その後と小さな恋と【番外編】『気づいた時には悪役令嬢になっていた!それでも幸せな恋愛を望みます!』
NALI
ジュリエッタの初恋
「お兄ちゃん!オリヴィア様は本当に第一王子様と婚約しちゃったの?」
今日はアーサーお兄ちゃんが久しぶりに家に帰って来た。
「ジュリエッタは良く知ってるな。」
お兄ちゃんは私の頭をワシャワシャと撫でた。 お兄ちゃんはソファに腰掛けてゆっくりしている。最近はずっと忙しくて、騎士団の休みの日はずっと家に帰って来ていたのに、ここ2年間は忙しかったようで、ほとんど帰って来なかった。しかもこの半年は生きてるか死んでるのかもわからないぐらい、連絡も取れなくなっていて、お母さんも私も心配で仕方なかったが、同じ騎士団で働くお父さんが全く心配してない素振りだったから、私達も何となく大丈夫かな?と思うようになっていた。
だけどお兄ちゃんが家に久しぶりに帰って来た時はお父さんが1番にお兄ちゃんを抱きしめて 「ご苦労だった。」と言って涙していた。
お父さん・・・・私達を安心させるために心配していない素振りをしていたんだ。って思ったら、お父さんの深い愛を感じたんだよね。 その時は私もお母さんもお兄ちゃんに抱きついて涙していた。
「おかえり、お兄ちゃん。」
ゆっくりソファに腰掛けるお兄ちゃんに
「お兄ちゃんはオリヴィア様が好きだったんじゃないの?」
私の質問にお兄ちゃんは、顔を真っ赤にして、
「お前、何言ってるんだ。」
「だって、小さい頃からずっとオリヴィア様を好きだったじゃない。それなのに、第一王子様と婚約しちゃったよ〜?」
お兄ちゃんは私に優しく微笑んで、
「それでいいんだ」
お兄ちゃんは怒ってるでも、悲しんでるでもなく、本当に幸せそうに微笑んでいた。
確かにお兄ちゃんは近衛騎士だけど、爵位を持っていない。うちは代々、騎士の家系で子爵をもらっているけど、お父さんのお兄さんが子爵をもらった。 なのでうちは、平民。 でも気楽でいい。 社交界もないし、好きでもない人と結婚しなくてもいい。ただ、お金持ちと結婚しない限り、私も働かなくてはならない。 でも働くの好き!!! 家のお手伝いも好き!!! 街の学校にも通わせてもらっているから、マナーの勉強もしてる。どっかのお屋敷で侍女のお仕事も探せる。
私の未来は明るい!!!
ただ・・・・・・お兄ちゃん以上にカッコイイ人を見た事がナイ。さすがにお兄ちゃん以上にカッコイイ人はなかなかいないけど、それなりの人に会わなければ、一生1人かもしれない・・・・・・・・・。
怖い。
「お兄ちゃん!私どっかのお屋敷で侍女の仕事したいんだけど、見習いで働けるところないかな?」
「お前学校は?」
「2年通ったから来年卒業できるよ。」
街の学校は、だいたい12歳から3年間通うんだけど家の事情などで年齢は重要視されていない、入学試験に受かれば何歳でも構わない。
「そうか」
アーサーお兄ちゃんは何か考え出した。 「ちょっと、あてがあるから聞いてみるよ」
私の顔は明るくなる。
「本当!?お兄ちゃんありがとう」
お兄ちゃんに抱きついた。
「待て!まだ決まっていない。決まってから喜べ」
そうだね。
✴✴✴✴✴
「サイラス様!いらっしゃいますか?」 アルバート殿下の執務室の前でアーサー殿が私を呼んでいる。
「アーサーがサイラスに用事とは珍しいな」
アルバート殿下と顔を見合わせて
「そうですね。オリヴィア様の事ではないのは確かですね」
というと アルバート殿下の顔が真っ赤になった。
「サイラス!急にオリヴィアの話しをするな!」
アルバート殿下は赤くなった顔を隠すように下を向いた。最近、殿下はオリヴィア様と正式に婚約した。婚約までにはいろんな事があったが、今殿下が幸せならそれでいい。アーサー殿もオリヴィア様を好きでいたと思うが、今も殿下の良き友人で、近衛騎士を続けている。アーサー殿の心は広いのか、オリヴィア様とアルバート殿下の幸せを心から喜んでいる。オリヴィア様を近くで守れる喜びの方が勝っているようだ。
「アーサー殿を執務室に、入ってもらってもよろしいですか?」
