第4話
「ここが?」
「うっ、うん」
そうしてついに来てしまった休みの日。如月はストーカーに遭った公園で待ち合わせをして明日香を教会に連れて来た。
「……」
チラッと公園の方を見たが、あの事件以降。この時間帯はいつも人に賑わっていた公園は……随分寂しくなってしまった様に思う。
しかし、その代わりに公園で問題になっていた『ゴミ』が少なくなって綺麗になったのは……皮肉だろうか。
でも、人が来なくなれば当たり前と言えば当たり前の話なのだが。
「随分古い建物ね」
「うん、私が小さい頃からあるから」
この『教会』は如月が生まれるよりもずっと前からある建物だと聞いた事がある。まぁ、それを聞いたのも父からだが。
「そう。じゃあ、優希が手伝いをしている人もこの中に?」
「うっ、うん」
明日香に確認され、如月はおずおずと答える。
「どうかしたの?」
「うっ、ううん。なんでもないよ」
如月は両手を振って否定したが、実はちょっとだけ心配な事があった。
「……」
それは、瑞樹が明日香に失礼をしないか……といった事だ。
一応、既に瑞樹には明日香が来る日にちと時間は伝えてあるし、仮に仕事が入ってしまった場合はすぐに明日香に連絡するという段取りもしてあった。
まぁ、仕事は入らなかったが。
だから、ある日突然明日香が現れて大慌て……なんて事にはならない……はずだ。
如月は「だから、大丈夫なはず」と思いつつ先を行く明日香の後に付いて行く。
「この部屋?」
そう尋ねられて、如月は「うん」と頷き、明日香は部屋のドアを開けたが。
「ん?」
部屋を開けて真っ先に飛び込んで来たのは、キチンと時間を伝えていたにも関わらず、なぜか瑞樹の上半身裸の姿だった――。
「あれ、もう来る時間だったか」
「……」
如月は呑気な瑞樹のそんな姿を見て「うわぁ、最初もこんな感じだったぁ」と、どこか現実逃避に走っていた。
「……はぁ。なんか、無性に心配になってきたわ」
そして、明日香は特に叫びもせずにため息をつきながら呆れた様子でそう呟いた――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「じゃあ、改めて。俺が瑞樹です。で」
「明日香です。暁明日香」
「……」
「何か」
自己紹介をする明日香に対し、服を着た瑞樹はジーッと明日香の顔を見る。
「いや、美人だなと思っただけだ」
「……ありがとうございます」
「謙遜しねぇのか」
「色々な方から言われるので、お世辞も含めて」
明日香がそう言うと、瑞樹は「あー、なるほど」と納得した様に笑う。多分、相当色々な人に言われているのだろう。
しかし、それくらい明日香は美人だ。
それでいて肝も据わっていて、周囲からの信頼も厚い。そのためか、男子に限らず女子にも人気……らしいという事は、バレンタインデーの時に学校でもらった来たというお菓子の量を見ればよく分かる。
「いきなり悪かったな。もう少し後に来ると思っていたんだが」
「まぁ、確かに少し早めに来てしまいましたが……」
それにしたってもう少し余裕を持って行動して欲しい。
「それにしても、如月の友人とは聞いていたが……まさか暁グループの娘とはな」
明日香は「美人」と言われても無反応だったのに、その言葉を聞いた瞬間。眉をピクッと動かした。
「それが何か」
「いや? 別に何も問題ねぇよ。聞いた話じゃ、友人になったのは塾らしいからな。きっかけなんて人それぞれだろ」
現に、如月はあのストーカーの一件で瑞樹と知り合って今に至っている。
「ところで、本当に友人として俺に挨拶をしに来ただけか?」
「はい?」
「いや、友達が心配って言うのも理解は出来るんだけどよ。本当にそれだけか? って思われても不思議じゃねぇだろ?」
「……」
その瑞樹の言葉を聞いて過ぎるのは「しかしたらその友人。過去に何かあったのかも知れねぇな」という昨日の会話。
「――それだけですよ。友達が心配だったので来たんです」
如月の心配を余所に、明日香はそうキッパリと言うと「とりあえず、危ない事はさせないでくださいね」と瑞樹に釘を刺した。
「おお、怖ぇ。もちろん、分かっているけどな。あんたを怒らせると、大変そうだ」
「……」
瑞樹は笑いながら答えると、明日香は「ちゃんと聞いたからね」と言わんばかりの表情で、如月の方を向き「じゃあ、帰るわね」と言った。
「あ、じゃあ」
「大丈夫。迎えは呼んであるから」
ニッコリと笑いながら如月の申し出を辞退する明日香に対し、瑞樹はつまらなさそうな表情で明日香を見る。
「なんだ、最初から長居するつもりはなかったのか」
「ええ、色々と忙しいのよ。あなたと違って」
「と言うよりは『習い事』だろ」
「……」
瑞樹の言葉を受け、明日香が「チッ」と舌打ちをしたのは……多分。如月の聞き間違いではないだろう。
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