お隣に、学校一の清楚可憐な『盲目美少女』が引っ越してきました~恋愛不信であるはずの俺が、隣人付き合いをしているうちに君に恋してしまうのは時間の問題かもしれない~
第23話 お隣さんと妹が仲良くなってる②
第23話 お隣さんと妹が仲良くなってる②
「まったく……わざわざ見送りなんてしてくれなくても良かったのに……」
昼、駅のホームにて、もうすぐ到着する電車を前に、キャリーバッグを片手にした奏が呆れた口調で言う。
「良いだろ。これくらいさせてくれ」
昨日、夕食を俺と奏、そして美澄と一緒に食べたあと、奏が突然帰ると言い出したのだ。
「それにしても、どうして急に?」
私も見送りに行くと言って、現在俺の隣に立っている美澄がそう尋ねる。
「別に? 元々颯太の熱の具合を確かめるのと、パパとママから顔を見てきてくれって言われたからだし」
長居するつもりはなかったのよ、豪奢な金髪を手で払って答える。
そして、そんな話をしていると、ホームにアナウンスが流れ、電車が到着する。
プシュー、という電車のドアが開く音。
「それじゃ、行くわね」
「父さんと母さんによろしく言っといてくれ」
「アンタこそ、休みのときくらい帰ってきなさいよね」
「へいへい」
最後に奏は美澄に別れの言葉を言って、電車に乗り込んだ。
これが永遠の別れとかなら、俺も電車を追って駅のホームを走ったりするのかもしれないが、奏のことだ……「キッモ」の一言で俺の駆ける足を挫くだろう。
俺と美澄は、奏の乗った電車がホームから姿を消すまでその場に立っていた。
そして――――
「あ、そうだ美澄。せっかく街まで来たんだから、お前の爺さんに会って帰ったらどうだ?」
「あ、そうですね。でも……」
病院までの道のりは美澄も覚えているだろう。しかし、あまり目の見えない美澄にとっては俺がいた方が何かと便利だろう。
美澄も恐らくそう思っているのか、俺の予定を心配するように視線をさまよわせていた。
「俺も行くよ。どうせ暇だしな」
そう言うと、美澄は「ありがとうございます」と、安心したように顔を明るくした――――
◇◇◇
「おぉ~、紗夜ぉ~! また来てくれたんじゃな――って、貴様はぁあああッ!?」
美澄と共に病院までやって来て、美澄の祖父が入院している病室の扉を開くと、予想された反応が飛んできた。
そして、飛んできたのはそれだけではなかった。
俺の姿を確認したその瞬間、爺さんの手が霞む勢いで動いたかと思えば、殺気がありったけ籠った白い枕が飛んできた。
「またかッ!?」
俺は何とかその枕を払い除け、爺さんに文句の一つでも言ってやろうかとしたら――――
「ぐはっ……!?」
バフッ、と少し重ための音がしたかと思えば、俺の顔面に衝撃。
勢いに押されて、転ぶとまではいかなかったが、大きく身体を仰け反らせてしまった。
もし忍者であれば、こういうのを影手裏剣とでもいうのだろうか。
投擲物を一つ投げたと見せかけて、実はその投擲物で隠れるように後ろからもう一つの投擲物を投げるという技のはずだ。
俺の呻き声を聞いてただ事ではないと思ったのか、隣に立つ美澄が焦ったように「大丈夫ですかッ!?」と心配してくれる。
「だ、大丈夫……枕を喰らっただけだ……」
「枕って……ちょっと、おじいちゃん!」
美澄が病院でマナー違反にならない程度ではあるが大きな声を出したので、爺さんはビクッと身体を震わせる。
「ち、違うんじゃ紗夜ぉ~。これはワシらの挨拶じゃ。あ・い・さ・つ!」
「少なくとも津城君には枕を投げて挨拶する風習はないのっ!」
美澄に怒られてしょんぼりと肩を落とす爺さんに、俺は飛んできた二つの枕を返しつつ、「こんな投擲技術、どこで身に着けたんですか」と呆れ半分に尋ねる。
すると、虫を追っ払うために毎日練習していたと返ってきたので、苦笑いを禁じ得ない。
この場合、その“虫”というのは俺のことなんだろう。
取り敢えず落ち着いた爺さんのベッドの横に丸椅子を持ってきて、俺と美澄は並んで座る。
「それにしても紗夜、また来てくれて嬉しいぞ~」
「そりゃ来るよ。毎日ってわけにはいかないけど、時々はね。それに、伝えときたいこともあったから」
「伝えときたいこと?」
隣で話を聞く俺は、何となく美澄が言うことがわかっていた。
「私、ちょっとだけ視力が戻ったの」
「そ……それは、それは本当かッ!?」
「うん。まだ目の前の景色を見るのが精一杯だけど、前より輪郭とかもハッキリ見えるの」
「おぉ……おぉ……ッ!」
爺さんは嬉しそうな表情を浮かべて、溢れ出そうな涙を堪えるように強く目蓋を閉じた。
「爺さん」
「……何じゃ」
おい、さっきまでの感極まった表情はどこ行った。
そう突っ込みたいのは山々だが、今はそんなことより確認したいことがあった。
「これは、美澄の抱えるストレスが少しは緩和されたっていう解釈で間違いないんですかね?」
「うむ。まぁ、そういうことじゃろうな」
やっぱりか。
なら、何かが美澄のストレスを緩和する要因になったということだ。
美澄は一昨日俺が風邪を引いた日に看病に来てくれて、そのとき視力が戻ったことを教えてくれた。
となれば、視力が戻ったのはその前日?
その日は、俺が美澄と会っていない日だ。
「美澄。俺の看病してくれた日の――」
「――看病じゃとッ!? どういうことじゃ!?」
取り敢えず騒ぎ立てている爺さんは後回しにしておくことにする。
「えっと、その日の前日に視力が戻ったのか?」
「そうですね。朝起きて、スマホを触ったときに気が付きましたから……」
一体その日に何があったんだろうか……あ、いや待て。
その日に視力が戻ったということは、戻る要因となった出来事はその前?
美澄も恐らく俺と同じことを考えているのだろう。
手を口許に当てて小首を傾げている。
美澄の視力が戻った日の前日……何があったっけ……?
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