第23話 人の汚い部分

ーー王都ホーラトゥイオ 王座の間ーー


「勇者どもの消息はどうなった? 未だ連絡は来ないのか?」


クラウド・ファースト13世が苛立ちながら配下に問い詰める


「申し訳ありません王よ。間者からの定期連絡が途絶えて1ヶ月ほど経ちますが、依然消息は掴めず…」


「最後に連絡はどこだ?」


「魔王城に突入する前に御座います。勇者のパーティーには我等の兵が搦手として送っており、無事潜入には成功しております」


「裏切ったということは?」


「いえ、それはございません」


「ならば、魔王に勇者は殺されたか、逃走したかのどちらかじゃな。ふん。まぁ良い、どの道あの勇者は殺すつもりだったからな。ただ逃亡されていては困る…兵を送り捜査網を張れ」


「はっ。ですが我等の搦手は相当な手練れ。魔王討伐時、もしくは逃走時には即始末する手筈に…」


「黙れ。召喚勇者は言い伝えでは人知を超えた力を持つと言う。暗殺に失敗したことも十分に考えが及ぶ。早々に兵を放て」


「はっ」。


兵士は早々に王室を出た


「ふん。あの化け物に我が国の英雄は似合わない。召喚の魔石に魔力が溜まれば、また新たに勇者を召喚せよ」


玉座の間に王の声が響きわたる。



ーー最果ての町ーー


「魔族の村の情報は大して集まらなかったし、次の町を目指そう」


身支度を整えて町をでた。


「結局クエスト受けなかったなぁ。お姉さんにも挨拶しないで出ちゃったケド…仕方ない。今は時間が惜しい」


心残りはあれど情報を得るため次の町を目指す


王都に近づけば、より信憑性のある情報も得られるだろう


丁度次の町に行く行商人を見つけた


荷台に乗せて欲しいと話をつける


「次の村まで乗せてくれ。金は払う」


「もちろんいいですよ。冒険者が乗っていてくれれば護衛にもなります」


快く承諾してくれた商人に感謝して荷台に乗り込む。


馬車は走り出し次の町を目指した


商人の名前はシャルル


王都に店を構える大商人だ


(いい人に巡り会えたな)


「それでK様はどちらへ行かれるのですが?」


シャルルは雑談を持ちかけてくる


「あ、あぁ。特に目的は無いんだが世界を目で見ようかと」


「それは素晴らしい。世界は広いですからね。口伝や書物ではわからない事が沢山ありますもんね。私なんかも商いで旅をする事がありますが………」


シャルルはお喋りが好きな様だ


流はそれとなく情報を聞き出す事にした


「そういえば王都では戦争の準備で慌ただしいらしいな」


「あぁ、それは半分正解で半分間違いです。王都は確かに魔族と戦争していますが、それは王都にとってあまり重要では無いのですよ」


「それは一体!?」


「そもそもこの国は王都をぐるっと辺境伯が治める領地が囲んでいます。これは中央の王都を防御する為の防壁の役割です。ですが実際戦争をしているのは『ドラザック領地』だけです」


ドラザック領は初めて聞いた名前だ。


今いる領地はクフマーリア領というそうだ。


「ドラザック領では魔族と王国が毎日戦いを行う最前線の場所があります。ちなみに今その領地の住民はどんな生活をしてると思われますか?」


「そりゃ戦争の最前線じゃ貧困に喘ぐ苦しい生活をしてるんじゃ?」


「いえ、逆です。最前線を支える町、ドリーカムラはカジノなどの娯楽施設が立ち並び豊かな生活を送る住民で溢れています」


「えっ? 戦争してるんだよね?」



「そうです。戦争してるから栄えてるのです。もし人類に不利な戦いな、K様が仰った通りでしょう。しかし今の戦は、言うならばデモンストレーションなのです。魔族との戦いがあるといえば国民の指揮は高まる…戦場ともなれば兵を要し人が集まる。そうすれば娯楽が必要になります…ストレス発散は必要ですからね。そうすれば経済が回る。我々商人ももうかります。正直この戦争は国のビジネスでもあるんですよ」


シャルルの口から出た事に驚愕した


しかし理にかなっている


僕がいた世界でも大国が戦争を起こす時は、保管している火薬の消費期限が近い時とも聞いた。


戦争をすれば鉄が必要になり、武器を作る人手、運び手、使い手と人が必要になる


増えすぎた人間に仕事を与える究極のビジネスは“戦争”なのかもしれない


それに...大義名分で口減らしもできる。


その責任は魔族に擦りつける


何とも悪意のある、しかし理にかなったバタフライエフェクトだ。


「国は腐ってる」


怒りを隠せない


「はい。そう思います…ですが人間は増えすぎた。ですが、もし魔族がいなくなれば、次は人間同士で殺し合いになるでしょうね。我々はもう破滅の道を進んでるんです。あとはその日がいつの日か」


商人は一瞬顔を暗くした


「まぁ先のこと考えても仕方ないので、私は日々精一杯商品を売って、儲けさせていただきますよ」


シャルルの商人としての在り方は正直嫌いじゃない


自分のできることをしっかり把握している


それに対して僕は…


(ただ顔を馬鹿にされてるから滅ぼすとか子供だな)


自分の出来ること。自分がしなくてはならない事


それを見つける為の旅


序盤で国の陰謀を聴けたのは大きかった


「それに王国の狙いは多分ですが魔王だけですよ」


「何故?」


「それは...いや、この話はやめましょう。信憑世が無い。これから世界を見て回るK様に先入観を与えては良くない」


シャルルは話題を変えた


それから他愛もない話が続き時間が流れる


途中、馬を休ませる為に川沿いでキャンプをする事にした


シャルルは寝るまで話を続けた


僕は生きてきてこんなに話を人とするのは初めてだった。


寝る間際に僕の運命を捻じ曲げた神に少し感謝した

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