第3話
「あいつ……ですか」
「ああ」
如月が尋ねると、瑞樹は頷く。
「まぁ、そうは言っても全部が全部とは言わない。せいぜいその中で数件ってところだろうけどな」
そう言って瑞樹は「うーん」と軽く伸びをする。
「……」
「あ。ひょっとしてその程度とって思った?」
「え! いや、そんな……」
如月はシスターに痛いところを突かれた気がし、思わずドキッとした。
それは多分。如月が今も『怪異』というモノをあまり理解しておらず、またその「椎名」という人物をよく理解していないからだろう。
「まぁ、あいつらは『負』とは言え……いや『負』だからこそ、扱いには慎重にならないといけない。で、件数が思ったより少なかったのは、そういったところが原因だ」
「えと、つまり?」
「要するにいつ、どんな状況で爆発するかも分からないって事だ。人間それぞれに怒りのポイントは違う。まぁ、当然だけどな」
「……」
つまり、現在明らかになっている件数と実際に椎名が関わった件数が必ずしも合致するとは限らないという事なのだろう。
「もしかしたら、今も潜んでいる『怪異』がいるかも知れねぇな」
「……」
「でもまぁ、元々は別々の人間から生まれたからな。しかも、基本的に『怪異』は様々な人間の集合体。そうなればもっと状況は複雑になる」
「……」
しかし、それも少し考えたら分かる事ではあった。
「そんな爆弾の様なヤツらをそそのかし、怒りの矛先を相手に向けるのがあいつのやり方だ。ただ、爆発するタイミングまではあいつても分からないだろうけどな」
「……そうですか」
ただ、口で説明されてその時は理解しても、本当の意味で理解は出来ないだろうと如月は思った。
何せ、彼女の目に『怪異』は色々と関わってきた今でも「未知の存在」として写っているのだから。
「まぁ、そう言われてもなかなか難しいわよね。だって、如月ちゃんが視える様になって一年も経っていないのだから」
「まぁ、そうだよな」
そう言っていた瑞樹だったが、その表情がどことなく寂しそうだったのを如月は見逃さなかった――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「――にしても、あいつか」
「おやっさんもご存じなのですか?」
「一度だけ飲み屋で話した程度だけどな。その時はまさかそんな危険人物だとは思わなかったが……」
「どんな話をされたのですか?」
さり気なく言ったおやっさんに如月は尋ねる。
「ずっ、随分とグイグイ聞くな。そんなに気になるか?」
「え、あ」
そこでようやくおやっさんがたじたじになっている事に気がついた如月は、ハッとして「すっ、すみません」と言っておやっさんから離れた。
「いや、気にしなくて良い。まぁ、話したのもなんて事ない世間話だしな」
「俺たちの事とか事件の情報とか話してねぇよな?」
瑞樹が聞くと、おやっさんは「ハンッ!」と言って笑う。
「そんなマネはしねぇよ。こっちだって長く刑事やってんだ。そういったところは細心の注意を払う。もちろん、酒が入っていようとな」
「それなら良いけどよ」
「でもまぁ、そうだな。ちょっと変なヤツだとは思ったな」
「変なヤツ……ですか?」
如月の質問に、おやっさんは「ああ」と頷き、そのままその時の事を話し始めた――。
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