第37話 二人旅立つ
遺跡に着いた時には日が暮れ始めていた。
もう数時間待てば『漆黒の翼』で簡単に飛んでこれたのだが、ジッとしている事が出来なかった。
イルミの言っていた入る為のアイテム。それに心当たりがあったのだ。
それは、『認識疎外の仮面』だ。このアイテムは元魔王がこのダンジョンで見つけた物だと現魔王は言っていた。
つまり、イルミの仮説が正しいとするならば、今このダンジョンは元魔王に所有権があるはず。その元魔王が持ち帰ったアイテムが鍵になると考えるのは当然だ。
先程ダンジョンに入った時は『認識疎外の仮面』を着用していなかった。
もし着用して入ることが条件なのなら入れなかったのも頷ける。
ただ、エマの分が無いので、それが懸念される。
「エマ、多分このダンジョンには『認識疎外の仮面』をつけてれば入れると思うんだ。ただエマの分が無いから、どうなるか分からない。イチかバチかで手を繋いで欲しいんだけど良いかな?」
「はいっ。分かりました!もし入れなかったら外で待ってますね!」
エマと手を繋ぎダンジョンの入り口に向かう。
女の子の手は初めて握った。自分より小さく細い。でもすごくスベスベだ。
ちょっとだけ握る手に力が入る。エマは何か勘違いしたのか握り返してきてくれた。
ドキドキしながら、内部へと入っていく。先程と同じく真っ暗だ。『導きの光』を発動させる。
100メートル程進むと先程と状況は変わり、足元に魔法陣が現れ違う部屋に飛ばされた。
転移魔法陣だったみたいだ。隣を見るとエマも着いてきていた。
何もない無機質な部屋の中央に石碑が一つ建っていた。
石碑に書かれた文字を読む
――汝、存在を示せ。赤き英知の雫を以て試練に挑む意を示せ。試練を超えし者に道は開かれる。
以前のダンジョンと同じくまた、試練がここにもあった。
この試練がなんの為にあるのか、全く分からない。
ダンジョンには必ず試練があるのかどうか、これは、他のダンジョンを廻ってみないと分からない。
依然と同じく石碑には六芒星の印が刻まれていた。
依然と同じように血を付ければいいのだろうと思い、持っていた剣で指に傷をつけて血を出す。
前回は数時間もかかってようやく(ささくれのおかげだが)血を出す事が出来た。
今回はエマもいる為、迷わず傷をつけて血を出す。
「エマ、これからこの指示に従って僕は試練を受ける。実はコレ二回目なんだ。だから大丈夫だと思うけど、今回の試験はどんな内容か分からないから、エマも一応警戒しておいてね」
「分かりました!私は何があっても大丈夫です!一緒に試練を乗り越えましょ!」
エマは意気揚々と答える。
覚悟は出来た。石碑に刻まれた六芒星に血を付ける。
その瞬間石碑は輝きだし、それに合わせて周りの景色も変化した。
狭かった部屋が広がり、神殿の広間みたいな石柱が並ぶ。
これが現実なら転移したのだろう。だが前回と同じなら精神世界だ。ふと右手にひと肌の温もりを感じて目をやる。エマが手を握ってそこにいた。
どうやら一緒に移動したようだ。という事は現実世界で転移したと考える方が自然だ。
奥の方から黒い影が迫ってくる。実態は無く空中にふわふわと浮いている。前回はゴーレムだったが今回はこの影がボスキャラらしい。
先手必勝と一気に詰め寄り切りつける。
しかし実態を持っていないその影は何事も無かったかのようにその場に浮遊していた。
「剣が当たらないなら魔法だ!【ストーンニードル】」
土を凝縮して作り上げた、太い針状の魔法を放つ。
だが【ストーンニードル】は影に直撃するもそのまますり抜け影の後方にある壁に激突して消えた。
「まさか、魔法もダメなのか!? なんだこのチートキャラは。 エマ!!気を付けて!」
エマが返事をするかどうかの刹那、影はエマめがけて移動を始めた。
すると、エマに重なった影は、そのまま体の中に口から侵入していった。
エマはガクガクと震え、今にも膝から崩れ落ちそうだ。
「エマァァァァァ!!」
僕は叫びエマの元に駆け寄る。
「エマ!エマ!」しっかりしてくれ!! エマァァァ!」
