第32話 繊月浮かぶ夜に
結局一人で考えても何も答えが出なかった
連れて行きたくないわけじゃない。でも連れて行くのが怖い
近くにいれば、自分の嫌な部分を見せることになる
自分という人間に自信が無い
きっといつか嫌われる
助けたという事実も、自らの日常生活を見せることで消え失せてしまう
ならばいっそ距離を置いて、彼女にとっての英雄でいたい
結局、”よく見られたい”という承認欲求が強いのだ
だが、魔王の言う事は正論で納得できた
「やっぱり本人に聞いてみよう」
もしそれで嫌われてもそれはそれだ。
他人に嫌われるなんて慣れてる
一ヶ月もすれば別に行動したいとでも言ってくるだろう
先に諦めておけば、そうなった時のダメージは少ない
心の中で最悪の結末に対する抵抗を上げる為言い訳を量産する
自室に戻ってきた
扉を開けて中に入るとエマが清掃していた
「流様!おかえりなさいませ」
「あぁ、ただいま。早速で悪いけど一つ聞きたい」
エマは真剣な表情で見つめる
「はい!なんでもお答えします」
「僕はこれから人間の領地を旅して、魔族の仲間と人間の協力者を探しに行く。魔王が一年後王国に攻め込むと決断した。それで、エマ。僕と一緒に来るか?」
エマは突然の申し出に驚いた。しかし、即答で返す
「もちろんです!私の子の命は流様に拾われました。私の全ては流様の物です。忠誠を誓います。いらないと判断されたら弾除けにでもお使いください」
エマの申し出が重い
「あっ、いやそれ重すぎ!もっと気楽に、あの~そうだ!仲間!冒険仲間って感じで行こうよ!」
「流様がそれを望むのならば」
エマは見た目に反して頑固なところがある様だ
エマの意志も確認して流も覚悟を決めた
「じゃあエマ!よろしくね!」
「はいっ」
エマはとても嬉しそうだ。それがまた流を不安にさせる材料でもあった
この笑顔が数か月後には…
今はエマを信じる事しかできない
余計な事は考えないように決めた
「じゃあ、魔王のところに行って、冒険にでよう!」
「はい!」
二人はそれぞれ身支度を整えるために一時間後に待ち合わせをした
時間が少し空いたのでエリーテのところへ向かった
「エリーテさん久しぶりです。今回の冒険で実は人間が魔族の村を襲ってたんです。それで…」
会議の時同様に全てを語り掛けた
「そんなわけです。人間にはシャルルさんみたいな人もいれば、エリーテさん達みたいに裏で人を罵る人、王国のように自分たち以外をゴミだと思う人。いろんな人がいるんです。僕は元の世界で人と接する事を拒否してきました。本当に自分が情けなく思います。今回僕が召喚されたのはもしかしたら神様がくれた最後のチャンスなのかもしれません」
気が付くと待ち合わせの時間が迫っていた
「そろそろ行きますね!今度シャルルさんとかも連れてきますから。ではもう暫く世界を見守っててくださいね」
エマとの待ち合わせ場所に向かった
時間前だが既にエマがいた
「ごめん!待たせちゃったね!」
「いえ、今来たところですから」
「じゃあ行こうか!」
「はいっ」
二人並んで魔王の自室を目指す
「魔王はいるぞ~」
中に入るとオリビア(骨子さん)と魔王が何か話していた
「あっ、オリビアさん、久しぶりです」
「あっ、勇者様!今日も男前ですね!お会いできてうれしいです」
オリビアは本当に声が可愛い。
絶対元の世界にいたら声優が天職だ
「僕も嬉しいよ!ごめんね話し中に」
「いえいえ!私は後で平気ですのでお先にどうぞ」
オリビアは一歩下がる
「して、どうした二人揃って」
「僕ら二人で冒険に出る事にした」
「おぉ、そうかそうか!娘よ、勇者を頼むぞ。こやつは強いが世界の事を知らぬ。支えてやってくれ」
「恐れ多くも魔王様。わが命は流様の物。全身全霊を持って忠義を全ういたします」
「うむ、任せた」
「それで、魔王、相談だが、『透明化の指輪』と『認識疎外の仮面』てもう一個づつ無いかな?」
「すまんが、無いな。その二つは超レアアイテムで王国ですら持っていないはず」
「そうなのか。ダンジョンとかで手に入るかな?」
「どうだろうか。『透明化の指輪』はこの世界の神が世界に落とした神器とも言われるアイテムだから、まず無いだろう。『認識疎外の仮面』はダンジョンで取れるとは思うが…」
「本当か? どこだか教えてくれ! エマと人間の町を回る時に、この子の容姿は目立つ。僕とは逆に意味で」
「なるほど。『認識疎外の仮面』はダンジョンでしか入手できなくてな。シャンブリッズ領のクレマルクという町の近くにあるダンジョンで取れるらしいのだが…」
「取れるらしい? 魔王が取りに行ったんじゃないのか?」
魔王が首を横に振る
「前魔王様だ。その方が残した手記に記載があった」
「前魔王ってそういえば、なんで入れ替えがあったんだ?」
「分からない。前魔王は突然姿を消したと言われている。私も会ったことは無い。だが圧倒的な力を持っていたと聞く」
「つまり、遺物なのか。この仮面は」
「そうだ、そしてそれを取りに行くには私でも厳しいかもしれない」
「そんなにボスは強いのか?」
「そうではない。入れないのだよ」
「え?」
「まぁ行けば分かる」
「わかった。では行くよ。誰かゲートは開けるか?」
「そこは第一師団長 鹿王 ディアムルクが管理していた拠点があったのだが…」
「あっ…」
「もしよければ『ゲートキー』を渡すから拠点によって新たなゲートを繋いでほしい」
「わ、分かった。もちろん」
魔王に『ゲートキー』を受け取り魔王城を後にした
エマは悪魔なので羽を出せる
『漆黒の翼』を発動して二人で夜の空に飛びだした。
繊月が優しく二人を照らす
「エマ」
「なんですか?」
「月が奇麗ですね」
「はいっ」
二人は出会った日を思い出しながらシャンブリッズ領を目指して飛んだ
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