第4話
「あら、
「お、シスターじゃないか。久しぶりにその呼び方をされたな」
シスターがそう言って、おやっさんが照れくさそうにしているのを見た如月は「あ。おやっさんって、海藤さんって言うんだ」と、この時に知った。
「どうしたんだ、おやっさん」
言われてみれば、確かに如月が手伝いをする様になってからおやっさんが教会に来たのは初めてだ。
瑞樹曰く「たまに警察直々に仕事が舞い込む」とは言っていたが、そういった話はあまり多くはない。そして、そうした警察の案件は大体こうしておやっさんが来るらしいとも事前に聞いてはいた。
「あー、いや」
「?」
瑞樹が尋ねると、おやっさんはなぜか言い淀む。
「あ、私なら大丈夫ですよ。もし、大事な話だったら席も外しますし」
そう言ってシスターは小さく手を挙げ、如月もそれに同意するように首を振る。
一応、便宜上は瑞樹の「お手伝い」とはなっているが、基本的に事件の捜査をするのは瑞樹だ。当然、警察もあまり一般人に多くは知られたくないだろう。
「いや。いい、むしろいてくれた方が良いかも知れん」
おやっさんは頭を掻きながら言う。
「え?」
「……あー、そっち関連の話か」
瑞樹はおやっさんの態度で何かに気がついたらしく、軽く伸びをする。
「いや、まだ確実に関連があるというワケではない。だが、どうにも気になる事があるらしくてな。調べて欲しいと言われてしまってな」
その話の流れから、如月は瑞樹の言う「そっち関連」が『怪異』の事を言っていると察した。
「でも、あるらしい? それに、調べて欲しい?」
ただ、この言い方には些か疑問だ。
おやっさん自身がそう思っているのだとすれば、この言い方はおかしい。コレでは「誰か」がおやっさんにそう頼んだ様にしか聞こえない。
「気になる?」
そんな如月に気がついたシスターがコソッと近寄る。
「え、っと」
「そんなに緊張しなくて良いわよ。それに、これくらいなら知っている人は大勢いるから」
「え?」
「海藤警部補がいる警察署の署長さんがね。同期らしいのよ」
「署長さん」
「そ、その署内で一番偉い人。その人、正義感が強くて昔から『怪異』が視えていたらしいのよ。でも、自分は署長という立場だからあまりおおっぴらには動けない。だから『怪異』に特化した部署を作っておやっさんにそれらの調査を託したみたいよ」
シスターの説明を受けて、如月は思わず「なっ、なるほど」と声を漏らす。
「ま、基本的に『怪異』は見えない存在だからな。おかげで役立たずだの言われて窓際族みたいな扱いを受けているけどな。手柄も目立つ部署に持っていかれる事なんてしばしばだ」
おやっさんはそう言って肩をすくめる。どうやら、警察には警察の事情と言うモノがあるらしい。
「で、何を頼まれたんだ?」
「ん? ああ、実はな。先日この周辺で起きた『事故』についてなんだが……」
「事故? 確か、有名なイラストレーターが橋から転落したって言うヤツか?」
「ああ」
瑞樹が言うと、おやっさんは「それだ」と言って頷く。如月も新聞で大きな一面に出ていた事もあり、覚えている。
「なんでも、世間では自殺じゃないかという見方も出て来てな。事故と自殺じゃ話が変わっちまうからってんで、内密に再調査してくれって言われちまってよ」
「なるほどな。自殺なら自殺した原因を追及しないといけねぇし、事故だったら事故で『原因は怪異の可能性がある』っつー事か」
そう瑞樹が言うと、おやっさんは「あいつが言うにはそうらしい」とにわかには信じられないのか、ため息を零す。
「あら、海藤警部補は信じていないの?」
「信じる信じない以前に、正直な話。この一件は署の中では既に終わったモノとされているからなぁ。いくらあいつに言われたとは言え、あんまりいい顔はされねぇよ」
おやっさんはそう言って苦笑いで自分の頬を掻く。
「まぁ、既に結論が出ちまっているから消極的になっちまうのは分かるけどよ。それに、仮に『怪異』が原因だったとしても、それは全面に出せねぇしな」
瑞樹さんはおやっさんの言葉に対し、同意の姿勢を見せた。でも、確かにおやっさんの言っている事は理解が出来るし、瑞樹さんの言っている事も理解が出来る。
そして、たとえそれが真実だったとしても『怪異』が関わっているとなると、それを公にする事は難しい。
そもそも『怪異』は誰にでも見えるモノではないため、また話が変わってしまうのだろう……と推察が出来た。
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