革命戦記

佐久間裕作

第1話 クーデター勃発

まえがき

今から始まるこの物語は貧困、汚職、犯罪、専制により腐敗と絶望に覆われた暗黒の世界を打倒し、正義と希望に満ちた理想の世界を求めて起ち上がった革命家のそして人民の物語である。





時は2038年1月


東亜王国の軍参謀総長である神城将軍は決起部隊を従え、王国議事堂へ軍用車両を向かわせていた。

議事堂以外に首相官邸、中央省庁が集まった区間 "龍政閣"、首都防衛の拠点 "大和陸軍基地"へ別働部隊を派遣させている。


部下「将軍、到着です」

意は決した... 後悔などない。

神城「よし、武器を取れ。行くぞ。」



一方、東亜王国議会では十時より執り行われる第八十二回議会開会式を前に議員が集まっていた。

蛯名「やあ、原口大臣。新年おめでとう。」

原口「おめでとうございます蛯名宰相。」

蛯名「国防大臣を見なかったか?今すぐ話したいんだが。」

原口「いえ、それが体調が良くなく今日の開会式は欠席をすると連絡がありまして。」

蛯名「そうか...ありがとう。」


首相は顔には見せなかったが憂えていた。先ほど側近から軍部に不穏な動きアリと報告を受けていたのだ。

今から3年前、陸海空軍の青年将校らによるクーデター未遂事件が起きた。大臣3名、議員6名、高級官吏2名が暗殺。一時は首相官邸や議事堂が占拠されるまでになったが鎮圧部隊により終息。クーデターの首謀者及び参加者は逮捕後、軍法会議にかけられ処刑又は終身刑が下された。

あの時外務大臣だった私は混乱の中脱出し事なきを得たが今日再び惨劇が起きようとしているのか、、、、


首相は急ぎ側近に議事堂周辺の警備体制強化と万が一の緊急脱出口確保を命じた。

だが───

側近「駄目です!議事堂警備局と通信できません」

蛯名「何!?まずいぞ奴等はすぐそこまで・・」

バーン! バーン!


突如として議会通路側から銃声が鳴り、勢いよく武装した軍人の集団が雪崩れ込んできた。

議員たち「何だ君たちは!?」「一体何の騒ぎだ!?」

武装した軍人らを前に議会はパニックに陥った。出ていけ、捕まえろと罵声を浴びせる者も出てきた。

軍人「静かにしろ!黙れ!議事堂はたった今封鎖された。言う通りに従え。」

銃口を向けて威嚇するもパニックは収まらない。議員たちは詰め寄り抗議の声を挙げ抵抗した。


ドーーンッ!


カオスと化した人だかりから一撃の銃声が鳴り響き静寂に包まれる。

奥から一人の男が前へ出てきた。

神城「議員の皆さま方、どうかご静粛に。東亜王国議事堂はこれより我々決起部隊が占拠する。あなた方の身柄の安全は保障する。どうかご安心を。」

予期せぬ人物の発言に誰もが唖然とした。

無理もない。王国軍の参謀総長が反乱を引き起こした張本人なのだから。


議員たちは動揺を隠しきれなかった。

議員A「神城閣下、あなたのしてることは反逆罪ですよ!」

議員B「国賊め!誰が貴様に従うか!」

神城はこれ以上話すのは時間の無駄と判断し部下に議員の拘束を命じた。

軍人「手錠をかけ連行する。刃向かえば殺す。言う通りにするんだ。」

議員たちはなすすべなく拘束されていく。

が、ある人物だけが抵抗していた。


蛯名「離せ!神城を呼べ。奴と話をさせろ!」

軍人「これ以上手こづらせるな。さもなくば、」

神城「待て。首相と2人で話がしたい。」「蛯名首相、少し歩きませんか?」

蛯名「. . . いいだろう」


2人は議事堂2階にある第三委員会室へ移動した。バルコニーから広場に数十台の軍用車両が停められ議員が連行されていく光景が見える。

蛯名「彼らはどうなる?殺すのか。」

神城はポケットからライターを取り出しタバコに火をつけた。

神城「吸いますか?」

蛯名「長年吸ってなかったが、そうだな貰おう。」

神城はタバコを一本譲り火をつける。

神城「先生方は少しの間大人しくしていただくだけです。その後公職追放を行い彼らは自由...。」

蛯名「閣僚もか?」

神城「そうです。あなたも。」

蛯名は苦笑いした。

蛯名「自慢ではないが、私は政治家になって以来汚職や賄賂を受け取ったことなど一度もない。しかしながら他の大臣や議員、官僚たちの汚職には目を瞑って生きてきた。私は首相でありながら腐敗を止める力は持っていなかったのだ。どうか君の手で裁いてくれ。」


蛯名の見つめるその目は慈悲を求めるものではなかった。それはまるで罪人が犯した過ちを後悔し報復を待ち望んでいるかのようだ。

神城は首を横に振った。

神城「その必要はない。私の望みはクーデターを起こし新政府のもと改革を断行する、その一点に尽きる。弾劾裁判ともなれば粛清のような惨状になるだろう。私はそれを避けたいのだ。」

神城の言葉には曇りひとつない革命家としての重みがあった。


蛯名「3年前、あの事件を境に君は変わった」



3年前に起きたクーデター未遂事件で当時神城は反乱鎮圧部隊の総指揮を任されていた。

反乱部隊による占拠は5日間に渡って続いたが神城の説得により全面的衝突は回避されクーデターは鎮圧された。鎮圧後、神城は反乱部隊の首謀者から政府の汚職ファイルを託されていたのだ。そこには数々の政府高官、軍関係者の名前が連なり汚職の証拠が載っていた。神城は衝撃と怒りが込み上げた。そして彼は同時に決意する、政府打倒を



神城「私は彼らの意志を受け継ぎこの腐敗した悪しき政府を滅ぼすことで終止符を打つ。」

蛯名「君は私が知る限り誰よりも王国に忠誠心を持った男だ。政治家は大変だぞ?参謀総長」

お互い苦笑いした。

蛯名「そうだ君に渡しておきたいものがある。あそこの机の上にあるから取ってきてくれないか?」

神城「分かりました。」

指差した机に近づきデスク上を探してみるもそれらしきものはない。

神城「首相?何もありません」


後ろを振り向くと蛯名の姿は消えていた

急いでバルコニーの方に戻り真下に目をやると蛯名が血を流し横たわっているのが見える。

神城は苦悶の表情を浮かべ委員会室から立ち去った。



神城が首相と2人きりになっている間に一報が入った。


軍人「将軍!探していましたよ。たった今三部隊より報告があり官邸、龍政閣、大和陸軍基地を制圧したと伝令がありました。」

神城「分かった。すぐにクーデター宣言の準備に入る。国営テレビ局、民放各社、大手新聞社を手配してくれ。」

軍人「は、ただちに」

神城「待て、議事堂正面庭園に蛯名首相のご遺体がある。丁重に葬るのだ。」




───1時間後


議事堂本会議場には大勢のメディア関係者、大手マスコミが待機していた。1時間前、急遽政府より重大発表があるのを告知され私たちは集まってきたのだが...


青山「何でここなの?」

国営テレビ局女性記者の青山は不思議でならなかった。政府発表なら通常、首相官邸で会見を行うものだ。なぜ議事堂で?

しかも今日は開会式があるはずなのに議会には議員が1人もいないなんて、、、

そう考えているのは青山だけではない。ここにいる全員が"何かが"起きたのだと不審に思っていた。

無理もない。議事堂の外には数十台の軍用車が駐車され、普段はいるはずのない王国軍の兵士が厳重に警備を行っているのを目にしたからだ。


本会議場が落ち着かない中ようやく壇上に進行役が現れ

軍人「まもなく政府発表を行います。」

とつぶやき後にした。

いよいよかと場内は緊張が走った。


「来た!───」


ドアが開いたと同時にカメラのシャッター音とフラッシュが沸き起こった。

誰もが首相の登場を予想していたが目の前にいるのは軍幹部の神城将軍だ。会見場の空気が一変し緊張はピークに達した。


神城は一礼し神妙に原稿を読み上げていく。

「東亜王国が建国し今日に至るまで数百年の歴史が築き上げられた。王国は繁栄を極め、民は平和と豊かさを手にし、神から祝福されし地上の浄土とまで謳われていた。

が、それも今日においては過去の栄光と化してしまった。

権力を濫用する奸賊によって政府は腐敗が進み堕落しもはや機能不全となった。その腐敗の波は民にまで及び貧困と犯罪が後を立たず国中が大混乱となり悲鳴を上げている。」


ひと呼吸置き、声を大にしてこう続ける。


「国家国民に背いた罪は万死に値する。よってこれを正すべく現政府を打倒し新政府のもと改革を断行しなければならない。

私は革命家としてここにクーデターを宣言する。」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

革命戦記 佐久間裕作 @BUN_kengou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