第26話 外見の醜さ、内面の醜さ

鉄格子のなかに手と足を枷で拘束された魔族の子がいた


小さな声で呼びかける「助けに来た。意識はあるか?」


僅かに指先が動く


どうやら拷問を受けたみたいだ


暗闇の中よく見えないが傷だらけのようだ


鉄格子を破ろうと思い手を近づける


力ない声が中から聞こえる


「…だめ…結界…」


鉄格子に触れた瞬間激しい痛みが手の平を襲う


血が滴る


「いてっ…」


今から鍵を探しに行く余裕はない。


意を決して鉄格子を掴んだ


絶え間なく痛みが流を襲う


「こんな…痛み…呪われた隷属の首輪…程じゃ…ないぃぃぃ」


鉄が折れる激しい音がする


手の平を見ると手が焼けただれていた


ポーションを取り出す


魔族の女の子に飲ませた


傷がみるみるうちに治り意識を取り戻す


そして顔を上げ流を見つめる


その時初めて顔を見たが流の心に電撃が走った。手の痛みも忘れる


一言で表現するなら≪超絶可愛い系女子≫


深紅の色に染まった肩まで伸びた髪


目は大きく、少し潤んだ瞳。髪と同じ深紅の色


八重歯が良く似合う


スタイルも良い


「あ…の。あなた…は?」


顔に恐怖の色が宿る


「心配しないで。君を助けに来た。詳しい話はここを出てからにしよう」


手枷を力ずくで引きちぎった


「ごめんね。後でちゃんと外すから、今は我慢して。自分で歩ける?」


コクリと頷く


「よし行こう」


先陣を走り出口まで誘導する


「全く。王城に羽虫が入り込んだかと思えば。まさか魔族を救出に来るとは酔狂な奴だ」


そこには”剣鬼クラウド”がいた


(そうか。こいつは気配を読めるんだ。【探知】を常時発動してるのかも)


クラウドはゆっくり歩を進める


剣を抜き身構えながら一歩一歩近づいてくる


「悪いけど、道を譲ってくれないかな? 争いはしたくない」


「なんだ。この虫は喋るのか?王国に仇名す害虫め」


「僕は人間だ!」


クラウドは鼻で笑う


「おい、魔族よ。自ら牢に戻れ。私の手を煩わせるな。また、しつけが必要か?」


エマを見るとガクガク震えてる


相当痛めつけられたのだろう


「下らん。魔族など殺せば良いものを…」


クラウドは目を見開き殺気を放つ


大気が震える様だ。皮膚がピリピリする


―――ドサッ


後ろを向くとエマが倒れていた。


顔を見ると呼吸が出来ていない


恐怖で息が出来ていない


僕はエマを抱き上げ、耳元でささやく


「大丈夫。僕を信じて」


エマは涙目で震えながらもコクコクコクと何度も頷く


その場にそっと降ろしクラウドと再び向き合う


「僕は君相手じゃ手加減できない。死ぬよ?」


エマが震える姿を見て、過去の自分と重ねた


様々な感情が混ざり合い激しい怒りとなる


「ほう。羽虫如きが、王国騎士団のこの私、剣鬼クラウドを殺すというのか。冗談にしては笑えないぞゴミが」


「なぜ、魔族の村を襲った!?」


クラウドは不意を突かれたように一瞬驚きの顔を見せた


「なぜ貴様がそれを知っている?」


「ラクリマ駐屯地に捕らえられていた11人の魔族はもう救出したぞ」


「ちっ。雑魚どもが。簡単な仕事も出来ないとは。まぁいい。貴様を殺してまた回収しに行けばいい」


「なぜ魔族を捕らえる? 戦争だからか?」


なんとか情報を聞き出そうとする


クラウドは暫く考え事をしていたが、何か決めたように流を見据える


「貴様が私に勝てたら教えてやるよ」


「馬鹿な事言うなよ。僕が勝った時はお前は死んでる。お前が勝てばどうせ僕は死んでるだろ。だったら先に質問に答えてくれても良いだろう?なぜ、魔族を襲い捕らえる?」


「…まぁいい。貴様の言う通りだ。別に教えないで殺しても良いが、余興に付き合ってやる。魔族をなぜ捕らえるかだったな。簡単だよ」


どんな理由があるのかようやくわかる。


僕は固唾をのんだ


「奴隷さ。王国の奴隷として、魔石発掘やダンジョン攻略をやらせる。あいつら頭は悪いが個々の力は人間を凌ぐしな。丁度いい使い捨ての道具だ。なぜ王国が勇者を召喚して魔王を討伐させるか分かるか?なぜ、魔族を駆逐しないか。答えは簡単だよ。統率者を失った魔族を捕らえ全ての魔族を奴隷として使うためだ。ちなみにその娘はある貴族の性奴隷にする予定だ」


