを当ててきた。


 一体どういうことかと戸惑っていたが、喉の調子を整えるように一つ咳払いした鈴音さんがその答えを出した。


「『そ、颯太君……誕生日プレゼントは、私じゃダメですか……?』」


「なぁ――ッ!?」


 一度頭の中が真っ白になり、リセットされた脳内に勝手なイメージ映像が再生された。


 薄暗い部屋の中で、戸惑う颯太君にすり寄っていく私。しばらく我慢していた颯太君も、やがて限界が来て私の肌に指先を走らせ――――


「――って、そんな大胆で不純で不埒で卑猥なことしませんっ!」


「あっはは~! 紗夜ちー顔真っ赤ぁ~! そこまで鮮明に想像出来たってことは、紗夜ちー意外とエッ――」


「――ば、馬鹿にしないでくださいっ! 別に私がそういうのに大変興味がある性格をしているのではなく、と、年相応の知識があるだけですっ!」


「ほう。知識と経験ってやつ?」


「そうです。純粋に知識とけいけ……んなんてあるわけないじゃないですかっ! 変なこと言わないでくださいっ!」


「わぁ……紗夜ちー言っちゃったよぉ……」


「え、何がですか?」


「ん、いやぁ~、何でもないよぉ~? 良いこと聞いたから、つっしーにも教えてあげようかなぁ~」


「よ、よくわかりませんが絶対にやめてくださいっ!」


 どうしてかよくわからないけど、鈴音さんのすることだ、ロクなことじゃない。


 私は半ば強引に鈴音さんに商品を戻させ、別の店へ移動。


 洋服、アクセサリーと見て回り、辿り着いたカバン屋さん。


 そこそこのブランドものらしいが、値段を見れば上は果てしないがお手頃なものもある。


 カバン屋さんなので、当然私もカバンを見ようと思っていたが、ふと棚に小さなものが並んでいるのに気が付いた。


 手に取って顔を近付けると、レザーを使用したキーケースだった。


 レザーのため多少傷などは入りやすいが、長く使えば使うほどそういった傷やシミなどが味となってくる。


「ん、紗夜ちーそれキーケース?」


「あ、はい。目に留まったので……」


 鈴音さんに値段を見てもらうと、税込四千三百円らしい。


 少し高いかなとも思ったが、颯太君がこのキーケースに味が出てくるぐらい長く使ってくれることを想像すると、凄く温かい気持ちになった。


「私、これにします」


「紗夜ちー、何だか嬉しそうだねぇ~?」


「そ、そうですか?」


「つっしー喜んでくれると良いねぇ~」


「はい」


 二人でレジに向かい、キーケースを購入する。


「そういえば、鈴音さんはどうするんですか?」


「うぅん。最初は私も何か形に残るものにしようかなぁ~って思ってたんでけどねぇ? やっぱ誕生日なんだから、アレが必要でしょ?」


「アレ……? あ、あぁ! アレですねっ!」


 確かに誕生日と言ったらアレだ。


 これで私も鈴音さんも颯太君へのプレゼントが決まった。


 一安心すると、お腹が減っていたことに今更気付く。


 どうやらそれは鈴音さんも同じだったようで、このあとショッピングモールに入っている飲食店で昼食を取って帰ることにした――――

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