第9話


 昔、暁には『等佐喜とうさき』という友人がいた……らしい。


 話を聞いたところ。暁は中等部から秋華咲学園に入学したが、その等佐喜という女子は外部から入学。

 つまり、高等部からこの学園に来た様だ。


 元々、彼女たちが通っている学校は金持ちを鼻にかけた連中が多いらしく、その中でも「階級」と言うモノが存在していた。

 暁は最初でこそその事実に「ここでもか」と霹靂していて、だからと言って暁がそれを気にする事もなく、特に気にせず分け隔てなく接していた。


 そして、等佐喜は入学当初からこの「階級」とも言えるモノが存在している事に異を唱えていた。


「当時。その階級とも言える存在の上に立っていたのは彼女。花城かじょう咲恵さきえだった。私が彼女から押しつけられた人たちの手伝いをしていると、いつも彼女は面白くないと言わんばかりの顔をしていたわね」


 明日香はその時の事を思い出すように話す。


「そんな最中。ある日、彼女自身を助けた事がきっかけで次第に会話をする様になって私たちは仲良くなった」


「つまり、彼女自身もイジメを受けていたってワケか」

「ええ。でも、私と一緒にいれば彼女自身がイジメられる事はありません」

「そういった事も含めて……ってワケか」


 仲良くなったのは決して利害が一致していたというワケではないと思うが、結果として明日香が一緒にいる事で縦巻きロールは手を出しにくくなった……というワケだ。


 しかし、そんな日々は長くは続かず……等佐喜。彼女が突然転校する事になった。


「あまりにも突然でした。でも、ちょうどタイミングがよく彼女の誕生日も近かったので、私は彼女にこの万年筆を手渡しました」


 それをもらった等佐喜は嬉しそうに「転校しても手紙を出す」と言って二人は別れた。


「そう言っていたのに……」


 しかし、彼女から手紙は一通だけ来たのみ。


 それ以降は手紙が来る事もなく、次に彼女の事を知ったのは「新聞。彼女を含めた一家全員が無理心中をしたという事件でだった」と言う――。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「私は、何も知らなかった。彼女の父親が会社を追われた事を母親が仕事を辞めされた事を……そして、借金を抱えていたことを」


「……」

「……」


 小さく呟かれる言葉は……そのどれもが明日香の思い出で、最後は彼女の懺悔にも聞こえた。


「要するに、その等佐喜の家族は全員。花城カンパニー管轄のところで働いていたって事か」


 瑞樹がそう言うと、明日香は「ええ」と頷く。


「それを知っていたら、もっと話は変わっていたかも知れねぇな」

「……はい」


 明日香は「今更後悔したところでどうしようもない」と言わんばかりに頭を下げる。


「一通だけ来た手紙に、この万年筆が入っていた意味を考えていれば。もっと早く何かしら手を打っていれば……いつも後悔しています」

「明日香」


 万年筆を握りしめる明日香の表情は、彼女自身の髪で見えないが……ひょっとしたら泣いているかも知れない。


「まぁ。どうして自殺に追い込まれたのかは分からねぇ。既に事件は自殺で処理されているだろうしな」

「はい」

「それにしても、他にもこういった話はありそうだな」

「え、瑞樹さん。そっ、それって」


 如月が驚いて瑞樹の方を見ると……。


「覚えておけ、こういった事をする人間は反省なんてしない。何度も何度も同じ事を繰り返すもんだ」


 そう言って「はぁ」とため息を零す瑞樹の表情は悲痛で歪んでいた――。

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