第11話 敵の敵は味方

ー日本分裂ー



北海道にある ザ、ウィンザーホテル洞爺は2008年にG8国際会議が行われた名門中の名門と呼ばれるホテルだ。洞爺湖の美しい景色を前面に配した素晴らしいホテルとして知られている。今回の会議はアイヌの故郷である北海道での開催となった。


私は今回の会議の座長として最初の挨拶をする事になった。


「皆様今日はこの会議の為に遠路お集まり頂きまして誠にありがとうございます。私は中曽根と申しましてこの会議の座長を仰せつかった者でございます。よろしくお願いします。 私が今回の会議のパネリストの方々を紹介します代わりに、パネリストの方に過去から現在までの状況を、自己紹介を兼ねてお話し頂きたいと思います。初めに琉球王国の末裔の方からお願いします。」



「私は琉球王国の末裔、  喜屋武(きやたけ)と申します。。

ご存知のように明治12年に日本軍の力を用いて首里城を占拠し琉球は日本に併合されました。これにより500年続いた我が琉球王国は終焉したのです。第二次世界大戦では日本の盾になって悲惨な戦場になりました。沖縄は日本の代わりに犠牲にされたのです。それなのにです、皆さんご存知の通り我が民族への差別と偏見は酷いものがあります。米軍基地のほとんどを琉球に押し付けるばかりか、米軍兵士に女子中学生がレイプされても本土では沖縄に同情すらしません。これでも日本は単一民族で差別が無いと言っているのです。彼らに正義などありません。我々は団結し戦いましょう。」



「私はアイヌ民族の末裔、知里(ちり)と申します。

北海道は明治政府がつけた名称であり、本来はヤウンモシリと現地では呼んでいました。ヤウンモシリは縄文時代から続いた大きなアイヌの文化圏だったのです。


徳川家康からアイヌとの交易を認められた松前藩はアイヌに不利益な交易を進めそれが原因で松前藩とアイヌの間で戦いが起きました。

戦いを収めるための平和交渉の場で、アイヌのリーダー達が松前藩の卑怯な陰謀により惨殺されたのです。平和交渉の場でですよ!・・リーダーたちを失ったアイヌは次第に松前藩に支配され奴隷として過酷な労働を課せられた末、病気が蔓延し人口を壊滅的に減らしたのです。

さらに酷いのは昭和の初めに北大が研究と称してアイヌ先祖の墓を暴き104体もの遺骨を持ち帰った事です。今でも60数体の遺骨の返還がなされておりません。アイヌ文化は日本により壊滅され先祖の墓まで荒らされたのですが、そのことは教科書にも乗らず我々は悔しい限りでございます。敵の敵は味方です、それは世界でも通用します。日本があらかさまに敵扱いする国々からの資金的協力を確約されています。我々はいつまでも被害者では有りません。近いうちに雪辱を果たすときが来るでしょう。ご清聴ありがとうございました。」




「 私は唐津職人の末裔   李(り)と申します。

今から400年ほど昔、豊臣秀吉の朝鮮出兵により朝鮮半島から強制連行された陶工たち数百人の末裔です。朝鮮の拉致を言うのなら私たちも日本に拉致されたのです。しかも数百人です。我々は故郷から切り離され代々この地で暮らしてまいりました。私たちは今でも著名な陶芸作家として活躍している人もおりますが、昭和に入ってからの差別のため名前を変えたり辛酸をなめてきました。私がそれを言うと、「そんなの僅かな人数だ」と言うのです。日本本土には僅かな人には権利が無いというふざけた考えが有るのです。

