第12話 指定難病

あなたの病気は難しいだけでは無くて、はっきり言って奇病なんですよ。これは政府の指定難病検討委員会で検討してもらうしかありません。度の強い眼鏡をかけたその教授は腕組みをしながら話しを続けた。


「もし奇病難病指定になりますとね、政府から研究費が出ますので、あなたに治療費は掛かりません。すべて研究費として処理されます。」


「それは有難いのですが、指定されるでしょうか?」

と患者は疲れた様子で教授を見上げた。


「私の見立てではあなたの病気は進化の逆行がと思います。例えばチンパンジーのように体毛が獣みたいな人がいた場合。進化の逆行と言います。」


「それが私の背中の腫瘍とどう関係があるのでしょうか?」

男はこの数年間、再手術の繰り返しで教授を信頼する気になれなかった。

しかし治療費をただにしてくれるのならと、そこに縋る思いで話を聞いているのだ。


「あなたの腫瘍は普通の腫瘍ではありません。過去に例が無いのです。カルシュウムで出来た腫瘍なんです。我々は太古の昔、背中にカルシュウムの殻があった時代があるのです。あなたは過去に向かって退化しているのかもしれません。何度カルシュウムの塊を取り去っても再生されてしまうのです。

放置すればあなたはカタツムリになってしまいます。そうなれば我々ナメクジ社会から追放されてしまいます。奇病難病に指定してもらう以外に方策は無いのです。」そう言いながら教授は長ーい目を伸ばして患者の腫瘍を観察するのだった。

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