第24話 大脱走
時間だ…
流は深呼吸して窓を開ける
『漆黒の翼』を発動して空に飛び出す
今までだったら心臓が破裂するほど緊張していたのに、なぜか今は落ち着いている
間違いなくシャルルのおかげだ
彼がかけてくれた言葉、彼の存在、全てが流のコンプレックスの1つを溶かしてくれた
まだ完全ではない
だがしかし昨日までの自分とは明らかに違う
そんな感覚だ
空高くから牢の小屋を確認した
一気に急加速で降下する
途中で『透明化の指輪』を発動
地面スレスレで止まる
この翼は飛行時に風が起きない
静かな着地をしてそのまま扉を開けた
(あれ?見張りの兵士いないな?)
特に気にせず運が良かったと思い階段を降りる
下には門番がいた
(よし、テレビや漫画でよく見るあれだ)
透明化しているから抵抗はない
手刀を作り頚椎に軽く一撃入れる
兵士は糸が切れた操り人形のように地べたに座り倒れた
門番の腰を探る
鍵があった。
一本一本確認しながら正解を引き当てた
ーーガチャ。
鍵が外れる音がした
扉を開けると中にやつれきった魔族がいた
(よかった生きてた)
ホッと胸を撫で下ろした
魔族達は勝手に開いた扉に驚いていた
(あぁ見えてないのか)
「透明化の指輪」を解除した
突然現れた僕に驚いた夜兎族の子が声を上げようとした
(やばい)
本気の瞬発力で一瞬消えた様に見えたが、声を出す前に口を塞ぐことができた
小声で用件を伝える
「大丈夫だ。僕は味方だ…助けにきた」
皆、突然現れた怪しい男に信用し切れていない
『認識阻害の仮面』を外す
「ほら味方だよ」
僕の顔を見た皆んなは安堵の表情を浮かべた
「ありがとうお兄さん!」
「こわかったよぉ」
「皆んなは」
それぞれが一斉に口を開く
「とりあえず脱出するから!皆んな静かに着いてきて」
再び「認識阻害の仮面」を被り皆を外に出す
人間の囚人達の牢を通る
「おいっ!俺たちも連れてけ!」
「おい!魔族なんか逃さないで人間様を優先にしろコラァ」
皆が騒ぎ出す
階段の方から音が聞こえた
「おいクズ共!何を騒いでる」
上から騒ぎを聞きつけた兵士が様子を見にきてしまった
再び手刀を作り、一気に背後を取り頚椎に一撃を入れた
しかし焦っていた為か力加減を間違えた
兵士は鈍い音と共に吹き飛んでいった
「しまったぁぁぁ、力入れすぎたぁぁぁぁ」
引き飛んだ兵士に駆け寄る
「やばい。。。息してない!!!」
首の骨を折ってしまった様だ
「落ち着け、落ち着け僕、大丈夫、3秒ルールだ!まだ間に合う」
急いでフルポーションを取り出して兵士の口に流し込む
「ごめんね。時間ないから行くけど無事に蘇ってね」
魔族を連れて階段を駆け上った
作戦通り扉を正面にして左手の壁を一部だけ砂に変えた
全員が出ると元に戻し、今度は塀の一部を砂に変えた
同じように全員が脱出出来たので穴を閉じた
駐屯地の裏手にある林の中を走り抜ける
(この先でシャルルと待ち合わせだ)
多少のトラブルはあったが順調に目的地に辿り着いた
そこにシャルルはいた
「K様お待ちしてました。さぁ皆さんを乗せて下さい。皆さん申し訳ないけど木箱の中に1人づつ入っていて下さいね」
シャルルは手際よく魔族達を誘導してくれた
その時1人の魔族が話しかける
「あの、もう1人のおねぇちゃんは?」
「えっ、牢にいた全員連れてきたよ?」
「違うの。牢屋に入れられた日に1人だけ違う部屋に連れていかれちゃったの」
「それは本当か?でもどこにも他の魔族なんて...」
先日、夜中にクラウドが馬車の護衛で出て行ったのを思い出した
「あっあの馬車か。あの馬車は確か王都に…」
流は助けに行くか悩んだ
「どんな子だった?」
「えっとね、“エマちゃん”てお姉さん。羽があってね、悪魔族の子で、でも顔はちょっと不細工なの」
ゴブリンの子が笑顔で教えてくれた
悪意がないのはわかる
だが、不細工という言葉には思わず反応してしまう
「お願い、イケメンのお兄ちゃん。エマちゃんを助けてあげて」
両手を握り合わせ懇願する
「うぅ。わかったよ!じゃあ助けに行くね!」
屈託の無い目に負けた
「乗りかかった船だ。シャルルさん悪いけど、エリーテの南にある森の中に魔族の使者がいる。その使者に流に頼まれたと伝えてくれ」
「わかりました!ところで流とは?」
「・・・僕の本当の名前です。すいません騙してて」
「いえいえ!大丈夫です。今、本当の名前を知れましたし。後、王都に助けに行くんですよね? そしたらこれを」
シャルルはフードのついたローブを貸してくれた
「特に魔法のアイテムではありませんが、姿を隠すには良いかと! それでは御武運を。兵士に見つかる前に行きますね」
別れも早々にシャルルは馬車を走らせた
「よし、僕も行こう」
『漆黒の翼』を広げ空に飛び上がる
「王都まで全力だ!」
流はこの行動が、運命の歯車を動かすきっかけになる事を今はまだ知らない
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