私はあまり殿下に隠し事をしたくはない。殿下の友人でもあるし、執務室がいいと思った。
「あぁ、構わない。」
私は執務室の扉を開けた。
「アーサー殿中ヘどうぞ。」
「ありがとうございます。」
「アーサーどうしたんだ?珍しいな。サイラスに用事とは。」
「はい。それが、オレの妹の事なんですが・・・・・。」
「確か、今13歳だったか?」
「はい。街の学校に通っていたんですが、来年卒業で、どこかの邸での侍女見習いをしたいって言ってるんですが。どこか紹介してもらえませんか?確かサイラス様が、オリヴィア様の侍女を探してるって言ってたのを思いだして。侍女試験をうけさせたいんですがどうでしょうか?」
なるほど。
確かに、今オリヴィア様の侍女を探している。伯爵令嬢から平民まで、試験に受かれば、王宮の侍女になることは可能だが、まずはどこかの邸での侍女見習いが必要だろう。
「アーサー、オリヴィアを『オリヴィア様』と呼ぶなと言っているじゃないか。オリヴィアが悲しむ。」
急に殿下が怒り出した。
アーサー殿もひるまず。
「殿下、オレは今最高に幸せなんです。尊敬する殿下と大事なオリヴィア様が婚約してくれて。呼び方はオレのけじめです。オレは殿下の近衛騎士です。殿下がオリヴィア様と一緒にいる事はオレもオリヴィア様を守れるんです。オレはオリヴィア様をずっと守りたかった。オレは2人に忠誠を誓う日が楽しみで仕方ないんです。」
アーサー殿の言葉に嘘が感じられない。
アーサー殿は心から2人を祝福しているのだろう。
「しかしながら、殿下がオリヴィア様を泣かせる事がありましたら、オレが困ります。それだけは、勘弁してください。」
「あぁ、大丈夫だ。オリヴィアを泣かせない。必ず幸せにするし、側室も取らない。」
あっ、それだった。
「殿下、それが困っているのですが。」
「サイラスどうした?」
「オリヴィア様の侍女が決まらない理由です。」
「オリヴィアの侍女が決まらないのか?侍女長が決めるんだろう?」
「その侍女長から相談を受けているのです。オリヴィア様は実家から1人連れて来ていいとしきたりがあり、多分ティナさんを連れて来るでしょうが、ティナさん1人では、オリヴィア様の身の回りのお世話が出来ません。なので、数人つけるのですが、オリヴィア様の侍女になりたいと、いろいろな爵位の令嬢方の希望が来ています。そこには下心丸出しです!!あわよくば、殿下の側室になろうと考える者が多いのです。そういった者だけではないのですが選別に苦戦していますね。」
「何だ、それは。私はオリヴィア以外を妻にするつもりはない!!」
「しかし、周りはオリヴィア様にお世継ぎが生れなかったら、と考える者が多いのです。」
「陛下達にもそこは了承を得ている。私達に子が成せなくとも王位継承はエドガーがいるし、他にも王族はいると。」
「私共は理解しておりますが、周りはそう思わないのが現状なのです。ですから、仕事ができるからと言って、選べないのです。万が一オリヴィア様に危害を加えられたら困りますので。」
「サイラス、すまない。苦労をかけてしまって。」
「殿下、かまいませんが、オリヴィア様を考えませんと、オリヴィア様なら、ご自身にお世継ぎが出来ないと責められれば側室をオリヴィア様の方から勧められるかもしれませんよ。」
「それは嫌だ!!」
アーサー殿も
「オリヴィア様なら考えそうだな。」
「なので、極力害のない家柄と人柄を考えていますが、なかなかおりません。でも、アーサー殿の妹君なら大丈夫ですね。オリヴィア様も喜ぶでしょう。しかし試験に受かるためには、見習いをする必要はありますね」
「どこかいいところありますか?」
「そうですね・・・・・では、うちの侯爵家で見習いをさせましょう」
「え?いきなり侯爵家様の邸ですか?逆にオレが反対しますが」
「大丈夫ですよ。殿下とオリヴィア様の為に素晴らしい侍女に仕上げて見せましょう」
ニヤリと笑った私を見て、殿下とアーサー殿は少し身震いしていたようだった。
✴✴✴✴✴✴
「お兄ちゃんおかえり〜!明日も騎士のお仕事は、お休みなの?」
