第7話 思い出す過去。自分の原点を忘れるな

魔王軍に寝返って初めて知った事実に気力を失った僕は人間恋しさにテラスにやってきた


魔法使い:エリーシャの像と向かい合い無気力に話しかける


「エリーシャさん、僕辛いよ。だってさ思い描いてたのと違うんだもん」


エリーシャの像はただ無言で僕を見つめている

この魔法は意識がある。つまり反応は無くても聞こえているのだ。


「人間界では化け物扱いされてさ。魔王軍に入ったらイケメンモテモテになると思ってたけど女の子みんな化け物なんだもん…… エリーシャさん。この魔法解いたら僕と付き合ってくれる?」


問いを投げかけてみたが答えは分かっている。

付き合うくらいなら石化してた方がマシと彼女なら言うだろう。


王都から旅をして魔王城に来るまでの間、特にエリーシャは僕を汚物のように思っていた事を知っている


あれは王都からでて最初の村にたどり着いた時だ


――― 三カ月前 ―――


道中魔物との戦いに疲労を隠せない勇者一行はついに村を眼前にとらえた


「もう疲れたわ。MPもカラカラよ。美味しいご飯にお風呂。。。流、早く村に行きましょう」


エリーシャに促され村に入っていった


村は王都とは異なり寂れていた

村人も痩せこけ覇気が無い


「こんにちは村人さん。宿屋はあるかしら?」


エリーシャは臆すことなく村人に話しかけた

流はこういう所は本当に見習わないとと感心した


(僕なら絶対オドオドして声かけれない……)


エリーシャは村人から情報得た様で僕らの元に戻ってきた


「温泉があるらしいわ!」


エリーシャは目を輝かせて僕らに伝えた


「行きましょう♪」


先ほどまでとはうって変わって軽い足取りで僕らを宿まで案内した

付いた先は良く言えば古民家

悪く言えばボロ家だった


エリーシャは一瞬顔を顰めた。しかし何かを覚悟したように


「野宿よりましよ。何より温泉があるもの」


そう言うと先陣を切り宿の中に入っていった


部屋はそれぞれ一部屋ずつの計四部屋借りた


一人銅貨5枚で安かった


「それじゃあみんな! 明日ね」


エリーシャは早々に部屋に入っていった


僕らもそれぞれの部屋に入った


ベットは少し硬めだったが僕は大の字になり寝ころんだ


「そういえば召喚された時もこんな感じで天井見てたな」


召喚される前と後では生活が激変した。

日々をただ生きてるだけの僕が、今では世界の命運をかけて戦う勇者だ


「もしこれで魔王を倒せたら僕も友達や恋人が出来るのかな?」


元いた世界では叶わぬ夢だが今いる世界ではわずかな希望を持てる


「一日も早く魔王を討伐しなきゃ」


独り言は部屋の中に溶けていった


「僕も温泉いこ~」


装備を外し、備え付けの汚いタオルを手に持ち風呂へ向かった


風呂は洗い場などがあるわけではなく人が10人くらいは入れそうな温泉がそこにあった


「うわぁ露天風呂か~」


掛け湯をした後、頭を流して洗い体を手の平で擦った。

石鹸などは無いがそれでも暖かなお湯を体に掛けるだけでも汚れが取れていく気がした

つま先で温度を確認しながらそーっと中に入った


「あぁーーーーー」


思わず声が出る


身体が芯から温まり、凝り固まった疲れをほぐしてゆく


「これは天国だぁ~」


広い湯舟を独り占めしながら空を見上げて風呂を楽しんだ


するとエリーシャとクリーフの声が聞こえた。


簡素な壁を挟んだ反対側に女湯がある様だ

何故か僕は無意識に息を殺してしまった


壁の反対側に裸の女性が二人。しかも顔見知り。悪気が無くても想像してしまう

固唾をのんで聞き耳を立てた


「あぁ~さいっこう~。疲れが吹き飛んじゃう~」


「これも神からの御恵みです。感謝いたしましょう」


「クリーフは本当に信仰が厚いわね~疲れたりしないの?」


「全ては主の導きです。感謝すれど疲れなんて御座いませんわ」


二人は他愛もない会話で風呂を堪能していた


「しかし、流のあの顔。最初見た時魔物かと思ったわよ」


エリーシャは小馬鹿にした感じで話を始めた


「普通勇者ってイケメンて相場が決まってるのよ。まぁ魔王を倒して私の名声を上げたらもう会う事もないからいいけどね」


いつも優しく接してくれていたエリーシャの口からそんな言葉が出るとは


僕は風呂の中で絶望した


「エリーシャさん。聞かれたらどうするのですか。それにあの顔であることも試練なのですよ」


「クリーフってすごいわね。じゃあさ、神の導きなら流とセックスできる?」


エリーシャはクリーフがどう答えるのかワクワクしていた


「……無理」


エリーシャは腹を抱えて笑いこんだ


「流の顔は信仰も曲げる位醜悪ってことね」


「……想像させないでください。不快ですよ」


クリーフは表情も変えずエリーシャを見つめ言い放った


「まぁ私だって同じよ。正直手が触れるだけでも気持ち悪いわ。いつも触れちゃった時は薬草で拭いてたもの」


「それを言ったら私だって回復するたび感謝の言葉を述べてくる勇者の顔を見る時は吐き気を我慢していましたよ。これも神が与えた修行なのですよきっと」


二人は流がいないと思い流の棚卸を始めた


喪家の狗のようになった流は体を拭くことも忘れ静かにその場を後にした


ベットに潜ると二人の会話が頭を廻る


「魔王さえ倒せば……僕だって……」


何か希望を持たぬ限り自害してしまいそうだった。


寝れぬまま夜が明け、エリーシャが元気な声で部屋の外から話しかけた


「流そろそろ行くから支度して頂戴~置いてっちゃうわよ~」


魔王討伐まではエリーシャは僕に表向きを良くしてくれるようだ

しかし、エリーシャもクリーフも腹の中では僕の事をどう思ってるか知ってしまった

だが二人は僕が知ってることを知らない


僕は今までと同じように振る舞い冒険を続けなくてはいけなかった。

この仲間たちは他の人間と違う

そう嘘でもいいから信じさせていて欲しかった


「……うん……」


僕は力無く、だが精一杯の返事を返した


支度を済ませ宿を出ると三人は笑顔で迎えてくれた


昨日の会話が嘘なのか、この笑顔が嘘なのか僕は考えることを止めた。



――― 現在に戻る ―――


「エリーシャさん、僕は恨んでないよ。だって今は結構楽しいんだよ。確かに女の子はいないけど、友達もできた。君達とは違って偽りじゃない」


流はガル―を思い出した


「寒くなってきちゃった。とりあえず部屋に戻ります。エリーシャさん達はそのまま石像として世界の行く末を見守っててください。僕が人類を滅亡させた暁には…」


流は最後まで言うのをやめた

そして一礼すると部屋に戻っていった


「話しかけて自分の原点を思い出せた気がする。人類は皆滅ぼすって決めていたんだ 女の子に浮かれてる場合じゃないよね」


両手で頬を二度叩くと気合を入れ直した

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