するとエマの目が突然赤く光、僕の顔めがけて殴りかかってきた。
エマを抱える形で支えていた僕は防御する事も出来ず、その拳を顔面に受けてしまった。
地面に何度も打ち付けられながら転がるように体は吹き飛ばされた。
「なっ、、、エマどうした??」
エマは地の底から響くような、おぞましい低い声で話しはじめる。
「ミニクイ。コロス。フカイ。シネ、シネ、シネ」
「どうしたエマ?操られているのか!?」
「イッショニネタベットノナカ。イヤラシイメデワタシヲミテタ。フカイ。キモチワルイ。コノブサイクガ」
流は言葉を失う。操られているのか、それとも本音が出る魔法なのか判断できなくなっていた。
もしエマが本当にそう思っていて、それが表に出てるだけだとしたら。そう考えると再びトラウマが顔をだす。
他人の心の中は分からない。普通に接してくれていても心では蔑んでいる事だってある。エリーシャ達もそうだった。
「エマ、嘘だよね?操られてるだけだよね?エマ?? なんとか言ってよ!!」
「ダマレブサイク。モウシネ」
エマは走り出し僕の方へ迫ってきた。
手には『蛇皮の鞭』が握られている。射程距離に入った瞬間攻撃してきた。剣で防ごうとしたが軌道が読みにくい。皮膚に耐えがたい痛みが走り、思わず声が上がる。
鞭は皮膚に攻撃を加える物で、この痛みは防ぎようがない。剣で切られる以上の痛みだ。
「いたいよぉ。これは、何回も耐えられない」
するとエマは何かの魔法を発動してきた。
突然目の前が歪み視界を奪われる。
「しまった。精神魔法か?」
エマを視界に捉える事が出来ない。突如背後から激しい痛みを感じて魔法が解けた。
背中をモロに鞭で打たれてしまった。
身体が思わず仰け反り上がる。
そのタイミングで鞭の連撃をエマは繰り出す。
思わず意識が飛んだ。時間にしては数秒だったと思うが戦闘中の気絶は致命的だ。エマに直接精神支配の魔法を掛けられてしまい手足を動かせなくなってしまった。
うつ伏せで倒れる僕にエマはゆっくりと近づき目の前でしゃがむ。
エマは僕の人差し指を曲げてはいけない方向にまげた。
骨の折れる音が耳に直接叩き込まれる。余りの激痛に悲鳴を上げた。
その姿を見て恍惚の表情を上げるエマ。
一本一本と指を折られていき、流の精神は痛みと思考を遮断した。
もうだめだ。全てを諦めた。
次の瞬間エマは一瞬自我を取り戻し僕の魔法を解いた。
「りゅ、流様、もうしわ・・けありませ・・ん。お、、、お願いです、私を、、、殺して…」
エマは自分もろとも先程の影を殺すように提案してきた。
「そ、そんな事、で出来るわけない」
「流様、はやく、私が、私でいられるうちに」
エマが再び苦しみだし、影の声に代わる
「クックック。サァ、コノ ムスメ ヲ ソノ テ デコロセ」
「ふざけるな!エマから出ていけ!」
「ムダダ。コノムスメノシハイハマモナクオワル」
痛みに耐えて頭を働かせる。もう剣は握れない。エマに全て折られてしまった。
心も限界に近い。エマを連れてきた事を後悔した。自分が死ぬより仲間が死ぬ方が辛い。それに気付かされてしまった。身代わりになれるならなってあげたいと。
「ふっふっふ。ようやく支配が完了した。これでまともに会話ができる。さあ、選べ。貴様が死ぬか、この娘を殺すか。貴様が自害を選べばこの娘の体は解放しよう。もし貴様がこの娘を殺せば私も死ぬ。だが貴様は助かる。だが貴様が自害しすればこの娘は悲しむであろうな。自分のせいで殺してしまったと。結果この娘も死ぬかもしれないな」
この魔物の話はもっともだ。巧妙に流の心をえぐる。つまり、選択肢としてはこのままエマを殺すしかない。そう言わせたいのだ。だが、エマを殺せば確実に流も後悔の念で心は壊れるだろう。もう二度と冒険者として立ち上がることは無い。
エマを殺せば、魔物は死ぬ。
僕が死ねば魔物は死なない。
どちらが正解なのかはわかっている。だがその選択はしたくない。
流は心の中に湧き出た思いを叫ぶ
「黙れ!お前のいいなりになんかなるものか!エマも助ける!僕も生きる!死ぬのはお前だ!」
