第9話
「最初、あいつを見た瞬間。何か嫌な予感がしたの、でも」
嬉しそうに「友達が出来た!」と言ってきた瑞樹の表情を見ていると、とてもそんな事は言えなかった。
「ずっと一人だった。その頃には『姉と仲良くしているのは格好悪い』だの言い出して、私とは遊ぶ事もなくなっていたし」
「……」
それには如月も覚えがある。ただ、それは男子たちが集まって話をしているのを偶然耳にしただけだが。
「だから、姉としては純粋に嬉しかった。でも」
最初に椎名を見たのは、シスターが当時帰り道で通る公園で瑞樹と椎名が一緒に遊んでいる姿だった。
いつもであればシスターが声をかけた瞬間に嫌な表情をする瑞樹が、その時ばかりは嬉しそうな表情をしたのを覚えている。
「姉ちゃん! 俺のクラスに転校生が来たんだよ!」
当時、瑞樹はシスターの事を「姉ちゃん」と呼んでいた。
そして、帰り道に一緒に遊んでいた相手が転校生だったという事を瑞樹本人が教えてくれた。その時点でいつもの瑞樹とは違っていた。
「違っていた……ですか」
「ええ。当時の瑞樹は、基本的に周りに無関心だったの。だから、嬉々として転校生が来た事を話すなんて……私を含め、両親もとても驚いていたわ」
しかし、そんな嬉しそうに話す瑞樹をシスターと両親はホッと胸をなで下ろしていた。
「でも、次に会って瑞樹から紹介されたあいつは……何というか、ものすごく大人びていたわ」
「大人びていた……ですか」
如月が呟くと、シスターは「ええ」と頷く。
「話し方や態度を含めて全てね。それこそ、どことなく胡散臭いと思える程だったわ。何というか……セールスマンみたいな話し方というか」
「その人は……当時、瑞樹さんと同い年ですよね」
確認する様に尋ねると、シスターは再度「ええ」と頷く。
それを確認した上で考えると……小学生という年齢も相まってそれは確かに、違和感しかないだろう。
「ただ、話し方や態度はともかく、瑞樹とは仲が良さそうだったから。きっと一瞬感じたその『嫌な予感』というのも私の思い過ごしだろうって思っていた」
そこでシスターは言葉を切り、すぐに「でも……」と言葉を続ける。
「でも?」
「瑞樹から椎名を紹介されてからしばらくして、瑞樹はだんだんと家に帰ってくるのが遅くなっていったの」
「え」
「でもね。遅くなっても日が完全に落ちきる前には帰って来ていたから、私も両親も特に気にしていなかった。だから、気がつけなかった」
シスターはそう言いつつ、話している途中から目の前で組んでいた手をギュッと力を込める。
明らかに話が不穏な方へと進んでいる。
それは話をしているシスターの表情を見ていれば明らかだ。しかし、ここで止めるワケにはいかない。
「きっ、気がつけなかった……とは、一体」
だからこそ、如月は続きを促す様にシスターに問いかけた。
「あの子。瑞樹が、椎名に乗せられて一緒にたくさんの『怪異』を一カ所に集めていたなんて……!」
シスターは後悔と懺悔とも取れる様な言い方だった。
「え、あの」
しかし、如月はシスターが言った言葉の意味がよく分からない。だから、シスターにどう声をかければいいのかも見当も付かなかった。
「……ごめんなさい。取り乱したわ」
「いっ、いえ。あのさっきの言葉は……」
「え、ああ。実は『怪異』ってね。一つ祓うのにものすごく体力を消耗するの。だから、一カ所にたくさんの『怪異』がいると」
「それだけの人員が必要……と言う事ですか」
「ええ。ただ、本来はそうそう一カ所にたくさんの『怪異』がいるって事はないわ。たとえあったとしても、その『怪異』は大きさが変わる程度。その恨みなどを持つ人の多さとか、濃さとかでね」
つまり、大きければ大きいほど『負の感情』が根強いという事だ。
「それに、基本的に『怪異』が一カ所に集まる事はない。なぜなら」
「普通はその恨みを抱いた場所にいるから……」
如月がそう言うと、シスターは「その通り」と言わんばかりに頷いた。
「え、じゃあどうやって……って」
そう呟く様に言って如月はすぐに一つの可能性に行き着いた。
「ええ、瑞樹がその『怪異』と話をして誘導したのよ。そして、ある事件が起きたの」
シスターはこの時顔を伏せていたが、それは多分。如月に顔を見られたくなかったのだろう……そう如月は思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます