第27話 夜空のらんでぶー

追手も来る気配が無い


「お互い無事でよかったね」


笑顔でエマに話しかける


エマは顔を少し赤らめてモジモジしていた


「あ…の…なんで助けに…」


流は事情を説明した


「そうですか、ピラピちゃんが私を心配してくれて…」


エマは泣き出してしまった


(夜兎族の子はピラピと言うのか。覚えておこ。それにしても、女の子が泣いてる時なんて声かければいいんだ!?)


流は戸惑っていた。


人生で一度もこんな長時間女性に触れた事も無いし、ましてお姫様抱っこなんて初めてだ。さらに泣いている。こんなカオスな状況を打破できる知恵も経験も無い


「あーえーっと…あっ、月が奇麗ですね」


とっさに出た言葉がそれだった


「…ふふふ。面白い人ですね。今日は新月ですよ。ふふふ」


辺りを見渡すと月が無い。そしてツキも無い。


まさかこんな場面で最大のスベリをかますとは


「ありがとうございます。元気づけようとしてくれたんですよね? 気持ちが嬉しいです」


良い子だぁ。他人の気持ちが分かる子なんだなぁ


「そういえば、それ『認識疎外の仮面』ですよね?お顔隠されてるんですか?」


「あぁ、これね。僕は人間なんだけど、僕の顔は人間に受け入れてもらえなくてね。人間の町で活動するとき便利だからつけてるんだ」


「あの、もしよければ、お顔拝見しても良いですか?」


「どうしたの?」


「貴方は私の、いえ、私たちの恩人です。ちゃんとお顔拝見したくて」


「うん、いいよ」


「じゃあ、失礼しますね」


エマはそっと仮面を外した


「どうかな?醜いだろ?」


エマの答えがどんな風に返ってくるか不安だった


「とても、優しい目をしています。そして私を救うため一人で来てくださった勇敢な顔。とても素敵です」


僕の顔は魔族に好かれる。だが、こんな優しい言葉を言われたのは初めてだ。


凄く嬉しかった


「エマさんも、すごく可愛いよ!人間でもこんなに可愛い子見た事ないもん」


女の子に可愛いという日が来るとは。


たった一言に心臓の鼓動が速くなる


「ふふふ。ありがとうございます。私は魔族の中では醜女と言われていましたから、可愛いなんて初めて言われました。すごく嬉しいです」


「あと、私の事はエマとお呼びください。それとなんてお呼びすればいいですか?」


急いでいて名乗ることを忘れていた


「僕の事は…流と呼んでくれ」


エマは満面の笑みで答えた


「はい。流様」


夜空を翔ける二人を、優しい風が包み込む


「そろそろ着くよ!」


ガル―の拠点が見えた


僕はエマに負担がかからないように徐々に高度を下げ拠点に降りた


ガルーが僕に気付き手を振る


「おーい!流!!ここだァー!」


「ガルー!!久しぶり!!」


ガルーとは1度本気で手合わせしてから親友になった



「先に来た奴らは丁度今しがた、【ゲート】で魔王城に送ったぜ」


「ありがとう! 助かったよ! 」


「馬鹿野郎。ありがとうはこっちだ! 同族を救ってくれて感謝する」


2人握手をする


「それでそっちの嬢ちゃんが王国に連れてかれた魔族か? 」


「そうだよ」


「へー、夢魔か? 珍しいな」


「夢魔?」


「はい。私は、夢魔族のエマです。ガルーフェン様、お初にお目にかかります」


「おう! そんな硬っ苦しいのはやめようや! 気軽に接してくれ。 それより流。お前さんも隅におけねーなぁ!夢魔族は魔族には人気無いけど人間には可愛く見えるって聞いたことあるぞ? そりゃ命も掛けるわけだ。ハッハッハ」


ガルーは大きな声で高笑いした


「ちっ違う!!...確かに可愛いけど...そもそも助けに行く時は夢魔だって知らなかったし!!結果論だ!」


ガルーはニヤニヤしてこっちを見ている


「まぁそういうことにしてやるよ。あとシャルルって人間はどうすんだ?お前の事待ってるぞ」


「そうだ!シャルル!今どこに??」


「おう。拠点の中で待ってもらってる。着いてきな」


ガル―フェンの案内で森の中を進む


入り組んでいる内部を迷わず進むのは難しい


魔王軍の拠点としては絶好の場所だ


15分程歩き続けるとガル―フェンが振り向き到着を告げた


「おう!ここだ!」


辺りに建物は無い


「えっ? 何もないけど?」


ガル―フェンは、ドヤ顔を見せた


「そりゃそうさ。だって拠点は地下だからな」


「なるほど!それは絶対見つけられないや」


ガル―フェンは一本の大木に近づく


大木の前に立ち「我ら魔王軍に栄光あれ」と言葉を発する


すると樹の幹が扉のように開く


「よし、行くぞ」


ガル―フェンは何事も無かったかのように歩き出した


全員が中に入ると、扉が自動でしまる


(結構ハイテクだな)


「あっ、そうだ。流」


ガル―フェンが突然話しかけてくる


「どうしたのガル―?」


「魔王様がお前含めて幹部を招集された。一緒に魔王城に戻ってくれるか?」


「もちろん」


エマはキョロキョロしながら呆気に取られている


「エマ、どうしたの? 大丈夫?」


流は少し心配になり声を掛けた


「あっ、はい、大丈夫です。なんか、自分が魔王軍の幹部様と一緒にいるなんて信じられなくて」


「そんなもんなのか? まぁ、気楽に過ごしてね。何かあったら僕に言うんだよ」


「ありがとうございます」


ガルーフェンはこちらをチラチラ見ながらニタニタしてる


僕はガル―を睨みつけた


口パクで、おーこわこわ、と言って前を向いた


地下はかなり広い空間になっていた。


かなりの魔族がその場にいた


獣人族の魔族が大多数を占めているが、ちらほら別種族もいる


ガル―フェンを見かけると立ち止まり、皆挨拶をする


ガル―フェンが皆から慕われているのが良く分かった


「ほら着いたぞ。ここが客室だ。シャルルという人間も中で待ってる」


ガル―フェンが客室の扉を開いた





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