第36話 ダンジョンの鍵

そのまま酒場で食事も食べさせてもらった。

この店はカレーライスが美味しいらしく、他の客も頼んでいたのでついでに注文してみた。

野菜がたっぷり入った少し辛口のカレー。

ここ数日パンとか簡単な物しか食べていなかったので、本当に美味しくて幸せな気持ちになれた。


店を出ると日が昇っていた。3時間ぐらいは店に滞在していたようだ。

店のマスターから聞いたイルミの家を訪ねるべく、家を探す。

特徴が分かりやすい為さほど苦は無いと思っている。予想は当たり、聞いていた場所に行くとすぐに分かった。


「朝早いけど迷惑かなぁ?どうおもう?」


「そうですね。ですが起きていて普通の時間ではありますので、一回伺ってみて、反応が無いようでしたら改めてはいかがでしょう?」


「そうだね。じゃあそうしよう」


家の扉を3回ノックする。しかし反応は無い。

やはり早すぎたのかもしれない。念の為もう一度ノックしてみた。


「はーーーい」


中から返事があった。どうやら起きていたようだ。正直ホッとした。出直してだと時間を潰さなくてはならなくなる。この町で宿を借りる気も無いし、すでに朝食は済ませてしまっている。元々引きこもりニートの流には一般的な時間を潰す行為が苦手なのだ。


「あ、あの、あ、朝早くからす、すいません!。冒険者のKといいます。ダンジョンの事で話を聞きたくて」


中でドタバタ聞こえた。何か片付けているのか外まで聞こえる。突然の来訪に驚かせてしまったのかもしれない。

扉が勢いよく開く


「おっまたせ!ごめんね!すっごい散らかってるけど入って入って!!」


予想外の反応だった。迷惑をかけたと少し心苦しくなっていたが、どうやら逆みたいで、とても歓迎されているのが表情から伝わってきた。


「あっ、すいません。朝早くに」


「いーのいーの!!むしろ訪ねてくれて嬉しいよ!!ささ!立ち話もなんだから入ってよ!お茶くらい出すからさっ」


満面の笑みで招き入れてくれたイルミ。マスターが言っていたような魔女のイメージとは真逆だった。

確かに紫色のローブを着ているため、外見から判断すれば魔女なのだろうが。

とても人当たりの良い気さくな女性で安心した流だった。


中に入ると所狭しと本が乱雑に積み重なり、壁には紙が貼りつけられ、テーブルの上も書類で埋め尽くされていた。研究を長年していると聞いたが一目見て納得できた。逆にどこで生活しているのか聞きたいくらいだ。


「ごめんね~ちょっと散らかってて! 適当に座ってて」


コレをちょっとと言い張るイルミの神経を疑った。


(適当にって、足場も無いんですけど)


エマと思わず目が合い苦笑した。エマはしゃがみ込み、床に落ちている書類を片付け始めた。

手伝おうとしたが、自分がやるというので甘えさせてもらった。正直片付けは苦手だからだ。

エマの手際の良さにみるみる片付いていく。


「おまたせ~コレでも飲んで…ってすごーい!めちゃくちゃ片付いてる!ありがとう!!!」


イルミはエマに抱き着いて感謝した。イルミは片付けが苦手なのだろう。抱き着いて感謝したくなる気持ちは十分理解できる。


「あっ、いえ、全然大丈夫ですよ。流様の座る場所を確保しようと思っただけなので」


「ん?流様?」


エマにKと名乗ることを伝え忘れていた。完全に流のミスだった。焦りながらその場を取り繕う。


「いや、なんのことかなぁ?僕はKと申します」


エマはキョトンとしていた。


「まぁいっか!僕はイルミだよ~! ご存じ、あの入れないダンジョンを研究してる者さ! それで、この僕に何を聞きたいのかな?って言ってもダンジョンの事なのはわかるし、どうやったら中に入れるかだよね!」


こうやってイルミの元を訪ねる者は皆同じ質問なのだろう。慣れたものだった。だが、今まで何人も訪ねていても中に入れた者がいないという事はあまり当てにならないかもしれないと思ってしまった。多分表情にも出てしまってるだろう。『認識疎外の仮面』をつけていて本当に良かった。


「その通りです。どうやったら中に入れるのか。そのヒントでも掴めないかと思って、訪問させてもらいました。」


「やっぱりそうだよね! じゃあね、僕が知る全てを伝えるね! 少し長くなるからよろしくね!」


イルミは少しドヤ顔をしていたがそこは彼女の性格なのだからと気にしないで置いた。イルミは自分が研究して判明している事を話し始めた。


「あのダンジョン、いや正確には遺跡と言った方がいいかな。それでね、少なくとも1000年以上前に建造されたのは使われてる材料や劣化度合いなどから知ることができた。なんの為に作られたのかは予想の範囲を出ないので割愛するね。ただ、間違いなく出入りしていた痕跡はあるから中に入れるはずなんだ。あの遺跡を作った文明が何かの理由で入り口を封鎖した。そう考えられている」


イルミはお茶を一口飲み話を続けた


「でも、僕は違うと思ってる。多分あの遺跡は作った文明が滅びた後、何者かに攻略されている。つまりあの遺跡の所有権が誰かに移ってしまってると思ってる。簡単な話、中に入る為には何かのアイテムが必要なんだと思っている。そのアイテムが解放された遺跡から持ち出された時点で所有権が移ったと僕は考えているんだ。全ては研究の過程で生まれた想像の域を出ない。中に入る為のアイテムが何なのかもわかっていないんだ。ただ、あの遺跡の入り口にかかっているトラップは中に入るものを識別している。例えば空気は中にあるだろ?実は矢を打ったんだがそれは中に残っていなかった。つまり中に入れているんだ。生命を排除していると考えているよ」


イルミは全てを語り終り再びお茶を飲んだ。話を聞いたうえで再度質問をしてみた。


「つまり、命がある者は入れないと?アンデットとかはどうですかね?」


「それも実は試したことがあるんだが、アンデットは生きてると判断されるみたいだ。そこの判断基準が明確ではないんだけどね。ゴーレムはとか色々試してみたいとは思ってるんだけどね。簡単な話、あの遺跡の認識を騙せるアイテムがあればいいと思うんだよね」


その後は簡単な雑談を交わし、再度ダンジョンに向かうと伝え家を後にした。

イルミの話から出た”遺跡の認識を騙す”という言葉に何か引っかかるものを感じたからだ。


いてもたってもいれず、徒歩で遺跡まで向かう事にしたのだった。

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