第7話


「おやっさんも薄々勘づいていたんだろ? 近頃のストーカー事件に『怪異』が絡んでいるって」

「……」

「だから昨日、俺に相談をしてきたんだろ?」


 瑞樹に言われ、おやっさんは「はぁ」観念したように下を向く。


「あの、一体どういう事でしょうか」


 またも置いて行かれている様に感じた如月は思わず問いかける。


「ああ」


 そんな如月に対し、瑞樹は「そういえば、知らないんだったな」と言わんばかりに頷く。


「実はこの公園で五年程前にも似たような事件があったんだよ。しかも、被害者は今回の事件の被害者と同じ高校の生徒で同じ部活動で、なおかつ黒髪ロング」

「え」

「まぁ、五年もあれば中学生は高校生になっているし、下手すりゃ大学生だ。一時は大々的に報じられても忘れ去られるもんだ」


 瑞樹はそう言いながら「案外時間って言うのはあっという間に過ぎちまうもんなんだよ」と笑う。


「事件が発生した当時もしばらくは見回りの強化はされた。だが、時間の経過と共にそれも元に戻っちまったみてぇだけどな」


 チラッとおやっさんの方を見ると、バツの悪そうな顔でおやっさんは自分の頬を掻く。


「お恥ずかしい話。確かに見回りは今も行われている。ただ、それは日中らしいな」

「いや、ストーカーが出るのって大体が夕暮れ時か夜だろ」

「一応、その時間にも見回りする様になっているが……」

「あー、タイミングが合わねぇってワケか」


 さっきも瑞樹が言った通り、この公園の敷地はかなり広い。


 いくら見回りを強化したとしても、タイミングが合わない限り犯人を発見するのは難しいだろう。


「で、そんな中でまた事件が発生した……と」

「正直、ストーカーの被害が拡大している事は小耳に挟んで知っていた。だが、どうにもその発生時刻などを照らし合わせると、奇妙な事が分かった」

「奇妙な事……ですか?」


 如月が尋ねると、おやっさんは「ああ」と頷く。


「その被害を受けた場所が最初と二番目が対になっていた……とか、そういったところだろ」

「!」


 瑞樹がそう言うと、おやっさんは驚きの表情を見せる。


「どうしてそれをって言いたそうだな。しかも、ストーカーが起きるスパンが短くなっているんだろ?」

「あ、ああ。最初は三週間ほど空いていた。だから、俺の勘違いかと思っていたんだが、日に日に短くなり、ついには夕方に起きてその数時間後に起きる様になった」

「そんで、昨日はついに三十分後。こりゃあ、相当ヤバいな」


 そう言っている瑞樹はなぜか笑いを堪えて、どことなく楽しそうだ。


「笑い事とは言えないんだが。しかし、それはまいったな」


 おやっさんはなぜか「ふぅむ」と悩む。


「あ? どうしたんだよ」

「いや、もし『怪異』が今回の一件に絡んでいたとして、今の話を聞く限り猶予は少ないのだろう?」


 瑞樹はおやっさんの言葉に「ああ」と頷く。


「しかし、そうなると『怪異』よりも早く犯人を捕まえないとならない。それらが絡むと事件が迷宮入りになりやすくなってしまう」

「え」


 おやっさんの言葉に驚いたのは如月だ。


「昨日も話した通り『怪異』って言うのは恨みや妬みなどの負の感情の集合体だ。ただ、厄介な事にその感情が強ければ強いほどそれを向けている相手に見える様になってしまう。それを見た人間は普通どうする?」

「そっ、それは……おっ。驚いて……」

「逃げるだろうな。ただ、あいつらはバカじゃない。あいつらが相手に姿を見せる時は大抵復讐を果たすためだ。つまり、タイミングは復讐するのに打って付けなタイミングになる」

「そっ、それって……」


 そう言われて頭を過ぎるのは「あいつらは事件ではなく事故を起こす」と言った瑞樹の言葉。


「おやっさん。今回の事件で刃物が押収されたの指紋がなかっただろ」

「あ、ああ。しかも下足痕もなかったって鑑識が嘆いていたな」

「それ、おやっさんが触ったら多分。出て来ると思うぞ」

「は?」


 おやっさんはキョトンとした様子で答える。


「あの、一体それはどういう……?」


 如月が思わず尋ねると、瑞樹は「ああ」とおやっさんを指す。


「おやっさんは実家が神社だからなのか分かんねぇけど、なぜか『怪異』が意図的に隠したモノを見つけるのが上手めぇんだ」

「おい! いや、そんな事よりお前さんがそう言うって事は……つまり今回の一件」


 おやっさんが驚いた様子で瑞樹を見る。


「ああ、多分。今回は五年前に亡くなった女子生徒の『怪異』が関わっている……と推察出来る」


 瑞樹はそう言って事件現場の方を見ながらニヤリとして「いや、今回の一件でもっと厄介になっちまったかもなぁ」と更に付け加えた。

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