敵の敵は味方です。我々は連帯して対抗しようじゃありませんか。」



「私は山をせんと読む民族の末裔、仙石と申す者です。

今から1500年以上昔、中国に道教と言う思想が生まれたました。それは、宗教や科学、医学、天文学まで含む壮大な思想だつたのです。それは日本にも伝わり日本漢方を発展させ、その他の日本文化の向上に大きく貢献したのです。それを伝えた人達の末裔が山陰地方に居たのです。彼らは山をせんと読む人々だったのです。今でも鳥取県 島根県 岡山県 兵庫県に50程の山(せん)の付く山々があります。当初はそれなりの地位にいた我らも明治以降のナショナリズムの高まりの中で差別を避け山間部へ潜む様になったのです。今では何故、山をせんと読むのか知る人もいません。日本は一つでは無いのです。少数を差別し少数の文化を消し去ったのです。敵の敵は味方、、その考え方で我々はここに集っているのです。」




ー座長ー


「皆様の貴重な御意見たいへん心に響きました。それぞれの皆さんの一族と先祖の苦難が良く分かりました。そこで皆様に朗報がございます。

現在先進国ではしきりに脱CO2を進めていますが、表向きには温暖化対策と言いながら豊富なオイルマネーを消し去り再び世界を英米EUで支配しようと企んでいるのです。オイルマネー消失で被害を受ける国を見れば分かりますよね。サウジアラビアやアラブ連盟、それとロシアです。この国々の経済的破綻を目論んでいるのです。今回この国々からの代表も来て頂いております。我々の組織に莫大な資金援助を頂けるそうで御座います。

それでは代表して、オサマ様にスピーチをお願いします。」



「石油輸出国機構の影の代表をしておりますオサマです。何百年もの昔から白人達は世界を支配するのが目的でした。それは今も変わりません。

現在アジアは経済が著しく伸びており中国、インド、韓国、日本の経済力は合計すると既にEUやアメリカを抜いているのです。アメリカとイギリスは、それを回避する為に中国とインド、日本と中国、韓国の分断を図っているのです。昨今の国際ニュースを見れば私の考えが正しいのは分かりますね。私達は中国にも特使を送ります、もちろんインドにも送りました。日本には私が来ました。

敵の敵は味方です。いつまても勝者の横暴を許してはいけません。先祖の名に恥じます。我々は連携すれば白人達より優勢なんです。協力して我らの文化と資源を守りましょう。ご清聴ありがとうございました。」



ー座長ー

「オサマ様、とても鋭いお指摘誠にありがとうございました。そのような視点は大切だと考えます。中東も中東アジアでございますから私たちのアジアの仲間でございます。この会議の面々はその事を理解しております。今後ともよろしくお願いします。 それでは皆様、隣りのパーティ会場の方に移動をお願いします。なお次回の会議は来年の2月にマレーシアで開催します。事務局より仔細がメールで届きます。厳重な暗号が掛けてありますが、暗号無しでの連絡はご注意下さいませ。それではどうぞパーティー会場の方でお楽しみ下さいませ。」


古来よりアジアは西欧米国により分断され利益を吸い上げられて来た。アジアを裏切り白人達に加担する日本の中枢は、日本周辺の少数民族を侵略し地方を食い物にし繁栄を謳歌しているのだ。彼らに正義などあるはずが無いのだ。

敵の敵は味方だ。我々は一致団結するのだ。



ーそして3年が過ぎたー


日本は北海道と九州の【民族連盟】が本州と四国の【本土連盟】と対立するようになった。自衛隊も郷土故郷を守る勢力により民族連盟と本土連盟に分かれたのだ。米軍は日本を攻撃する選択肢は無くとりあえずグアムに移動を始めた。津軽海峡をはさんで核ミサイルが設置され、関門海峡も双方のミサイルで一発触発の危機が迫った。

双方に20発ほどの核弾頭つきロケットが有るものと想定され何が起きるのか各国は固唾をのんで見守ったのだ。


核を前面に出している以上どの国も介入は出来ない。介入すれば世界が核戦争に巻き込まれ世界は終わるのだ。介入せずに日本同士でやれば日本の破滅だけで他は巻き込まれずに済む。


他力本願の日本は本土連盟は米国を、民族連盟は中ロを当てにしていた。しかし中ロと米国はホットラインで話し合い、世界を守るため見守る方に回ったのだ。そして米軍は密かにグアムに部隊の移動を終了していた。



