第13話 肝心なものが・・



鳥のさえずりが聞こえてくる・・

私は毛布から顔を出す・・

窓の外は明るい・・

今何時なんだろう・・


やけに頭が痛い・・

飲み過ぎたのか・・

何だよもう!・・

前髪が目に入って煩い・・


私は髪をかき上げながら・・

昨日の事を思い出そうとする・・

何なんだよ!・・

髪の毛が目に入る・・


何?!

何だあ?!!

指にマニキュアをしている・・

しかも赤だ。


いやいやいや!!

これは俺の指では無い!

手も違う!

足も俺のじゃあない!!


何だよ、これは! 

乳房がが付いてる!!

女の体か?!

俺は洗面所に飛び込む・・


鏡の中の俺は俺じゃあ無かった。金髪の長い髪、大きな二重の目、赤い唇、恥ずかしいほどデカい胸、真っ白な肌、むちっとした体・・とてもじゃあ無いが見ちゃあいられない。


ガシャとドアが開いて娘が入って来た・・

「あっ!」と言って娘は出て行った。


「ママー、パパが気が付いたよ!」


バタバタと足音がして二人がやって来ると妻が言った。


「お帰りなさいあなた。ぼーっとしてないで居間に来てよ。」


私は妻に促されて居間のソファーに座った。


「何で俺は女なんだ??」


「覚えている分けは無いよね・・ あなたはバイクで事故ったのよ。ほぼ即死でね。脳も酷い損傷で駄目だったのよ。」


「じゃあ俺は?」


「あなたは意識のバックアップを取ってたでしょう?ロボットにインストールすれば死んでも復活できるからって。」


「嘘だろ!じゃあ俺は、あのバックアップか? でも、何でこの体なんだよ・・」


「我が家の財政では、意識をインストール出来るアンドロイドは買えないわよ。一体が六千万もするのよ。家のローンも終わってないのに・・」


「じゃあこれは?・・」

と両手のマニキュアを見ながら私が聞く。


すると娘が言った。

「私がネットで見つけたの。650万円のセックスアンドロイドの中古。脳の容量がそこそこ有ったので専門家に相談したら、何とか意識が入るだろうって言うから。650万円なら何とか買えるかなと思って・・」


「でね、あなた・・家のローンとこの650万が有るのよね・・働いてもらわないと困るのよ・・」



   ◇   ◇


私の仕事はプログラマーだ。

IT業界では、システムエンジニアがお客の要望に沿った、システム開発を受け持つ。


そのエンジニアの作成した設計書に従い、プログラミング言語を用いてコーディングしていくのが私の仕事で、言わばシステムエンジニアの下請けみたいなものだ。


プログラミングは根を詰める仕事なので、時々は息抜きをやらなければやっていられない。気が詰まって来ると私はバイクで近くの高原地帯を走る。どうやら、その時事故って死んだらしい・・


それはそうだろう、俺が居なければプール付きのこの家は手放さなきゃあならなくなる。セックスアンドロイドの中古とは言え650万円なら格安だ。


しかし いくら何でもこの体は酷過ぎる・・見るからにエロく作られている・・とても人前に出れたものでは無い。

それに、この体で妻が抱けるのか? 妻が嫌がるだろう・・いやいや、それどころじゃあ無い・・肝心なものが無いのだから・・・


































  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る