第22話 死屍累々
村に降りるとその異様な光景に戸惑いを隠せなかった
「なんだこの荒れようは」
確かに此処には村があったのは間違いない
しかし戦場の中心であったかのように、荒れ果てている
生存者がいないか、とりあえず確かめようと思い、一軒一軒確認する事にした。
ーーコンコンーー
扉をノックする。しかし返事はない
「あっ...あの〜夜分にすいません〜。入りますよぉ」
扉を恐る恐る開ける
中は暗く何も見えない
『導きの光』を発動させる
指輪から光の球が現れ辺りを照らす
光に照らされた家の中は荒れ果てていた
人(魔族)が住んでるとは到底思えない惨状だった
「まさか、襲われたあとなのか...」
また一軒。
また一軒。
次々と覗いていくが生活を感じさせる痕跡がない
また違う家を目指すとそこに魔族の死体を見つけた
「うぅ。まさか、本当に襲われたあとだったのか」
さらに辺りを見渡すと鎧を着ている人間の死体もあった
その鎧には見覚えがある
召喚された際に、その場にいた兵士たちが着用していた物と同一だった
「くっ。王国の兵士に襲われたのか...」
だが、わざわざこんな辺境の地になぜ来たのか疑念が残る
町の人達の反応では"近付くな"位の感覚で、人の生活圏にこの村からの被害があったとは考えにくい
勿論、報告が王国に入っていても不思議ではないが、わざわざ討伐隊を送り込むか?
廃墟の村を探索し、何か情報がないか探る
広い場所に出たがそこは死屍累々で死臭が漂っていた
ーーおぇぇぇ
惨劇の現場に強烈な腐敗臭
耐える事が出来ず吐瀉物を撒き散らした
口元を拭い『アクエリアスの恵』を一気に飲む
込み上げる内容物を押し戻した
少し吐き気も治まり辺りを見渡す余裕が出た
(そういえば...おかしい)
異変に気づく
「家の数に対して魔族の死体が少なくないか?」
魔族の見た目は中々見分けにくいが女、子供が少ない気がする
「まさか捕虜として連れて行かれたのか?」
その後、全ての家屋を調査したが、生存者の確認は出来なかった
村人、武器、財宝、魔法のアイテム何一つ残っていなかった
全てを調査し終わった流は村の中央に戻った
先程来た時に気になる物を見つけたのだ
広場中央に佇む、何かの悪魔をモチーフにしたであろう銅像。
掲げられた左手に薄ら光る魔石であろう球
『漆黒の翼』を出して軽く浮き上がり、その魔石を外す
すると辺りを覆い尽くしていた霧が、魔石に吸い込まれた
「やっぱりそうか。この魔石が霧を作っていたんだ」
『霧の魔石』と呼ぶ事にしたそのアイテムを魔法のバックにしまった
「とりあえず宿に帰ろう。もし監視者がいたら困るから姿を消そう」
『透明化の指輪』を発動して姿を消す
空を飛びながら周囲を観察する
村から百メートル程離れた場所に兵士達と魔族の屍を見つけた。
馬車を引いていた様だが、馬も死んでいる
荷台を見ると武器やアイテム。少量の財宝が乗っていた
「これは相打ちなのか?」
状況は分からないが、とりあえず、荷台に積まれた荷物を全て魔法のバックに収納する
「日の出まで1時間もないな。急ごう」
透明化の残り時間も勿体無いので、村から少し離れたとこで解除した
出せる限りの速度で宿まで戻る
「そういえばこれ風圧とかなんで平気なんだ?」
細かい事が何故か気になったが些末な事だと考えるのをやめた
町の門が見えてきた
念のため『透明化の指輪』を発動し、そのまま宿まで飛んで帰った
東の空を見ると、若干紫色に変わってきていた
「危ない...ギリギリだったなぁ」
額から嫌な汗が出る
袖で拭いながら自室のベットに戻った
「とりあえず一回寝よう」
布団を被り瞼を閉じる
...先程の村で見た惨劇が目に焼き付いている
吐き気がまた戻ってきた
部屋が軋む音がする
神経が敏感になっているみたいだ
「寝ろ寝ろ寝ろ寝ろ寝ろ寝ろ寝ろ寝ろ寝ろ寝ろ寝ろ」
自分に言い聞かせる
鳥が我関せずと朝日に合わせてチュンチュんと鳴く
窓の隙間から朝日が差し込む
頭まで布団を被り光を遮る
寝れない状況が続いたが気がつくと夕方になっていた
「ハァハァ。寝れたけどなんて最悪な目覚めだよ...」
疲れ癒えぬままベットから起き上がり回収した荷物を確認する事にした
「何かヒントになるものが有ればいいけど」
目の下にクマを作りながら確認作業を進めた
ご飯を食べることもしないで作業を進めた
正確に言うなら食べれなかった。
村の光景はしっかりとトラウマを植え付けた
多分、魔王軍に寝返ったからこその精神的ダメージだ
もしこれが召喚されたばかりの頃なら殺された人間に同情し涙を流したことだろう
今は双方の事情が浅くだが理解している
今回は確実に人間側の略奪行為だ。
しかも王都直属の兵隊がだ
つまりこれは“王の命令”だということだ
「奴らは一体何を企んでいるんだ」
段々と怒りが込み上げる
何とか情報を掴もうと努力したが、結果何も手がかりは無かった
「せめて生存者がいれば…」
奥歯が軋むほど噛み締めて怒りを露わにした
人間の行動にか、無力な自分へなのかはわからない
一旦ギルドへ向かう事にした
村の情報をくれた受付嬢に話を聞きたかった
ギルドに着くと受付嬢に声をかけた
「あの」
「はい、あっKさん」
「こんばんは。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「はいどうぞ!何でしょうか?」
この受付嬢は笑顔が本当に可愛い。そばかす混じりの田舎娘という感じだが、このイモっぽさがなお魅力を引き立てていた
「あっ、この前聞いた魔族の村の事だけど」
「まさかKさん!討伐に行く気じゃないでしょうね!!」
受付嬢の顔が少し怒った風に変わった
「いやいや違うよ! 王都が兵を派遣したとかそういう話はないの?」
「えぇ!まさか!ありえませんよ〜」
「何故言い切れる?」
「王都の兵がこんな辺境の地にある魔族の村なんて駆除しにきませんよ。第一何も被害ないですしね」
「なるほど。わかった。つまらんこと聞いてすまない」
「大丈夫ですよ!それよりKさん!ちゃんとクエスト受けて実力つけてください!まだKさんから受注受け付けてませんよ!!」
少しお怒りの受付嬢のだが、僕を心配しての事だろう
「あっ、はい。すいません」
「いいですよ!クエスト受注お待ちしてますね!」
再び笑顔になった受付嬢は、笑顔で手を振り僕を見送った
(あの子可愛いなぁ。今度名前聞いてみよ…)
受付嬢と話して少しリラックス出来たのか、空腹を感じた
宿に戻る前に飯を食おうと思い適当な飲食店に入った。
油断すると吐き気がまた呼び起こされるが、そんな時は受付嬢の笑顔を思い出して心を沈めた
(人類滅ぼしても、あの子だけは助けてあげよう。)
そう心の中で勝手に決意したのだった。
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