第6話
「あいつ。ですか」
「ええ。昔……ちょっとね」
シスターの元に近づくと、シスターはそう言いつつ苦笑いを見せる。
「……」
そんなシスターの顔を見ていると、こちらまで胸が痛くなってしまう。
「さて、とりあえず」
シスターはそんな私の視線に気がついたのか、申し訳なさそうな顔をしていたが、気を取り直す様に軽く手を「ポン」と叩きそう言った。
「?」
如月は不思議そうな顔でシスターの様子を観察したが、シスターはそこでかがみながら何かを手に取る。
「それは……」
「依頼品のロケットね」
シスターが拾い上げた『ロケット』は、丸い形をしていて細かい模様がされていた。
「で、ロケットっているのはコレについているこの突起を押すと……」
如月が覗き込むと、シスターはロケットの突起部分を軽く押す。
「ほら」
「あ」
ロケットの中には家族写真が入っていた。写っていたのは父親と母親らしき人物と小さな子供。どうやらこの子供が、依頼人なのだろう。
「でも、良かったわ。綺麗な状態で残って」
「はい」
それに関してはホッと胸をなで下ろす事が出来る。しかし――。
「でも。どうして、あの黒い塊は現れたのでしょう。確か『怪異』は亡くなった人間の負の感情の化身の様なモノなのに。それに、先程シスターは本来であればこのロケットは私のコートと同じ様な作用をするで……でも『怪異』に変えられたと言っていましたが」
如月が不思議そうにしていると、シスターは「ああ、それはね」と答える。
「この会社が倒産してしまったからじゃないかしら」
「え」
「会社の経営って色んな人が関わっているから。でも、このご両親は出来る限りの事はしたとは思うけど。解雇される従業員の方の転職の支援やら依頼人の勉学費用の工面やらその他諸々も全て」
「じゃっ、じゃあ……」
そこまでしたのであれば、感謝こそされても恨まれたり妬まれたりしないのではないだろうか。
「だからね。言ったでしょ? 本来は守るはずなのに『怪異』に変えられてしまった……ってね」
「それって、一体――」
「ご家族の方は出来る限りの事をしたって言ったでしょ? でも、その転職の後。上手くいくという保証はない。仮に上手くいかなかったとして、自分は悪くないと思っている人間は一体誰を恨むのかしらね」
「!」
そう言われてしまうと、確かにその可能性はある。そもそもの話……に遡ってしまうと、どうしてもその話は「会社が倒産した」というところに戻ってしまうのだから。
「瑞樹からもらった資料に書いてあったわ。一人だけ、転職後に亡くなってしまった人がいたみたいね」
「でも……」
「ええ。多分、その人は恨む事はしなかったはずよ。でも、ある人物によって『怪異』にされてしまったのでしょうね」
シスターはそう言って悔しそうに歯を食いしばる。
「あの。その、差し支えなければその人の事を教えてもらえませんか?」
如月は、そんなシスターを見ているのが溜まらなくなり、思わずそう言った。
「……」
しかし、シスターの言葉を聞く限り、今回の依頼は明らかに仕組まれたモノだという事は分かってしまう。
しかも、それを仕掛けてきた人間は瑞樹さんだけでなくシスターも知っている人物の様だ。そうなると、居ても立ってもいられなくなる。
「……」
それに、本当に今更な話だが、如月は瑞樹の名前しか……いや。そもそもこの『瑞樹』も名前なのか名字なのかも分からないし、知らない。
「お願いします」
そういった思いから「もしかしたら、コレが瑞樹さんを知るチャンスかも知れない」と感じた。
「……そうね。こうして接触して来たって事は、もしかしたら如月ちゃんに接触する可能性もあるわね」
そう言いつつも、シスターがあまり乗り気じゃないという事はすぐに分かった。
「……」
しかし、如月としても引くつもりはない。ここくらいしかチャンスはないというのが分かっているから。
「ただ、コレは瑞樹の……いえ。私たちの過去にも関わる事だから、あまり引かないでくれるとありがたいわ」
シスターは申し訳なさそうに言うが、正直な話。如月の置かれている状況も、人によってはドン引きされてしまうらしい。
「大丈夫です。私の事を言うと、大抵の人は引かれてしまうのがほとんどなので」
如月が笑顔でそう言うと、シスターはキョトンとした顔をしていたが、すぐに「そうだったわね」と苦笑いを見せた――。
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