王国の考えを聞いて、流は吐き気を催した


醜悪、利己的、傲慢、強欲、色欲、骨の髄まで腐ってる 存在が腐臭を放つ


僕の知っている言葉では表すことが不可能なほど”悪意”


「それで全ての人間が幸せになれると思っているのか?」


クラウドは驚いた表情を浮かべた


「何を言っている? 国民にも無能な者は多い。全ては我らの様な優秀な人類を残すための贄よ。王族や貴族、我ら騎士の様な人間の中でも秀でた者が全てを手にする権利がある。それは血だ。血は何より重要な物だ。魔族や、愚鈍な国民など我らの役に立って死ねるなら何よりも幸せであろう」


「腐ってる。本当の魔物はお前らの様な人間だ!僕はお前たちとは違う。心の醜い化け物と同じになうくらいなら喜んで魔族と共に歩む」


「あのような醜悪な化け物共に存在価値など無い。なぜそれが分からない」


僕は『認識疎外の仮面を外す』


「なっ、貴様は!勇者か!」


クラウドも流石に動揺したようだ


「僕はこの顔で生まれ、同じ人間に虐げられてきた。そしてお前らに召喚され魔王討伐に行ったが、魔族は僕を快く受け入れてくれた。だからこそ、人間を滅ぼすと決めた。でも旅をする中で、この顔でも一切偏見を持たず接してくれる人間もいることが分かった。そして、お前と話して、本当の敵が分かった。この国を作る人間たちの心は本当に醜い。お前たちがこの国を脅かす魔物だ。僕の敵は人間じゃない。心の腐った人間の姿を持つ魔物だ!クラウド!」


流の体に力がみなぎる


ダンジョンでゴーレムの試練を受け、クリアーした時に感じた解放感


レベルが上がった感覚だ


「まぁいい、勇者は殺せと王から仰せつかっている。貴様をここで殺す」


「人間を殺すことに躊躇があった。だがお前は人間の皮を被った魔物だ。ここで討伐する」


二人の気迫に空気が激しく震える


時間を掛ければ増援が来てしまう


流から仕掛けた


闘技【縮地】で背後をとる


クラウドは余裕で対応する


剣と剣がぶつかり合い火花が散る 衝撃波が辺りの壁を壊す


【サンドストリーム】を唱えた


クラウドの周りに大量の砂が現れ高速回転してクラウドの皮膚を抉る


【エアバースト】とクラウドが叫ぶ


クラウドを中心として円形状に空気が破裂し【サンドストリーム】を吹き飛ばす


すかさず闘技【縮地】で距離を詰め、突きを放つ。


クラウドは身を回転させ避けるが、それは予測していた


【アースニードル】


地面から無数の棘が生えクラウドを貫く


不安定な体制からも剣を振り【アースニードル】を薙ぎ払い致命傷は避けるが、それでも全てを防ぐことは出来ずダメージを追った


「風よ剣に加護を【エアソード】」


クラウドの剣にを包み込むように竜巻が発生した


クラウドが走り出し流に切りかかる


一撃目は避けたが、即座に返しの二撃目が来る


剣でガードしたが、風の魔法がガードを弾き飛ばす


バックステップで下がるが切先が身体を切り裂く


ここまででまだ十秒にも満たない攻防戦


しかし優勢は流だった。


クラウドは出血が多い


一瞬よろけた所を見逃さなかった


クラウドの鎧の隙間に剣を突き立てる


――数秒の沈黙


クラウドはそのまま膝から崩れ落ちた


「ごほっ、クソ、ごほっ。虫如きにこの、私が」


クラウドが吐血しながら悔しがる。内臓を傷つけたみたいだ


「クラウド、お前は罪をその命で償え。そして、地獄で見てろ。僕がこの国を倒す所を」


「私に、ごほっ勝ったからと言って、ごほっ、いい気になるなよ虫が。私より強い騎士はごほっまだ…い…」


クラウドは絶命した


剣を抜き取り、一振りして付いた血を払う


「これが人を殺す感覚か…思ったより平気だったな…」


しかし時間が無い、急いでエマを連れて脱出しなければ


『認識疎外の仮面』をつけなおし、シャルルに貰ったマントのフードを被る


そして腰が抜けているエマをお姫様抱っこで持ち上げる


突然の事で驚いたエマ


「きゃぁ、えっ、一体!?」


「悪いけど時間が無い。このまま抱えていく」


そういうと流は最高速で走りだした


こそこそ抜ける意味はない


一階上がると石壁を砂に変え城の外に出る。


騒動を聞きつけた大勢の兵士がこちらに向かってくる


『漆黒の翼』を発動してエマを抱えたまま飛び上がる


ガル―の拠点を目指して飛ぶ


下から魔導士と弓兵が攻撃してくる


急いで攻撃範囲外から出る


ついに僕は全ての捕まった魔族を助け出すことに成功した


達成感で心が躍る


(はじめて自分の意志で人の為に動けた)


心の中でガッツポーズを決めた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る