第2話
その日、いつもの様に如月は塾で勉強に勤しんでいると――。
「おはよう、優希」
「おっ、おはよう?」
いつもは如月の隣に座る友人の『
「え、どうしたの?」
この塾は基本的にどの席に座っても良い事になっている。だから、明日香がどこに座ろうが問題はない。
「別に? ちょっと聞きたい事があってね」
「聞きたい事?」
明日香が座りながらこちらの方を見ているというだけで、なんと言うか……様になっている。
「そ、この間電話かけてきた場所とか……ね」
「!」
探る様な明日香の視線に、同じ女子であるはずの如月でも思わずドキリとしてしまう。
「基本的にスマホって電話番号が表示されるのよ。それに、優希の家の番号は既に登録してあるし」
そう言いつつ明日香は「でも」と続け。
「この間の連絡は知らない番号からだった。公衆電話だったらそういった表示が出るんだけどね? だから、どうしたんだろうと……ってね」
「それは……その」
明日香の言う「この間」というのは話の内容からして、ストーカーに遭った時に電話した事だろう。
「……」
しかし、実は瑞樹と出会った次の日にちょうど塾があったので明日香とは会っている。
その時は会ってすぐに「心配した」と言われたが、まさか時間が経った今になってそれを聞かれるとは思っていなかった。
だからこそ、どう答えれば良いのか如月は困ってしまった。
もちろん、嘘をつきたいというワケでも誤魔化したいというワケでもないのだが、一から話をするとなると、自分がストーカー被害を受けた事を説明しなければならない。
でも、実は如月はそれすら明日香に言っていなかった。
ただそれは、ひとえに「友人に心配をかけたくなかった」という一心からだったのだが……。
「言いたくないのなら、仕方がないわ。無理強いをしたいワケじゃないもの」
明日香も決して鬼じゃない。人が嫌がる事は基本的にしないタイプだ。その一言を聞き、如月は内心ホッと胸をなで下ろしていると……。
「でも、ここ最近成績が上がっているみたいだからね。もしかしたら、何かあったのかなって思って」
「!」
ホッとしたのも束の間、明日香の指摘に如月は思わずドキッとしてしまった。
そう、実は先日。勉強を見てもらって以降、瑞樹は探偵の仕事も教会の手伝いもない時は気まぐれで如月の勉強を見る様になった。
しかも、瑞樹の教え方は意外に分かりやすく、そのおかげもあり、如月の成績は右肩上がりになっていたのだ。
「まぁ、実は電話番号が気になって自分で調べていたんだけどね」
「え」
思わず聞き返すと、明日香がこちらを見ている。
「……ん?」
「え……と聞いてどうするの?」
コレが如月にとって精一杯の抵抗だ。
「ご挨拶しようと思ってね。友達として」
明日香は「友達として」と言っているが、正直「家族としてではなくて?」と如月とはツッコミたいところだったのだが……明日香がニッコリと笑っている顔を見た瞬間。
「そっ、そうなんだ」
如月は思わず下を向いてしまったが、この時点で今までの経験から「あ、詰んだ」と悟った。
「え、あ……えと」
基本的に明日香は人の嫌がる事をしないタイプだが、それが明日香の「どうしても聞きたい事」や「気になる事」となると話は別だという事も知っている。
「えと、あの。じっ、実は……」
こうして如月は、そのまま正直に今まで起きた出来事を洗いざらい説明した。でも、それと同時に元々選択肢がなかったという事をその時、更に悟ったのだった――。
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