2日続けて帰ってくるなんて珍しい。騎士団の方は、何か非常事態があったらいけないので宿舎にほとんどいる。たまーに本当にたまーに帰ってくるぐらいなのに、今日も帰ってくるなんて。私は嬉しいからいいけど〜。
「ジュリエッタ・・・・・お前の侍女見習い先が見つかった。学校はちゃんと卒業するまで通っていいが、その邸からの登校になる」
お兄ちゃんの顔色はあまり良くない。
「えーもしかして、めっちゃイジメとかある邸なの?」
「イヤ・・・・・多分大丈夫だ。」
ならいいじゃん!見習いなのに学校も通わせてくれるなんて、なかなかの心広い方なんだわ。
「それと、前回言ってなかったんだが、そこでの見習いがうまく出来れば来年に王宮の侍女の試験を受けれるようになるんだ。良かったら受けて見るといい」
「え?私平民なのに大丈夫なの?」
キャー!!!凄い。王宮で働くなんて夢のようだわ。
「でも試験に受からなければ意味がない。見習い先の邸でしっかり教わって来るんだぞ」
「うん!うん!わかった。それで?どこの方の邸なの?」
お兄ちゃんは何か言いづらそう・・・・・・・・・ やっぱり、大変なところなんだわ。新人イジメで続かないとか?旦那様が暴力的とか? でも大丈夫。イジメも暴力もドンと来い!逆にやり返すわ。それで首になっても失うものが私にはないから平気!!!また次の場所見つければいいし。そもそもそんなひどい場所にお兄ちゃんが紹介するはずがないもんね。
「お前が見習いに行く邸はバーディン侯爵家。アルバート殿下の側近のサイラス様の邸だ。」
ヘ?
「お兄ちゃん?・・・・・本気?」
私はガクガク震える。
「あぁ。辞めるなら今だぞ。いいやつ見つけて誰かと結婚っていう道もいいんじゃないのか?」
いやいや・・・・・好きでもない人と結婚とか嫌だし。 ここで頑張れば憧れの王宮での仕事が待ってる。 やるしかないでしょ!
「お兄ちゃん、私頑張る。いつから行けばいい?」
お兄ちゃんは凄く嫌そうな顔をして
「明日だ・・・・・・・。」
「え?・・・・・・・・・とってもせっかちな侯爵家なのね。」
私は、急いで準備に取り掛かる。
「ねーお母さん、学校の制服と教科書は持って行くけど、お昼ってどうなるのかな?」
お母さんは、私が家を出たら1人になってしまう。そう思うと、行くのが辛くなる。 私の表情が暗くなっている事に気づき、お母さんが、
「ジュリエッタ、あなたは目標か何かあったの?」
「んー特になかったんだけど、王宮で働けるって聞いて、これだ!って思ったし、今は結婚する気がないから、働かないと行けないし」
お母さんは私をぎゅうっと抱きしめた。
「お母さん?」
「ジュリエッタはいい子ね。お母さんとお父さんが何も言わないのに、しっかり自分がわかっているわ。もし見習い先で、辛かったら帰って来ていいからね。結婚も考えなくてもいいのよ。ずっと私達と暮らしてもいいんじゃないかな?」
「お母さん、ありがとう。でも私頑張りたいの。きっといつか、かっこいい人見つけて、結婚もするから。安心して」
「かっこいい人?」
「ええ!だって近くにあんなにかっこいいお兄ちゃんがいたら、目が肥えてしまって、結婚したいって思える人がいないの。私だって、結婚できるならしたい。出来ればお兄ちゃん以上にかっこいい人と」
お母さんはあきれた顔をしている。そして、クスクスと笑いだした。
「ジュリエッタならいい人見つけそう。何だかたくましいわ」
「お母さん、1人にしてしまってごめんね。お休みもらえたら必ず帰って来るからね」
私はお母さんにぎゅうっと抱きしめ返した。
✴✴✴✴✴✴
学校の前に馬車が停まっていた。
街の学校に馬車で帰る人などいない。 誰のお迎えなんだろう。
・・・・・・・・・
まさかね。
馬車の前を通り過ぎようとすると、馬車の扉が開いた。 中から、お兄ちゃんよりは背は高くないけど、お兄ちゃんよりはかっこよくないけど、グレーの髪色に薄い緑色の瞳。私は、この人を見ただけで、カミナリに打たれたような衝撃が走った!
その人が私に話しかけた。
「ジュリエッタさん?本当にアーサー殿と同じ金色の髪色に青色の瞳でそっくりだね。なかなかの美少女だ。」
え?美少女?私が?
