第31話 両陣営
「まず人間供の王国が保有する強さについてだ」
王を頂点として大臣達が政治を回す。そして王都をぐるりと囲うように8大貴族が8つの領地を管理する。それぞれの領主が住む町には駐屯所があり、王国軍兵は多数、そして4人の騎士が配属されている。王都には16人の騎士がいて、全部で48人の騎士が王国にはいる。
その上に聖騎士と呼ばれる4人がいてさらにその上には王国最強の剣聖と言われる聖騎士長がいるそうだ。
全部で53人の騎士が王国の最高戦力なのだ。
そしてこの騎士一人一人は、魔王軍幹部に匹敵する力を持っている為、魔王軍の戦力不足は顕著なのだ
「これが現在王国と魔王軍の戦力差だ。兵士如きならば我が軍の兵でも1人で何人も屠れるが騎士相手では敵わん。兵士と騎士では天と地の差程の戦力差がある事を理解してほしい。以上だ」
(つまりその王国最強戦力の一人を僕が倒した訳だ…)
「勇者よ。それで昨晩何か話があると言っていたな? この場で皆に聞かせるがよい」
「えっと、僭越ながら、魔王軍が王国を倒す為に何が必要か考えました。結論から言うと、人間の協力者だと考えています」
「なに?協力者だと?」
「ばかな。人間が今まで我らにどういう行いをしたか」
「そうだ。皆殺しだ」
幹部の半数が声を上げる
「いや、話を聞こう」
「そうだ。結論は話を聞いてからだ」
半数がなだめてくれた。魔王はただ一人沈黙を通す。
「今回の救出劇では一人の人間が協力してくれました。だから無事達成する事が出来ました。僕は召喚されてこの世界に来て強いんだと思う。でも一人じゃ何もできない。僕は魔王軍に寝返ったけど人間です。それでも魔族は仲間だと思える。そんな人間が他にいてもおかしくない。魔王軍に寝返った時、僕は世界中の人間が嫌いでした。本気で滅ぼそうと思ったけど旅をしていく中で心で通じ合える人間もいることが分かった。そこに賭けたい」
生まれて初めて真剣に何かを訴えた
「王国は倒したい!でも今の魔王軍だけでは無理だ。もし魔王軍が破られれば残された魔族は奴隷になる。勝負をかける時は確実に勝たなくてはいけない。だから、僕はこれから世界中を回り人間の仲間を作りたいと思っている」
最後に笑われるかもしれないけどこれは言わなきゃと思っていたことを言う
「人間と魔族が手を取り合って共に暮らせる国を通りたい。それが僕の夢です」
全員が何も言わず黙っている。今まで人間に対する考え方、存在、戦う理由が全て覆されているのだろう。
だが僕は魔族を救い王国から生還してる。僕の言う可能性も0では無いと分かってはいるのだろう
魔王が口を開く
「一年。それがリミットだ。王国からの攻撃に耐えられるギリギリの時間だ。それまでに戦いの準備を整えてくれ。皆良いか?」
「御意」
全員が同意した。
僕が魔族を助けた事で王国も動くだろう。止まっていた歯車は動き出してしまった。
タイムリミットは一年。この残された時間で世界の命運が決まる。
ーーー王国、玉座の間
騎士クラウドが地下牢で死体となって発見された。
死体を確認すると戦った痕跡を確認できた。
「城の警備はどうなってる!! なぜ騎士が倒される! 王国の最強戦力の一角だぞ。あってはならない事が起きたのだ」
王は激昂している
「恐れ多くも王よ。目撃者もおらず…」
「言い訳など聞きとうない! 早急に原因を調べよ。 クラウドの死は公開してはならぬ。緘口令を引く。そして、速やかに賊を特定し始末せよ」
大臣が王にささやく
「王よ。騎士を倒せる人物など限りがございます」
「うむ。分かっておる。まさか勇者が? 我らが手配した事に対する行動か?」
「可能性はございますが、今は確定させる情報もございません。勇者に城へ侵入し、騎士を殺す理由が思い当たりません」
「牢から魔族の奴隷が一体消えたと報告がある。まさかあの醜き勇者は魔族に寝返ったか」
「動向は探らせてますが、以前所在不明、内通者も連絡が付きません」
「馬鹿にしおって。全軍を魔王城に送り込み叩き潰してしまえ」
「いえ、それでは、国内にいる”レジスタンス”が攻め込んできた場合最悪の事態も想定されます」
「奴らか。同じ人間で忌々しい。まぁ良い。我らはここで構えていればよい」
「では引き続き捜索を行います。失礼します」
大臣は王の元を離れどこかに向かった。
王は怒りが静まらないようでその後も、家臣に怒鳴り散らしていた
―――魔王城
「なぁ魔王。どうして信用してくれた?」
「何をいう。我らは恩には恩を仇には仇を。それに勇者が我が軍に来てから風向きが変わった気がする。長年に渡り続けてきた睨み合いにももう疲れてきたわ。一年後、長年の答えが出る。それで良いと思っただけの事よ」
「そうか。分かった。じゃあ僕はさっそく旅に出るよ。このまま向かうから、エマ含めよろしく頼むな」
「なぜだ?」
「え?」
「なぜあの娘を同行させない?」
「えっだって、戦いの邪魔になるしそれに…」
「貴様、少し勘違いしていないか? わしは、あの娘に貴様が必要だと思っていない。むしろ逆。貴様にあの娘は必要だと感じたが?」
「いや、でも、ほら、僕ってこんなだし、危険だし行きたくないでしょ?」
「本人に聞いたのか?」
「いや、考えもしなかったというか聞くまでも無いというか」
「貴様の中にいるあの娘はそんなに弱くて、頼りない存在なのだな」
「そんな事ない。まだ少ししかいないけど、彼女の存在は冒険で非常に助けにはなるけど、こんな僕と」
「聞く前に他人の意志を決定させるな。自分が思う道を行け。他人の顔色を伺うな。意志を強くもて。以上だ。後はどうするかは貴様が決めろ」
魔王はそう告げると部屋を出ていった。
「僕が決める…」
エリーシャたちを思い出す。仲間に裏切られたという意識が強い
一人は身軽でいいやと逃げている流の気持ちを、魔王は看破していた
「一緒に…冒険…」
そのまま自問自答を続けたのだった
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