第3話
「さて、それじゃあ行きましょうか!」
「はい」
「瑞樹は大人しく寝ているって言っていたし、大丈夫でしょう!」
「ふふ。そうですね」
依頼内容などが書かれた紙を受け取ったシスターと如月に対し、瑞樹はどうにも心配だったらしく、シスターが「大丈夫」と言っても「他に質問はねぇか」と言って「コレは――」とついつい言ってしまい、なかなか出発出来なかった。
それが決して悪い事ではないのだが、ちょっとイライラしてしまうのは否めない。いつも以上に心配性になってしまうのも多分、風邪による熱のせいの一つでもあるとは思うが。
いずれにしても普段の瑞樹からは想像出来ない。
しかし、シスター曰く「小さい頃はよく風邪を引いていたから」という事なので、瑞樹の機嫌を損なう事なく、上手く寝かしつけていた。
「いつも目が覚めたら真っ先に謝るか、もしくは『熱を出していた時の事は忘れろ』と言うかのどっちかね。悲しい事にこういった事は憶えているタイプみたい」
そう言いつつ、シスターは「クスクス」と思い出し笑いをしている。
「多分、お酒を飲んで酔っぱらっても酔っぱらった時に自分か何をしたのか覚えているタイプでしょうね」
「なっ、なるほど」
「それで自己嫌悪をするタイプよ。多分」
「瑞樹さんってお酒を飲まれるんですか?」
「うーん、あんまり飲まないわね。母の命日には生前母が好きだったワインを一杯だけ飲むみたいだけど」
「そう……なんですか」
「成人した私たちとお酒を飲むのが夢だって言っていたから」
「……」
シスターはそう言って笑ったが、その笑顔はどことなく寂しそうだ。
「さて、気を取り直して! とりあえず依頼の内容は……」
シスターは一息置いて瑞樹からもらった紙に目を通す。その紙には地図と依頼内容がまとめて書いてあるらしい。
「ふむ。どうやら今回のお仕事は『探し物』ね」
「探し物……ですか」
「ええ。依頼人からはいつまでにって期限が決まっていて、見つからなかったらそれでも構わない。見つかれば元々の調査料に加えて謝礼金も出す……ですって」
「なるほど」
「この資料を見た限り既に調査料はもらっているみたいね」
「そうですか。でも、どうして瑞樹さんは『今日中』に探したかったのでしょう?」
チラッと見た紙に書かれている期限は明後日になっている。
「ああ、それは多分。明日と明後日が天気予報で雨になっていたからっていうのもあるんでしょうね」
「ああ、雨になると探しにくそうですよね。傘を差しながらって、色々と手がふさがりますし」
「そうね。だけど、一番は早く見つけてあげたいっていう気持ちがあったからでしょうね」
「……なるほど」
如月がそう言うと、シスターは「なんだかんだ、良い子なのよ」と笑顔で言いつつ「分かりにくいけど」とサラリと付け加えた事に対し、如月は思わず吹き出した。
でもまぁ、確かに瑞樹さんのそういった気遣いが分かりにくい時がある。なんと言うか……思春期真っ直中の少年を連想出来てしまう。
「それにしても、わざわざ探偵に頼むって辺り。相当大事なモノみたいね」
「そうですね。普通であれば人に頼むなんて事はしないですよね」
「でも、警察に頼む程でもないって事なのかしら」
「……」
如月はこういった依頼は初めてだったが、この紙を見る限り瑞樹は特に疑問を抱えていない様子だ。
つまり、こういった『探し物』といった依頼も相当数あるという事なのだろう。如月が初めて見るだけで。
「とりあえず、探してみましょうか。瑞樹曰く、ここからここまでは既に調査済みって事になっているから、これ以降……って事になるのかしら?」
「そう……ですね。でも、瑞樹さんが既に調査したところも再度確認した上で、新たに見て行きませんか?」
如月はシスターの話を参考にしつつ、そう提案してみた。
「そうね。じゃあ、そうしましょうか」
「はい」
シスターは笑顔で如月の提案に頷き、二人は早速「失った日、当日の依頼人の行動経路」を遡ってみる事にした。
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