第7話


「まぁ、あいつとの関わりを話したところで何かが変わるとは思わないけど……って、どうしたの?」

「え、えと」

「あいつがここにいるかもって思った?」

「……」


 如月は「まだ何か仕掛けてくるかも」と不安に思っていたのだが。


「大丈夫よ」


 シスター曰く「あいつはここにいないわ」と言い切った。


「そう、なんですか?」

「ええ」


 驚く様に言う如月にシスターは「あいつは基本的に自分の手を汚すタイプじゃないから」と言って笑う。


「そんじゃまず。視える人と話せる事の出来る人を説明するわね」


 シスターは「まず」と言ってくれたが、その時点で如月は「ある事」が引っかかった。


「あの、話せる……って。まさか『怪異』とですか?」


 夕焼け空の下、如月は驚きのあまりシスターの顔を見る。


「……」


 シスターは無言だったが、その無言が暗に「そうよ」と言っている様に感じた。


「まぁ、本当にごく少数だけどね」


 そう言ってシスターは苦笑いを見せる。


「……」


 シスター曰く、如月の様に後天的に『怪異』が視える様になった人や物心ついた頃から視える人も合わせて十だとすると、祓える人はくらいしかいないらしい。


 そして、さらに話せる人となると「いち」にも満たないのだそうだ。


「そもそも視える人が少ないから、祓える人もそう多くはないのだけど」

「そう……ですよね」

「その中でほとんど『存在』になっている様な『怪異』と意思疎通をするのは難しい。だって『怪異』は感情の塊の様なモノだもの」

「……」


 言われてみれば確かにそうだ。

 しかも『怪異』は「負の感情の塊」の様なモノ。どう考えても意思疎通どころか会話もままならないだろう。

 出方を間違えれば、負の感情そのままに自分の身すら危なくなってしまう可能性すらある。


「ちなみに、祓える人は大体の人がその国のそういった人たちが集まっている団体に所属している事が多いわね」

「え、じゃあ……あの」


 チラッとシスターを見ると、視線の意味が分かったのか、シスターはニッコリと笑って「あ、私は一人の方が楽だからフリーでやっているけどね」と答える。


「まぁ、瑞樹と一緒に行動をしていたら一度は会った事があるんじゃない?」

「え」

「ほら、白装束の人」


 シスターに言われ、如月はようやく気がつき、思わず「あ」と声を漏らした。


「そういったところに入るのも一つの手よ。何より、集団だからこそ出来る強みがあるから」

「……」

「ただ、そういった『集団だからこそ起きる問題』もある。だからまぁ、フリーでやるか集団でやるかは人それぞれでいいと思うのだけど、それはそれとして」


 そこで言葉を句切り……。


「瑞樹はね。昔から『怪異』の存在に気がついていた。いえ、それこそ普通の友人と同じように話せる存在だったの」

「話せる存在……」


 シスターの言葉を繰り返すように呟くと、如月はまた「あ」と零した。


 出会ったばかりの頃。初めて見た『怪異』がどうしてあの場に現れたのか……如月はずっと気になっていたのだ。

 なぜなら、如月の後を付けて一週間も経たない内に『怪異』はあの場に現れたからである。


 しかも、時間は夕方。如月の後を付けたのは真夜中とは言わずとも、夜だったのにも関わらず。

 それらも含めて考えると、どうしても疑問だった。

 しかし、シスターの話している通り、瑞樹が『怪異』と話せるとなれば、あの場に現れた事に納得が出来る。


「そんな瑞樹の前に『あいつ』は現れた」

「あいつ……ですか?」

「ええ、あいつ『椎名しいな春彦はるひこ』って言う瑞樹と同じ年の男よ」

「……」


 そう言うシスターの顔は如月が今まで見た事がないほど、真剣だった――。

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