第4話


「うーん、とりあえずここまでは調べたみたいね」


 どうやら瑞樹が調べたのは、依頼人が通った道。


「そうみたいですね。でも、どうやら通った道はコンクリートで補正された道ばかりの様です。落とせば音などもするとは思いますが」

「まぁ、音楽を聴いていたり電話している途中に落としたりしたのであれば気がつかなかった可能性は否定しなけど」

「それに、依頼人が通ったとされる道に草木などはありません」

「ええ。だから、これだけ探して見つからなかったとすれば、後は……」


 そう言ってシスターは『ある場所』を見上げ、如月もそれに倣ってシスターと同じ様にその場所を見る。


「ここね」

「はい」


 二人の目の前にあったのは、現在使われていない『廃工場』だった。


「ここは依頼人の父親が経営していた工場で、今は当時使っていた機械なども全て運び出されて何もない状態みたいね」

「依頼人はここで何をしていたのでしょう?」

「さぁ? ただ、その機械が運び出されたのはここ一週間ほど前の事みたいだし、今日から一週間後には取り壊しの予定みたいだから、色々と思うところがあったのかも知れないわね」

「色々……」


 シスターが持っている紙にはこの場所に立ち寄った理由までは書かれていない様だが、この場所がどういったところなのかは書かれている様だ。

 一応、部外者以外は立ち入り禁止になっているらしく、注意書きの看板や取り壊しの日程などが書かれている看板も既に設置されている。


「資料にはここの立ち入り許可は依頼人から既にもらっているみたいだから、私たちはこのまま進めば良いみたい」

「そうですか」


 ちなみに依頼品は『アクセサリーのロケット』となっている。


「ロケット……ですか」


 しかし、如月はあまりそういったアクセサリーに明るくない。それこそ『ロケット』と聞くと、どうしても宇宙に向かって打ち上げる方を連想してしまう。


「アクセサリーの『ロケット』はチャームが開閉式になっていて中に写真や薬などを入れられるようになっているペンダントの事を指す事が多いわね。バレンタインデーの時の贈り物として、または洗礼や結婚の場で配られる事も多いみたいだけど」


 シスターに説明をされ「ほら、外国の人がペンダントを開閉して子供の写真を見て哀愁に浸っている様な……」と言われてようやく如月は納得した。


「ところで、如月ちゃんのお母さんは瑞樹のところで手伝いをしている話は知っているの?」

「え」


 突然シスターに尋ねられ、如月は思わず固まってしまった。まさかこのタイミングで聞かれるとは思ってもいなかったのだ。


「どうしたの?」

「いっ、いえ」


 如月は小さな声で否定した。


「じゃあ、お母さんにはどう説明したの?」

「いえ、それにアルバイトではなくお手伝いをしている……とは説明しましたが」


 シスターには出来る限り母親に勘づかれたくないという事も伝えた。


「なるほどね。全く、あの人は」


 シスターは一度だけその母親を見た事がある。

 あの時は優しそうな顔をしていたが、どうやら父親が亡くなった事により、抑制されていた欲望が表に出てしまったのだろう。

 いや、自分を着飾る事で、その悲しさから目を背けているのかも知れない。


「如月ちゃんも大変ね」

「もう慣れましたよ」

「あんまり慣れない方が良いことだと思うけど」

「……仕方ないですよ」


 ただ、どんな理由があったとしても、そのしわ寄せとも言える『金欠』を自分の娘に追わせるのは間違いだとシスターは思った。

 しかし、仮にシスターが何かを言ったところで、母親はシスターにではなく如月に強く当たる可能性が高い。


 そうなってしまうのが一番怖い事をシスターは知っていた。


「それにしても、本当に何もないですね」

「そうね」


 二人の目の前に広がるのはただのだだっ広い空間。


 資料には以前はここに大きな機械や従業員の人たちもいたようだが、今は見る影もない。

 確かに、昔の事を知っている依頼人からすれば、今のこの風景を前に何か思うところはあるかも知れない。


「っ!」

「ん?」


 そんな時、二人はふと『視線』を感じ、ゆっくりとそちらの方を見ると……。


「あっ、あれは!」


 如月とシスターの視線の先にいたのは『黒い塊』だった。


「……」


 しかし、その大きさは明らかに如月が見てきたどれよりも大きい。


「あらあら」

「シスター?」

「うーん、なるほど。どうやら誘い出されちゃったみたいね」

「え」


 如月は目の前の光景にただただ呆然としていたが、シスターはなぜか不敵に笑っていた――。

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