第10話 冬虫夏草

始まりはアメリカのワイオミング州イエローストーン国立公園に落ちた発光体だった。

その物体はイエローストーンの名物である間欠泉を見上げている人々の頭上を東に通過してイエローストーン湖の縁のキャンプ場の近くに落下したのだ。

直径が3メートルはどの白い玉は半分水に浸かった状態で発見され、キャンプ場に来ていた人々に取り囲まれていた。人々が見守る中、やがて玉の先端が開きゴーーと音を立てて白煙がたち昇った。その白煙は空高くどこまでも昇っていったのだ。


米国の科学者がイエローストーンに集まって調べ、この白煙はカビ類の胞子のような物との発表があった。おそらく大気圏を通過したであろうその球は熱による損傷が無く、落下時の損傷も見られなかった。学者たちはこの物体がどこから来たのか、何であるのか説明することは出来なかった。


この事が起きてからしばらくして、世界中で白いカビが発生し始めた。

田畑も森も沼地や池も全て白いカビに覆われ、人体への悪影響も懸念されたが、その懸念は的中したのだった。カビに侵入された動物は徐々に乾燥し体が菌糸に入れ替わった。それはまるで冬虫夏草の様で見るからに不気味だった。


ただ冬虫夏草と違うのは生命活動が持続し緩慢ながら動き続ける事だった。目の色が白く変色した人間は昼夜を問わず歩き回り、人々はキノコゾンビと呼んで恐れた。キノコゾンビに接触した者は数日でキノコの菌糸に侵されてゾンビに変身するのだ。


胞子は気流に乗り世界に蔓延した。もはや80億人の世界人口の半数はゾンビ化していると思われた。そして、奇妙な事が起きたのだ。それは世界のあちこちでゾンビが集結を始めた事だ。集まったゾンビは溶け合って白い大きな塔を作り上げた。それは、巨大なキノコの様でもあり発電所の冷却塔の様でもあった。その高さは50メートルにもなり遠くからでも見ることができた。


世界中に数百もの巨大な塔が完成すると不思議な事に世界中のゾンビ感染が嘘のように収束しのだ。キノコゾンビ化で人口の半分も失い経済にも打撃を受けたが、人は馬鹿なもので、喉元過ぎれば熱さを忘れるの例えどうり、塔の周りにはマスコミの望遠レンズ付きのカメラが取り巻き、塔の変化を刻刻と報道していた。

各国の政府は塔の周りを立ち入り禁止にし戦車で取り囲んだ。やがて世界は落ち着きを取り戻した。


テレビでは、なぜ感染が収束したのか。塔は危険なのか、今後どうなるのか。キノコの学者とか、ゾンビアナリストとか、いろんな専門家と称する人達がいろんな意見を出し、やかましく言い争っていた。


そしてある日、ついに白い塔に変化が起きた。

パッカーーーン!!!!

それは大音響と共に始まった。地響きと共に塔が破裂し、先端から丸い玉が空に向かって打ち上げられたのだ。その衝撃波は周辺の建物のガラスを粉々に破壊する程強いものだった。


パッカーーーン!!!!

パッカーーーン!!!!

パッカーーーン!!!!

パッカーーーン!!!!

パッカーーーン!!!!


高さが40メートルもある塔の先端から白い玉が次々と宇宙に向けて打ち出された。


宇宙の生命の種はこうしてばらまかれていたのだ。この胞子の入った玉はいずれ何処かの惑星に落ち、新たな生命の起源となって新たな進化を始めるのだ。この玉が永遠に繰り返される宇宙の生命の起源だったのだ。

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