第4話
「え、あの。なぜ突然」
瑞樹の真剣な眼差しから冗談じゃないと言う事は分かる。しかし、なぜ突然そんな話になったのか如月にとって謎だった。
「まぁ、そうなるよな」
そう瑞樹は言いながらいつの間に用意したのか、飲み物を飲む。
「正直に言うと、今回の件は情報収集する時に女子の手が必要になるんじゃねぇかって、俺は思っているわけよ」
「?」
如月が不思議そうに首をひねるっていると……。
「さっきも言っただろ。さっき似たようなストーカー被害の相談を受けたって」
「あ」
確かにそんな事を言っていた。
「んで、その相談をしてきたのは如月の様な女子じゃなく、警察」
「え、あの。そっ、それって」
相談ではなく調査依頼では?
「まぁ、たまに受けるんだよ。こういった話は」
「そうなんですか?」
如月の質問に「ああ」と瑞樹は頬杖をつきながら答える。
「普通の捜査に俺みたいな部外者は基本的に関わらねぇんだが」
「あ」
つまらなさそうに言う瑞樹に、如月はある事を思い出した。
「あの、ひょっとして警察の方が相談に来られたのって」
「察しが良いな。ああ、怪異が関わっているんじゃないかって来たんだよ」
「……」
「で、明日にストーカー被害を受けたっていう人から話を聞こうって事で段取りを組んでもらっていたんだが」
そう言いながら瑞樹は「はぁ」とため息をつく。
「あの、まさかその人って……」
「ああ。今回の事件被害者だ」
瑞樹は小さくそう呟いた。
「!」
如月は思わず驚いてしまったが、瑞樹はそれ以上に呆れたらしい。
「だってそうだろ。なんでストーカーの被害者がストーカーを受けた現場を通っているんだよって話じゃねぇか。しかもこんな時間に」
「それは……確かに」
言われてみれば確かに変だ。普通であれば一度嫌な思いをした場所にはしばらく行きたくないはず。
「可能性としてあるのは、犯人に呼び出された……って言うところが妥当だとは思うんだが……如何せんまだ情報が少なすぎる」
「そうですね」
確かに、今はまだ事件の詳細は明らかにされていない。
「まぁ、今回の一件が起こった事で『怪異』が関係していたワケじゃないって思われちまった可能性は高いな」
「え」
「さっきも言った通り『怪異』には実体がない。だから『怪異』が人に直接危害を加える事は出来ねぇんだよ」
「そっ、そうなんですか」
如月が驚いた様に言うと、瑞樹は「そうなんです」と答える。
「だから『怪異』が関わっているとすれば、起きるのはほとんどが事件じゃなく事故なんだが……」
「?」
そう言いつつ瑞樹は何やら考え込む。
「たまに『怪異』の中でも恨みなどを持っている本人に取り憑くヤツもいる。そうなると話も変わるんだが……それは今回は関係なさそうだな」
「そうですか。それで、あの私に手伝いをして欲しいというのはどうして……」
今までの話の流れから「ストーカーを受けた相手の話を聞くのに女子の手伝いが必要」というのであればまだ分かる。
今回はストーカー被害の話だ。同じ被害者としては話しやすいだろう。しかし、その聞くはずの相手が亡くなってしまっている。
「ああ。確かに相手が女子なら、話を聞くのも同じ女子同士の方が話しやすいんじゃねぇかって最初は思った」
「……」
「ただ今は状況が変わっちまった。だが、如月がストーカー被害を受けたと言ってここに来て色々と気になる事があってな」
「気になる事……ですか」
如月が尋ねると、瑞樹は「ああ」と頷く。そんな言われ方をすると……気になる。
「で、その気になるところを解明するために手伝って欲しいんだが」
「でっ、でも……」
「ああ、じゃあ。通常はかかる相談料を手伝いをしてもらう事で返すって言うのはどうだ?」
「どうだ……って、え! お金がかかるんですか!」
驚きのあまり立ち上がると、瑞樹は「当たり前だろ」と答える。
「話を聞くのも時間はかかる。時間は有限だからな」
「……」
至極当然の様に言う瑞樹に、如月は思わず「なんてヤツだ」と言いたくなった。
「それに、今回の事件で見回り強化とか対策はされるだろうが……不安材料はなくしておくべきだろう?」
「それは……そうですが」
「ああ。一応、警察には行っとくべきだな。事件との関連性も含めて捜査に必要だろうから」
瑞樹の言葉はもっともだ。それに、瑞樹の「気になる事」と言うのも気になる。
「わっ、分かりました」
如月が渋々頷くと、瑞樹は「良かった」と言って名刺を差し出した。
「コレは?」
「スマホを持っていないとは言え、連絡先を知らないと何かと不便だろ。一応、この教会にはいるが……ずっといるワケでもねぇからな」
「なっ、なるほど」
「今回の一件だけじゃなく、何かあったら連絡してくれて構わない」
瑞樹はそう言ったが、如月はすぐに「それって、相談料取りますよね」と聞くと、瑞樹は「当然」と答える。
「むしろ、ずっと手伝ってくれてもいいぞ?」
そう言う瑞樹に「遠慮しておきます」と言いながら如月は名刺を仕舞う。
「……とまぁ、とりあえず送るわ」
「え」
「あのな、自分がさっきストーカーにあった事。忘れてねぇか」
「あ」
完全に忘れてしまっていた如月に、瑞樹は「はぁ」とため息をつく。
「おら、帰るぞ」
「はっ、はい」
そんなワケで私は相談料として瑞樹のお手伝いをする事になったのだった――。
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