第3話
「――で?」
「はい、今度の休みに友人が……来ます」
「どこに」
「ここに」
如月がキッパリと言うと、瑞樹は盛大に「はぁ」とため息をついた。
「すみません。誤魔化そうと思っていたのですが」
「ああ、いや。謝らなくていい。それに、下手に誤魔化した方が面倒な事になりそうだ」
「え」
「どうせ、いつかはバレていただろうしな」
「……」
「それに、如月の話を聞く限り。冷やかしとかしなさそうな真面目な人間そうだから、まだマシだろうしな」
「冷やかしとかあるんですか?」
ふと疑問に思い尋ねると、瑞樹は頬杖を付きながら「たまにな」と答える。
「今の御時世。嘘でも本当でも情報として簡単に外に出る。んで、ここは『怪異』も扱うだろ? 基本的にそういった事は表立って言わねぇし、そうそう見えるもんじゃねぇ。だが、稀にいるんだよ。そういうヤツ」
「そうなんですか」
言われてみれば確かに「本当?」とか言って冷やかし半分面白半分で来る輩はいそうだ。
「……それ、大丈夫なんですか?」
しかし、如月の心配は別にあった。
それは、如月自身が自分の目で怪異を見てしまったからだろう。
「まぁ、大体はあまりにも地味なんで飽きるな。ただ、そういうヤツらに限って過去。もしくは現在進行形で取り憑かれちまっている事もあるんだが」
「? 取り憑いちまっている?」
「ああ。そういうヤツラらは大概人様に迷惑をかけているって事だ」
「あれ。でも『怪異』って、亡くなった人の負の感情……でしたよね」
ふと疑問を口にしたが、瑞樹は「まぁ、要するにそういう事だ」としか言わず、如月は余計に首をひねる羽目になった。
しかし、瑞樹が特に気にしていない事が分かり、如月は内心ホッとしていた。
明日香には案の定「なんでそんな大事な事を言わなかったのよ!」と怒られてしまったが……。
「まぁ、真面目な人間だからこそ面倒なところもありそうだが……今は考えないでおくか」
そう瑞樹が言ったところで、如月は「あの」と切り出した。
「どうした、まだ他に何かあるのか」
「じっ、実は……」
如月は塾でここ最近明日香に見えた『黒いモヤ』について話した――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「モヤ……か」
腕を組みながら「ふむ」と考え込む。
「はい」
それが見えたのは一瞬。だからこそ、最初は「見間違い?」と如月も思っていた。
「でも、見えては消えが何度もあると……」
「さすがに気にもなる……と」
瑞樹はそう言うと、如月が「はい」と答える。
「本人から聞いたワケじゃねぇから一概には言えねぇが――」
如月の返事に瑞樹はそう切り出すと――。
「如月が見たのは、その友人が他者から受けている負の感情の塊がその友人に纏わりついて視覚出来るほど強くなった結果じゃねぇかと推察出来る」
「え、そっ。それって……でも亡くなった方の……ですよね。大丈夫なんですか」
「今のところは大丈夫じゃねぇかと思う。如月の話を聞く限り、その友人っていうのはとても目立つ……人の中心に立ちやすい人間みたいだからな」
「そっ、それはそうですが。でも……」
明日香に憑いていた黒いモヤはかなり大きかった様に見える。
「見え隠れしているのがその証拠だ」
「え」
「本当にヤバい場合はずっと見える。だが、如月には見えたり消えたりしているんだろ?」
瑞樹に尋ねられ、如月はコクンと頷く。
「それはつまり、負の感情が別の感情に打ち消されている証拠だ」
「別感情……ですか」
「ああ。例えば『感謝』や『好意』とかが挙げられるな。まぁ、要はそれだけ周りから『尊敬』や『羨望』されているって事だ」
「そうなんですね」
「ああ。ただ、これらの感情はふとした瞬間に負に転じる危険性もあるから、一概に無害とも言えねぇんだが」
「え?」
普通に聞くと、先程。瑞樹が上げたモノに悪い印象を受けない。
「そうだな。普通であれば、それは決して悪いモノじゃねぇ。むしろその逆。だがな。それらが暴走する事がたまにある。この間のストーカーはその最たるもんだったろ」
「あ」
言われてみると、確かにそうだ。あの一件も確かに最初は「好意」だった。
「まぁ、結果的に暴走しちまって犯罪を犯した上に恨まれる結果になっちまったけどな」
瑞樹はそう言って苦笑いを見せる。
「ま。人って言うのは複雑でな。色々な感情を持ち合わせているってワケだ。今のところ打ち消せているのなら、まず問題はねぇだろ」
「そっ、そうですか」
如月は瑞樹の言葉を受けてホッと胸をなで下ろす。
「それに、学校や病院は特に『怪異』が出やすいからな。そういった時に対処出来る様にこの間見た白装束の様なヤツらが見回りをしている」
「え」
それは初耳だ。
「基本的にあいつらは表立って活動をしねぇからな。ただ、学校や病院。その他にも大勢の人が行き交う場所を重点的に見回っている」
「そっ、そうなんですね」
「ああ。ただ、その場所で生まれた負の感情から『怪異』になっちまったのはまだ見つけやすいが、如月が見た様な『黒いモヤ』が打ち消されず『怪異』になっちまった場合。コレが実は一番対処しにくい」
「え」
「正直、いつからその『怪異』が取り憑いている人間を襲うかが判断しにきぃんだよな」
瑞樹に言われて如月は納得出来た。
確かに、いくら見回りをしていたとしても四六時中その人に引っ付いているワケにはいかない。それこそストーカーに間違えられかねない。
「とは言え、今のところは『怪異』になる心配はねぇ。ただ」
「ただ?」
「黒いモヤが度々見えているって事は、もしかしたらその友人。過去に何かあったのかも知れねぇな」
「え」
その瑞樹の言葉を受け、如月は不安になりどうしようもなく心がざわついていた――。
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