第25話 王城侵入

王都に向かう道中、魔王に連絡を取る


『ヘルツクリスタル』を起動する


「魔王!僕だ!!」


「勇者か。どうした」


運がいい。今回はすぐに出てくれた


「緊急事態だ。ガル―にシャルルという人間が一人で魔族の子達を運んでると伝えてくれ。くれぐれも失礼が無いように頼むと」


「わかった。必ず伝えよう。それで、貴様はいったいどこに?」


「助けた子達から一人の魔族が王都に運ばれたと聞いた。その子を助けに向かってる」


「おい!それはダメだ。すぐ戻れ。王都に一人で乗り込むなんて自殺行為と同義だ」


「…わかってる。でも、ダメなんだ。理由は分からないケド、なんか体が動いちゃって」


「愚かな。魔族に与するとはいえ、命を捨てるなど愚の骨頂だぞ」


「そうじゃないんだ。魔族がとか人間がとかじゃない。なんだろう。僕と一緒なんだよ。勝手に迫害されて、勝手に自由を奪われてさ。なんか上手く言えないけど、今僕は召喚されて多分、この世界で最強に近い力がある事は自覚し始めたんだ。そんな力があっても何もしないでいるのは、召喚前の自分と同じなんだ。人に何か言われるから行動をしない。逃げ続ける人生。もう嫌なんだ。今回の救出は、その子の為だけじゃない。そう。自分の為でもあるんだ…と思う」


「…そうか。それが貴様の覚悟か。ならば何も言うまい。だが、その魔族の者が王都のどこに囚われているのか見当はついているのか」


「…いや、全く分からない」


「ならば、知恵を授ける。貴様、闘技【探知】は使えるとドラグマランティーノから聞いたが間違いないか?」


第9師団長 薬殺王 ドラグマランティーノの能力【鑑定】によって僕のステータスを調べてもらったことがある。確かにその時【探知】がある事を聞いた


「確かにあるって聞いたよ」


「そうかならば、【探知】を使い魔力を探れ。魔族と人間では魔力の質と総量が違う。そして王都に魔族はいないはずだ。つまり、探知に引っ掛かる魔族がいるならば、それが目当ての者である可能性が高い」


「闘技はあまり使った事無いし、【探知】に関してはそんな高度な事やったことが無いよ」


「心配ない。貴様は勇者だ。自分を信じろ」


「分かった。そろそろ王都に着く。無事救えたら、また連絡する」


「待っているぞ。勇者。いや、我が友よ…」


”友”という言葉に嬉しさとほんの少しの照れくささと、そして最高の勇気をもらった


眼前に見えるは懐かしの王城


以前見た時は、虫のように這いつくばって下から眺めていた


(以前の僕とはもう違う。必ず救い出してみせる)


王都の領空に入ったところで『透明化の指輪』を発動させる


残り時間が少し少ない気もするが仕方ない


王城の天辺に降り立つと、魔王の助言にしたがい闘技【探知】を発動する


自分の肌感覚というべき物がどんどん広がっていく不思議な感覚だ


城の中には無数の人の気配


どんどん広がっていく


未だに魔族の気配はしない


自分を中心に円形状に広がる感知網


城をすっぽり囲い込む位の領域は展開している


そのまま領域を広げる


すると、城の地下に、人間とは異なる気配を感じ取ることができた


「いた!これだ!」


城の地下に向かう為、地上に降りる。


城の正門は開いていない


どこか開いていないか低空で飛んで探す


丁度裏手の二階テラス部分の扉が開いた


そのまま飛び込む。


(よし、入れた。地下を目指そう)


下に降りる階段を探す


【探知】の効果で、城の内部構造や人の居場所が手に取るようにわかる


一旦『透明化の指輪』を解除して制限時間を残す


隠密行動でバレないよう動く


闘技【縮地】を使い一瞬で移動を繰り返す


(下りの階段だが一階までだな。地下に続く階段は…)


後ろの部屋の扉が開く


兵士が中から出てきた


『漆黒の翼』を使い天井に飛び張り付く


息を殺して兵士をやり過ごす


兵士たちは階段を下っていく


(よし、大丈夫だな)


折角だからとそのまま飛びつつ天井を這いながら移動する


(やっぱりコレ虫みたい。カッコ良くない)


映画やドラマのようには上手くいかない


一階に降りると【探知】で見つけた地下への階段を目指す


夜だからなのか、場内に人が少ないのは救いだ。

でも、ラクリマ駐屯地の様な手薄でもない


慎重に歩を進める


地下に降りる階段には兵士が見張りをしている


【探知】で見る限り地下にも五人兵士がいる


見張りの兵士は『透明化の指輪』でやり過ごすことにした


地下の階段を降りる


下の階にいる兵士は倒す必要がある。


思わず唾を飲み込む


昔から変わらないが戦闘になると緊張してしまう


手を胸に当てて、高まる鼓動に静まれと言い聞かす


(よし。いこう)


【縮地】を使い兵士の背後を取る。


手刀で頸椎を殴打


兵士は気を失い崩れ落ちる。


異変に気付いた他の兵士が剣を抜き集まってきた


「悪いけど全員眠ってもらう【縮地】」


次の瞬間四人の兵士は意識を失った


勝利の喜びを堪能している時間は無い


【探知】で魔族の子が捕まっている場所は分かっている。


急いでその場に向かう


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