ー東京の板橋に高橋という家族がいた。ー

父親は北海道の出身で兄弟は北海道に住んでいた。一方妻は板橋出身で二人は連れ子を連れての再婚だったのだ。


高橋家の父親と長男が警察にスパイの疑いで連行された。メールで北海道の家族と頻繁やり取りをしたのが原因だった。残された母と弟は不安に怯えた。

「お母さんと僕は何故逮捕されないの?」

「私とあなたは出生が東京だからよ。お父さんとお兄さんは北海道出身で、お父さんの家族も北海道にいるからね。」

「でも僕らはこの対立になんの関係もないだろう?」

「ぜんぜん関係ないわよ。きっと疑いが晴れてかえって来るわ。」


次の日の昼頃になって父と長男が解放されて帰ってきた。

父親が厳しい顔で言った。

「俺と長男が軍隊に志願することで返してもらえたんだ。下手をすると俺たちは北海道の兄弟や親と殺し合いをしなきゃあならないぞ!」

「そんなの無茶苦茶じゃあないか、僕らにとって北海道はお父さんの故郷なんだ。ありえないよ!」

「そんな事を人に言うなよ!非国民で逮捕されるぞ。」

「あなた、皆で北海道に逃げようよ。」

「だめだ!そんな事をしたらお前と弟が向こうでスパイ扱いになる。それに軍隊に入れられたら息子たちが、お母さんの兄弟やお前の従妹たちと戦うことになるんだぞ。」

「そんな・・そんなの酷すぎるよ。なんで家族や親せきで殺し合うんだよ・・」

弟が泣き声でそう言うと、しばらく家族は沈黙した・・

どう選んでも救いは無いのだった。


父親は貿易商社に勤めていた。彼は電話で会社と何か話している。

「そうですか・・それを私に代わって頂けるんですね。もちろん私は喜んでお受けします。」

電話が終わると父親が家族に向かって言った。

「この騒ぎで会社の方も人員が足りず困っている。俺はタイに半年間の出張になった。」

「待ってよ、このさ中に。私たちはどうすれば良いの?」

「家族同伴で行くように手配したから大丈夫だ。荷物をまとめろ、3日後には出発だぞ!」


それから3日後彼らはタイのバンコクのホテルに居た。

父親が言った。

「何とかお金を持ち出した。会社の船で届くはずだ。もう日本には帰らない。帰ったら親子兄弟と殺し合うことになる。それだけは絶対避けたいからな。」

すると長男が言った。

「敵味方は僕らが決めるんじゃあ無かったんだね。政府が勝手に決めるんだ。そして仲間や親せきや親子が殺し合うなんて。気違い沙汰じゃあないか。」


「まあ、そんな事だよ。朝鮮でもウクライナでも同じ事が起きたんだよ。俺たちは政府の縄張りや過去の歴史の中で生きてるんじゃあ無いよ。今この時に生きてるんだ。そこを過去の歴史という名の亡霊や、利権という名の怪物が襲うんだ。ここバンコクにも亡霊が来るかも知れないぞ。」

「ここにも日本の秘密警察が来ているって噂よ。」


その時テレビで緊急ニュースが入った。

日本で双方が核ミサイルを発射したと伝えたのだ。双方で50発のミサイルが発射され39発のミサイルは迎撃で撃ち落とされたが11発は日本全国で爆発したと。本土には6発の核が関東を中心に爆発し関東の死者は2000万人を下ることは無いだろうと報道している。北海道の札幌は核の直撃でほぼ壊滅したようだ。

沖縄からはあらゆる電信は途絶えたと・・九州は核が1発で済み奇跡的に被害を免れた県が複数あるようだ。ただし核爆発のため通信網が被害を受け確かなことは分からないと解説している。


世界は核戦争が世界に波及せず米ロ中の決断をたたえ、お祭り気分だ。核爆発は国境を海で隔てた日本でなので、放射能の世界への影響も限定的だと解説者は言っている。 さらに解説者は、平和ボケの日本は昔原爆を広島と長崎に落とされても、何も分からない馬鹿な国だったとも・・・・





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