第5話
そして次の日、如月たちは警察に向かったのだが……。
「はぁ」
「……」
「……」
正直、最初に対応してくれた警察官の態度は悪かった……というより、お疲れのご様子だった。
そして、その後を引き継いでくれた女性の警察官は親身になって話を聞いてくれた。
「……なんと言いますか、大変そうでしたね」
警察署を後にしてゆっくりと歩きながら、如月はおもむろにそう言った。
「まぁ、事件が発生して時間が経ったとは言えな」
瑞樹はチラッと警察署の方を見ながら答える。
「そうなんですか」
「一言で事件と言ってもあの一件だけじゃないからな」
どうやら昨日の如月たちだけでなく、ストーカー被害や他の事件で警察はてんてこまいらしい。
「そうなんですね」
「昨日の事件は全国で大きく報じられたから、あの事件しか起きてないみたいに見えちまうが、実際は色々なところで事件や事故は起きている」
言われてみれば確かにその通りだ。表立って言われていないだけで、事件や事故は実は自分の身の回りでも起きている。
「なんか、申し訳ないです」
如月は思わずそう言って沈んでいたが。
「何を言っているんだ?」
瑞樹はそう言って如月の頭を強引に撫でる。
「なっ、なんですか」
「そんなのお前さんが心配する事じゃねぇよ」
「え?」
「それがあいつらの仕事って言えばそれまでだが、お前さんが言った事で分かる事もあるし、未然に防げる事もある。帰り際に警察の人が『ご協力ありがとうございました』って言っていたのはそれだ。お前さんが気にする事じゃねぇ」
元気づける為に言ってくれたのだろうか。如月とワザと目を合わせない様に言っている辺り、もしかしたら照れているのかも知れない。
「……」
そんな瑞樹の不器用な優しさに、如月は思わず笑いそうになってしまう。
「なんだよ」
如月の表情に気がついたのか、瑞樹はふて腐れ気味に言いつつ如月の方を見る。
「なんでもありません。それより、私は『お前さん』じゃなくて『如月』ですよ」
そう如月が注意すると、瑞樹は「分かぁってるよ」ともう一度如月の頭を撫で、ちょうど横断歩道の信号が変わったのか先を歩く。
「あ、待ってください」
照れてしまったのか、先に行ってしまった瑞樹を追う様に如月も急いでその後を追いかけた――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「――で、事件現場に来たワケだが」
瑞樹は辺りをキョロキョロと見ていたが、やはり事件現場には黄色いテープが張られており、容易に近づく事は難しそうだ。
「あの、やっぱり」
如月がストーカーの視線に気がついたという場所にも一度立ち寄ってはいた。しかし、コレと言って怪しいところはない。
そこで事件現場に来てみたというワケだ
「ふぅむ」
「瑞樹さん? 聞いています?」
いくら声をかけても反応がなかった事を不思議に思った如月が瑞樹に声をかけると。
「いや、何でもない。ところでどうした」
そう言って如月の方を振り向く。
「どうしたじゃないですよ。こんなところでうろちょろしていたら……」
如月が辺りの様子を窺いながら「怪しまれますよ」と瑞樹に言おうとしたところで――。
「おい」
「!」
知らない男性の低い声を聞いた瞬間、如月はその場で固まった。
「ここは関係者以外立ち入り……」
男性はスーツにコートという服装で足元を確認しながら如月たちに近づくと……。
「あ、おやっさんじゃん」
瑞樹はその男性に気がつき、待ち合わせをしていた友人に会った様なリアクションで男性に手を振った。
「はぁ、なんだ。お前さんか。てっきりイタズラ坊主が現場荒らしでもしに来たかと思っちまっただろうが」
瑞樹に「おやっさん」と呼ばれた男性は自分の頭を掻きながら「はぁ」とため息を漏らす。
「え、え? おやっ……さん?」
そんな友好的な二人に対し、如月は状況が飲み込めず目を白黒させる。
「ん? おい、説明してなかったのか。この嬢ちゃん、全然状況が飲み込めてねぇぞ」
瑞樹から「おやっさん」と呼ばれた男性はもう一度ため息混じりに言う。
「あ、忘れてた」
おやっさんに言われてようやく気がついたのか、瑞樹は如月の方を向き……。
「この人はおやっさん。見ての通り一応刑事だが、窓際の係だ」
瑞樹の紹介に「おやっさん」は「おい!」とツッコミを入れつつ、如月に一礼する。
「こっ、こんにちは」
「で、相談されていたって言うのはこの人からだ」
「え」
「この人。おやっさんは『怪異』に関する部署にいてな。事件や事故に『怪異』関わっていないか調べているんだ」
そう瑞樹に説明をされ、おやっさんは照れくさそうに頭を掻く。どうやら癖の様だ。
「とは言え、普通は人間に見えないからな。おかげ様で俺は窓際族ってヤツだ」
おやっさんはそう言って盛大に笑っていたが、瑞樹さんに「自分で言っていて悲しくないか」と言われると……。
「笑って誤魔化してんだよ。察しろ」
そう瑞樹に向かって真顔で答え、如月は「どうやら悪い人ではないらしい」と二人の様子を見ながらそう感じていた。
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