「ふっふっふ。ではどうするのかな?強がりだと分かるぞ?不可能に幻想を抱き、確実な勝利を捨てるのか?正しき行いは私を殺す事ではないのか?」
「正しい事が最良とは限らない!! 僕はエマの命は大事だ!絶対に守る!そして僕もエマの為に死なないと決めた! 今はっきり分かった。僕はエマの事が好きだ!だから助ける!」
そう言うと『魔法のバック』から『呪われた隷属の首輪』をエマに着ける。
「なんだコレは!?一体何をする気だ!?」
「お前はエマの体を乗っ取ったわけだよな?だったら今は実態があると捉えていいはず。だったらお前に命令してやる!」
影の魔物は必死に『呪われた隷属の首輪』を外そうと抵抗する。しかし、この首輪は着けた者しか外す事が出来ない。命令には死すら超える激痛が走る。前は使えなかった。だが今なら、、、
「命令だ。エマの…うぎゃあああぁぁぁあぁ、体から…ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
流は激痛でのたうちまわるが命令を続ける。体中の穴という穴から血が噴き出る
「出ていって、うぎゃあああぁぁぁあぁ。自害…ぐぎゃあああ…」
目から血涙が流れ出る。体中の皮膚が切り裂かれ辺りが血の海になっていた。
そして流の覚悟は死の痛みを超越した。
「…しろ!!!」
最後の言葉を全身から絞り出した!!!
「…かしこまりました。体を解放した後、自害します」
エマの口から黒い影が噴出した。そして空中で霧散していった。流の覚悟と機転で無事窮地を脱出する事が出来た。
だが流は命令の代償で視力を失っていた。体中もボロボロで、大量の血が流れ出ている。風前の灯だった。
そして次の瞬間。失われた視界が戻り、体中の傷が消えていた。
そう。今回も前回同様に精神世界の戦いだったのだ。不思議なことに石碑のある部屋にエマがいない。どこからが幻だったのかわからなかった。
そして、石碑に目をやると文字が変わっていた
―――試練を超えし者、道は開かれる。戦いを続ける限り救いの無い選択は訪れる可能性がある。決して忘れることなかれ。
読み終わるのを待っていたかのように石碑は崩れた。石碑の下に階段が続いていた。
階段を降りる。足取りがふらつく。階段を降りると書斎に出た。
壁の全てを覆いつくす本。そして木製のテーブルと椅子が部屋の真ん中にある。
机の上に一枚の紙が置いてあった。どうやら手紙のようだった。
そして、僕は驚愕の事実を知ることになったのだ…
心を落ち着かせ、まずエマを迎えに行こうと思い『認識疎外の仮面』を探しす。
机の引き出しに一個入っているのを見つけた。早速エマが待つであろう外に持って出る。
エマが僕を見つけて駆け寄ってくる。エマの姿を見て思わず抱き着いてしまった。
「えっ、流様?えっ?えぇ?どうしました!?」
僕はエマに抱き着いて泣いてしまった。エマの無事を確認できたから。そして取りつかれたエマが僕に言ってきた言葉は嘘だと信じる為に…
エマは僕が泣いてる事に気づき、そっと抱きしめてくれた。
このぬくもりだけは必ず守ると固く心に誓いをたてた。
エマに認識疎外の仮面を渡し、地下に戻る。
そして、先ほどの手紙をエマに見せた。
エマも動揺を隠しきれていない。二人は無言のまま目を合わせた。
先に口を開いたのはエマだった。
そして僕に手を差し伸べた。
「流様!行きましょう!ここからが冒険の始まりです!一生お供しますからね!」
「そうだね!とにかくこの手紙にあるように残りのダンジョン3つを攻略しよう。そして、王国を打ち倒す。それがこの世界を救う唯一の方法だ。僕は、人間と魔族の勇者として本当の悪を倒すよ!」
二人は手をつなぎ階段を駆け上がる。
外に出て真っ暗な空に飛び立った。希望の光を掴むために…
クソ不細工の僕が勇者として召喚。扱いが酷いので魔王側について人類滅ぼす事にしました。~これで僕もリア充だ!ざまぁ~ 八隣 碌 @kuronosu99
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます