第21話 越えろ濃霧の森

席に座って名前を考える


しかしいざ考えるとなると悩む


あまりカッコよい名前を書けば黒歴史になりかねない


認識阻害の仮面を被ってるとはいえスタイルは周りから見ればチビデブのままだ。


「ダーク、ライト、ジェノス、ストライダー、フレイ、クロノス...うーん。どれもしっくりこない…」


5分ほど悩んだが正解がわからない


「こんなに名前付けるの難しいのかぁ。そりゃ親もこの名前なら虐められるかもとか考えて付けてる余裕ないよな」


流はこっちの世界に来てからの事を考える


「そういえばこっちに来てもろくな人生じゃないなぁ。雑な扱い。仲間達からの陰での誹謗中傷。そして人間への裏切り。魔族の仲間。うーん」


良くも悪くも日々が充実していた


「なんか嘘の様な人生だなぁ。嘘って英語でライだっけ。うーん違うなぁ。僕はこれから真実を見極めたいんだよなぁ。確かそういうのは慧眼て言ったよなぁ」


流はようやく名前を決めた


「よし!『K』にしよう!トランプだったらキングって意味もあるしかっこいいじゃん!」


早速書面に記載した。



ーー登録書

名前:K(けい)

職業:戦士

魔法適正:土



その他適当に埋めた


前回の登録もあまり詮索されなかったので問題ないだろうと考えていた


冒険者はどこで死ぬかわからない。

結構雑な情報管理でも成立してしまうのだろう


書いた用紙を受付まで持って行った


「すいません。これお願いします」


「あっ、書けましたか。拝見しますね」


受付嬢は上から順に書かれた情報に目を通していく。


眼球だけが忙しなく動いていた


「はい、確認しました。これで登録完了です。今、冒険者カードを発行しますね」


そういうと受付嬢は裏へ一旦消えると、冒険者カードを持って出てきた


「はい、こちらが冒険者カードです。紛失された場合再発行に手数料を頂きますのでご注意ください」


「わかった。感謝する」


冒険者は敬語を使わない。


これは最初に教わった暗黙のルールだ


「ところで、この辺りにはダンジョンや魔族の集落はあるか?」


「はい。ダンジョンは町の東門を出て真っ直ぐ道を進むとありますよ。魔族の集落はその先にある濃霧の森にあると言われていますが、駆け出し冒険者さんには危険ですから絶対行っちゃダメですよ」


どうやら僕が魔族狩りに行こうとしてると思われた様だ


「大丈夫だ。情報は命。聞いておきたかっただけだ。しばらくはこの周辺の低クエストをこなして、実力をつけるさ」


受付嬢はホッとしたようで笑顔で見送ってくれた


(魔族の集落にまず行くか。とりあえず町を散策しつつアイテムショップを探そう。あと宿もだな)


「あっKさん!」


一瞬反応が遅れた


僕はこの世界でこれからKとして生きていくのだ


「なんでしょう?」


「御武運を!」


受付嬢の笑顔が眩しい


女性にこんな笑顔を向けられるなんていつぶりだろう


僕の醜悪な顔が見えていないからというのはわかっている


それでもやはり笑顔っていいなぁと感じた


町を1時間ほど歩くと魔法アイテムの販売店を見つけた


かなり大きな商店で3階建てだ


1階が日用品

2階が冒険者向き

3階がレアアイテム


折角だし一回から見て回る事にした


ーー擦るだけで火種ができる魔法アイテム

効果:使い捨てだが簡単に火を起こす事ができる

値段:10ホーラ


通貨の単位はホーラ。王都の名前が『ホーラトゥイオ』だからだろう


地球の感覚では1ホーラが1円て感じだと思う


今の僕が所持している路銀は100万ホーラ


そこそこの贅沢は可能だろう


便利そうなアイテムをいくつか購入して魔法のバックに入れた


無限の収納を誇るこのバックは本当にありがたい


続いて2階へ向かった


流石にこのフロアは攻撃や防御に特化したアイテムが多い


魔法の効果を閉じ込め、投げる事で魔法を発動させるアイテム『魔封石』とかも便利だなぁと思った


土属性しか持っていない僕は、火属性と水属性の『魔封石』を探してみた


しかし、効果の割に値段が高いと思い購入はやめた


続いて3階に向かう


「インビジブルスペースあったらいいなぁ」


3階はレア物だ


魔王城宝物庫の番人は人間界で買えるが高価で手が出ないとも言っていた


有るとするなら3階だろう


3階は他の階と違って商品の数は少ない。


ガラスケースに入った剣の一つを見る


ーー雷鳴剣 ゼウスの牙

効果:剣から強力な雷を放ち任意の敵を撃ち抜く

打ち出された雷は高速で襲いかかり防御はほぼ無意味。雷を食らった者はしばらく麻痺で動く事ができない。しかも雷の放出は魔力を消費しない。剣に雷を纏って切り裂くことも可能

金額:15億ホーラ


金額を目にして内臓が口から飛び出た。かと思った


「ふざけんな!こんなもん貴族しか買えねーし!本当に必要なのは冒険者にだろ!!!」


思わず声が出てしまった


店員にギロリと睨まれたが、口笛を吹いて店内を見て誤魔化す


インビジブルスペースを探すが、物がわからないので店員に聞いた



「インビジブルスペースって売ってますか?」


「はい、そちらは取り扱いは御座いますが、現在、在庫がありません。入荷時期は未定です。申し訳ない」


「ちなみに入荷があった場合の販売価格は?」


「はい、その商品は、職人の手で作れるのですが、いかんせん納品数が少なく需要は高いため高額になります。総額ですが、ざっと2億ホーラで御座います」


先ほどゼウスの牙についた値札のせいか、2億でも安いと思ってしまった。


「わかりました。また来ます。もし入荷が有れば教えてください」


要件を伝え一礼すると店を出た


「よーし…宿を探そう」


すれ違った人間に場所を聞く


宿屋に着くと禁書庫から持ってきた土属性の魔法百科なるものを魔法のバックから取り出し、ベットで寝転がりながら眺めた


「結構知らない魔法多いなぁ。今度どこかで使ってみよう」


瞼が重くなり視界が消える


また今日も無事1日が終わった


深夜。


目が覚めて外に出る支度を始める


魔王軍に属さない集落があると噂を聞いたので探索に行こうと考えていた


濃霧の森ということもあり地上から歩いて探すべきだろうがおおよその当たりを付けるために空から探そうと考えた


東門に向かうも、深夜ということもあり門は閉まっていた


仕方なく、近くの人気がない場所を探して『漆黒の翼』発現させる


一瞬で空高く舞い上がり、明かりひとつない漆黒の世界に溶け込む


空を飛びながら地上を観察するとダンジョンらしき洞窟を見つけた


「明日にでも潜ってみよ〜」


そのまま進むと、辺りに霧が立ち込めてきた


濃霧の森に入ったようだ


さらに高度を上げる


上から見ると、霧がドーム状に森を覆っていた


「これ自然発生じゃないな」


何かの能力だと確信した


つまりはドーム状の中心から降下すればそこに何かしらがあるのだろうと予測した


さらに高度を上げる


「あった。あれが中心だな」


中央からそのまま降下を始める


地上付近までくると予想通り霧が晴れる


そこには村があった

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