しかもこの人に褒められたの?私の顔は真っ赤になっていく。 私は固まってしまって、動けない。
「あ、ごめんね。私はサイラスと申します。今日から君の雇い主だよ?よろしくね」
「サイラス様?」
「学校にお迎え来てごめんね。うちの邸は普通に入れないから、お迎えに来たよ。えっと・・・・大丈夫?」
私がピクリとも動かないからサイラス様が心配した。 私は微動だにしないまま、
「サイラス様・・・・・私、働く自信がなくなりました。サイラス様を見てるだけで、死にそうです。本当に申し訳ありません」
と言って、サイラス様を置いて、動かない体を何とか動かしてその場から逃げだした。
「え?ジュリエッタさん?」
サイラス様はあ然としていた。そして、すごい笑い声が聞こえた気がするけど、怖くて振り向けない。 早く家に帰りたい。
サイラス様・・・・・・・サイラス様・・・・・・
私は呪文のように唱えながら家に帰ったら、家の前にさっき見た馬車とアーサーお兄ちゃんが側にいた!!!
お兄ちゃんは私に気づいて
「ジュリエッタ!サイラス様に気づかなかったのか?せっかくお迎えに来てくれてたのに」
すると馬車からサイラス様が降りてきた。 サイラス様を見てまた私の顔は真っ赤になった。 私は慌ててお兄ちゃんの背中に隠れた。 サイラス様は困った顔をしている。
「ジュリエッタさん?」
すると馬車からもう1人降りてきた・・・・・!
「殿下、まずいですって」
お兄ちゃんが慌てている。
殿下?
お兄ちゃんの後ろから顔を出した。 この方が殿下?かっこいい〜。 殿下はたまに街に視察に来るけど、たくさんの人が群がってて、私は見た事がない。
「誰も見てないよ。まさか予告もなく王子が街にいるなんて思わないさ。」
私はお兄ちゃんの横に立って、
「殿下?あの私アーサーの妹のジュリエッタです。お目にかかれて光栄です。」
と学校で習ったお辞儀を殿下にした。
「ほう。」
殿下は嬉しそうにニコニコしている。
「アーサーの妹が見たくてついて来たんだよ」
「あ・・ありがとうございます。いつも兄がお世話になっております」
私は深々と頭を下げた。 サイラス様は少し不機嫌そうに
「ジュリエッタさんは、先程は何故逃げだしたのかな?」
サイラス様が私に話しかけた? 私はまた顔が真っ赤になって、
「すみません!!!!サイラス様を見てるだけで、心臓がドキドキしてしまって、死にそうです。なので、働けません。」
そしてまたお兄ちゃんの後ろに隠れた。 その言葉に殿下が笑いだした! さっきの笑い声は殿下だったんだ。 でも本当だもん。 お兄ちゃんを見ると、お兄ちゃんは頭を抱えていた。 え?失礼過ぎた? でも死んだら、仕事できないよ?
「ジュリエッタ・・・・・まさかお前・・・・。」
「アーサー殿!」
お兄ちゃんの言葉をサイラス様が遮る。
「ジュリエッタさん、殿下があなたをオリヴィア様のお側に置きたいと願っています。嫌でも私の邸で働いてもらいます!!」
そう言ってサイラス様は私に優しく微笑んだ。 その笑顔は私が今まで見た事ない胸に刺さる笑顔だった。こんな素敵に笑う人っているんだ。 私がサイラス様に見惚れていると。
「お前の初恋がサイラス様とは・・・・・・。可哀想すぎるな。」
初恋? これが?
サイラス様が
「何故可哀想なのですか?」
「まー。身分違いで、叶わないでしょう?」
「さぁどうでしょうか?今私に婚約者はいませんし、身分など、どうにでもなりますよ。」
「マジですか?」
殿下はずっとニコニコしている。
お兄ちゃんの顔は青ざめている。
私は真っ赤になった顔でサイラス様をみた。
サイラス様は私に近づき、私の頭をポンポンって撫でて
「長い付き合いになりそうですね。ゆっくり慣れてくださいね。」
サイラス様の笑顔にあてられて 私はクラっとめまいをおこした! 倒れそうになる私をサイラス様は抱きかかえ、お姫様抱っこのようになり、
「さあ参りましょう。」
と私を馬車に乗せる。
私は慌てて
「お兄ちゃんーーーー!!!私死んじゃうよ〜!」
殿下の笑い声はやまない
お兄ちゃんは
「・・・・・・・・・頑張って来い。」
お兄ちゃん・・・・・。
サイラス様は私を抱っこしたまま、優しく微笑んでいた。
明日も私は生きていますように。
その後と小さな恋と【番外編】『気づいた時には悪役令嬢になっていた!それでも幸せな恋愛を望みます!』 NALI @TONALI
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます