第3話


「怪異?」

「ああ。基本的には探偵事務所なんだが、ごく稀に魑魅魍魎ちみもうりょう。そう言うと一般的に『幽霊』とか『妖怪』とかを連想しやすいところだな」

「幽霊……と言うと」


 如月はふと夏に見た怪談を連想した。


「あー、でも。俺が言っているのはそういったモノとは違うヤツだな」

「違う?」

「確かに『幽霊』は地縛霊とかトイレの花子さんとかはそちら側に当たるだろうが、そちらは死んだ人間が天国なり地獄になりに行けずに現世で留まった存在を指すが、俺が言っている『怪異』は実体がない」

「実体が……ない?」

「ああ」


 瑞樹曰く、人間の負の感情というモノは厄介なモノで、外に出したところで消える事はなく、その場に溜まっていくモノらしい。


「で、それらが溜まりに溜まって固まったのを総称して……」

「怪異……という事ですか」

「まぁ。そう分けているのはこちら側の都合ってヤツだから、気にする事もねぇんだけどな」


 瑞樹はそう言って笑う。


「……」


 如月は今まであまりそういった事に関心もなかったため、改めて聞いてみると、色々とあるらしい。


「そう言や、あんた」

「如月です。如月」


 出会ってしばらく経った上に、自己紹介も終わっているのだから名前で呼んで欲しいところだ。


「ああそうだ。如月は『ストーカー』に追われていると思って、とりあえずここに避難してきたんだよな」

「そっ、そうですけど」


 少し引き気味に言うと、瑞樹は「ふーん」となぜか考え込む。


「なんですか」

「いや、あんた」

「如月です」

「如月が来たのって紅葉公園方面からか?」

「? そうですけど」


 一体それが何だと言うのだろうか。


「いや実はな。似たようなストーカー被害の相談をついさっき受けたところでな」

「はい」


 そう返事をすると、瑞樹は「よいしょ」と腰を上げて何かを探し始めると……。


「コレ見てみろ」


 瑞樹はアイパッドを持って来て操作をしてある画面を見せた。


「こっ、これって」

「ああ、あの公園だ……って、知らなかったのか?」


 驚きの表情でその画面を見ていた如月に対し、瑞樹はそんな私に驚いている。


「ネットニュースでも速報が上がるくらいだったんだがな」

「え、と。その、私スマホを持っていなくて」


 その画面を見ながら恥ずかしそうに如月は言うが、操作には慣れているのか画面をスクロールして読む。


 そこには「あの公園で殺人事件が起きた」と言った内容が書かれている


「このニュースが上がったのはついさっきの事だから詳しい内容はまだ明らかになっていないが……って、スマホ持ってねぇんだったな」

「……」


 そう改まって言われると、無性に恥ずかしくなる。


「でも、不便じゃねぇか? 友達と連絡を取りにくいだろ」

「その、母がスマホは勉強の妨げになるから……と」

「まぁ、確かにスマホばかりに構って勉強が疎かになるヤツはいるが……それにしたって極端だな」

「私が塾に行っているので、削れるところから削ろうって事だと思います」

「でも、そう言っている母親は持っているんだろ?」

「……」


 瑞樹にそう言われると、如月は無言になった。つまりはそう言う事だ。


「テレビとか見ねぇのか?」

「テッ、テレビは一日一時間と言われているので」

「それじゃあドラマとか見たら終わりじゃねぇか。報道番組だって一時間じゃ終わらねぇぞ」

「ええ、だからニュースはコンビニとかに置いてある新聞を立ち読みするとかして……」


 そうして如月は何とか周りの話題に着いて行っていた。


「深刻だな」


 如月の言葉を聞いた瑞樹は何とも言えないといった表情を見せる。


「まぁ、そうですね。なかなか周りの話題について行けないので友達も少ないんですよ」

「いないってワケじゃねぇんだな」

「それは……そうですね」


 そう言えば、ストーカーに追われてこの教会に避難して結構時間が経った。


 しかも、ネットニュースで速報として紅葉公園で起きた殺人事件が上がっている事を知った友人は……もしかしたら私を心配して家に連絡を入れているかも知れない。


「とりあえずここから連絡を入れた方が良いんじゃねぇか」


 その事を言うと、瑞樹は慌てた様子で名札の隣にある電話を指した。


「そっ、そうですね」


 コレに対しては私も同意見だったので、友人に連絡を入れると……。


『優希? はぁ、良かった』


 ホッと胸をなで下ろした様子の友人に、如月は申し訳ない気持ちになった。


『そっ、そんなに心配かけちゃった?』

『心配にもなるわよ! 何度家に連絡したか』

『ごっ、ごめん』

『まぁ、大丈夫そうで良かったけど』


 いつもの様子に戻った友人に、如月もどことなくホッとして「じゃあまた塾で」と言って電話を切った。


「もう良いのか」

「はい、ありがとうございました」


 そうお礼を言うと、瑞樹は「どういたしまして」と答えつつ如月をさっきまで座っていたソファに戻るように促し、如月は不思議に思いつつ座ると……。


「如月。このストーカーの件を一緒に調査しないか」


 瑞樹はおもむろにそう言った――。

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