第8話
夕焼けの空もだんだんと暗くなり始めた頃。シスターと如月は先程の廃工場を離れて、教会近くの公園のブランコに座りながら話を続けていた。
そう、最初に『怪異』にストーカーをされた現場だ。
最初は歩きながら話をしようとしていたが、どうにも帰り道だけで終わりそうにはなかったらしい。
「瑞樹に知られると、照れちゃうから」
しかし、教会ではなく公園になった理由をシスターは笑いながら言っていたが、多分。理由はそれだけではないだろうと如月は察していた。
「さて、えっと……」
「椎名さんという方の話ですよ」
「あ、ああ。そうだったわね」
「……」
まるで誤魔化す様なワザとらしい言い方に、如月は「よほど言いたくないのだろうな」と感じた。
しかし、ここまで来たら聞きたいと思うのは……仕方がないと思って観念して欲しい。
「それじゃあ、そうね。あいつの話をする前に、瑞樹の事を話しておかないといけないわね」
「お願いします」
そうして聞いたシスターの話曰く、瑞樹は近所に友達もいない寂しい幼少期を過ごしていたそうだ。
「当時住んでいた場所がへんぴな場所でね。同年代の子供どころか、近所の人もいない様な場所で私たちは育ったの」
そんな中で彼は「友達」とも言える存在を見つける。
「それって」
「ええ。それが『怪異』だったのよ」
当時の瑞樹は引っ込み思案なところがあり、たとえ自分の両親であっても「話す」という事自体が苦手だったそうだ。
「私はその頃既に学生でね。毎日一緒に遊ぶという事がしたくても出来なかった。そんな瑞樹の寂しさを紛らわせてくれる存在だったのが、彼らだったのでしょうね」
「で、でも……大丈夫だったのでしょうか」
「ええ、それは両親も心配していたわ」
そして、両親が『怪異』について尋ねた事もあったのだそうだ。
「両親も視える人だったからね」
確かに、今までの『怪異』の話や実際の行動は、とても小さい子供と仲良くなれそうにもない。しかし、それに対し瑞樹は特に反応を示す事はなかったそうだ。
「何も……ですか?」
「ええ、特に怪我をする様な事も何もなくね。だから両親も私も気にしない事にしたの」
そうこうしている内に瑞樹は小学校に入学したが、保育園にも幼稚園にも通った事のない瑞樹に友人は出来ず、結果的に瑞樹は一人で過ごす事が多かった。
もちろん、それは瑞樹が人見知りな性格だから……というのも先程の理由もあっただろうが。
しかし、一番の理由はそれらではなく――。
「小さい子って、見たモノ全てが本当だと思うでしょ。だから……」
「……」
多分、小さい頃の瑞樹は自分の目には見えていた『怪異』の存在を「みんなも見えている」と信じて疑わなかったのだろう。
「多分、小さい頃に両親の問いかけに反応しなかったのも同じ理由でしょうね。いえ、むしろ私たちが視えているからこそ……だったのかしら」
しかし、同級生の中で実際視えているのは瑞樹だけ。
結果として、瑞樹は「あいつは嘘つきだ」とか「変なヤツだ」などと言われる様になってしまったと言う。
「しかも、小さい子ってみんな自分の親に言うでしょ? それで尚更、瑞樹は周囲から孤立していちゃったのよ」
「そう……だったんですね」
「ただ、イジメとかはなかったわね。どちらかというと、気味悪がられて周囲の人たちが勝手に距離を置いていたって感じなのだろうけれど」
「……」
話の内容が内容なだけに、周りの人たちからはそう思われてしまったのだろう。しかし、それが上手く功を奏してイジメを受ける事がなかったというのなら、結果良かったのかも知れない。
それくらい「イジメ」というのは……束の間の優越感しか与えられないのだから。
「瑞樹は寂しい思いをしたでしょうけど」
「……」
「でも、月日が流れていく内に瑞樹もそういった周囲の環境に慣れ始めた頃、確かあれは……瑞樹が五年生だった頃かしら。あいつ『
シスターは噛みしめる様にその人物の名前を口にした――。
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