第3話 パリは燃えているか?

我が家にはよくお客さんが来る。

この間はイエス様の兄弟が、その前はイエス様の彼女と言われているマグダラのマリアが来た。我が家といってもここは職場でもあるから、だいたいはミーティングだったりするわけだが、イスカリオテのユダは内弁慶すぎて、いつも奥の部屋を陣取っている。孤高の城とか、奥座敷とかそんな隠語で呼ばれることも多い。仕事中のユダに話しかけられる猛者はいない。マグダラのマリアはシングルマザーなのだが、先日はミーティングに子供を同伴させた。内弁慶のユダは、不思議と子供に好かれることが多いからミーティング中は自分の仕事を中断させて子供と遊んでいる。ふたりがミーティング中あまりにも静かだったので、

「何して遊んでたの?」

とヨハネが尋ねた。子供は折り目が大小規則的に三角の筋を作っている折り紙を見せてくれた。

「?」

マグダラのマリアもヨハネも顔を見合わせる。

「同じ形のおにぎりを早くたくさん作った方が勝ちってゲームしてたの」

子供はまだ4歳にも満たない。知育講師をしていたユダならではのアイディアだと思った。


我が家は荷物の受け渡しをバルトロマイが任せられることが多い。クロネコヤマトでアルバイトをしていた経験が活きている。クロネコメンバーズに登録してあるから、わざわざ手書きで荷札を書かない。すべてスマホで済ませられるからさほど負担のある専任業務とはなっていないものの、そんな種明かしが命取りになっているから、彼はサグラダファミリアに気づかれないよう、一番入り口の席を利用することが多い。


マタイとアンデレはオンラインミーティングをすることが多いので、ブースの使用率が高い。背景加工をすることもお手のもので、本物なのか偽物なのかわからないクオリティの背景動画を作成しては、休日を謳歌するペトロにズームを飛ばし「パリが燃えている!」とか「ロンドンなう」とか、「俺、今、家康とミーティング中」とかそんなくだらないことをやっては、自分の動画クオリティを測っている。


仕事しろよ!といちいち出てはいちいち突っ込むペトロを見て、トマスはあいついいやつだなあとしみじみしている。トマスはカップラーメンをラーメン屋のラーメンに昇華してしまう魔法使いだと言われたことに最近気をよくしている。

ネギラー油という薬味を自作した。そのネギラー油がありとあらゆるカップラーメンと相性がいいと誉められたのだ。今年はネギを本格的に作ってみようかなどと考え始め、今春入学の農業大学の聴講生制度を調べることに熱中している。本格的に農業をはじめてみようかと夢想して仕事が滞っては熱心党のシモンから鬼電話をくらっている。近距離であっても電話をするのは、立ち上がると自分の仕事の進捗も遅れてしまう危険性を孕んでいるからだ。

数日前、彼は「1日オフィスで100歩以内に歩数を収める」というチャレンジを自らに課し成功している。次は80歩が目標らしい。そのためにも電話は必須アイテムだし、充電器の準備も入念におこなっている。


パリは燃えているか?

それぞれが自分との戦いに今日も挑戦している。

戦禍は己の中にありといえば、かっこいいが、サグラダファミリア贖罪教会はマイペースで自己中心的な共同体なのである。



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