洗い地蔵

ツヨシ

第1話

毎年、僕は年末年始を田舎で過ごした。

山の中の一軒家。

古いが家は大きく庭も広かった。

そして十二月三十一日に、庭にある地蔵を家族で洗うのが恒例となっていた。

家族と言っても長男だけで、祖父、父、そして僕の三人だ。

地蔵は子供の僕にはとても大きく見えた。

実際、普通の地蔵よりは大きかったと思う。

その地蔵をみんなで洗うと言っても、一緒にではない。

僕、父、祖父の順に一人ずつで洗うのだ。

その日は例年よりも寒く、この地では珍しいことに雪まで降っていた。

雪を見たのは、僕はこの時が初めてだった。

雪の中みんな家に入り、僕一人で井戸の水とたわしを使って地蔵を洗っていた。

寒い。

とても寒かった。

洗っているとどんどん手が痛くなってきた。

井戸の水がなんだか刃物のようにも感じる。

そして手の痛みとともに、だんだんと僕の中から怒りがわいてきた。

――なんでこんなことをしなくちゃいけないんだ。

その怒りは地蔵に向けられた。

僕はほぼ無意識のうちに石を拾い上げ、それで地蔵を叩いていた。

するとほんのわずかながら、地蔵の右肩のところが欠けてしまった。

――まずい!

そう思った僕は、そのまま何事もなかったかのように地蔵を洗った。

その後、父と祖父が地蔵を洗ったが、地蔵の右肩がわずかにかけていることには気がつかなかったようだ。

そして年が明けた。

――痛い!

起きると右肩がとてつもなく痛い。

見れば右肩が大きく赤黒く腫れあがっていた。

僕の泣く声で家族が集まってきた。

祖父が僕の右肩を見て、慌ててどこかに電話をした。

しばらくするとお坊さんが一人やって来た。

「これはいかん」

そのお坊さんは僕をきつく見ながら、念仏のようなものを唱え始めた。

一時間は唱えていただろうか。

ふいに肩の痛みがなくなった。

「とりあえず痛むことはないでしょう」

お坊さんはみんなに礼を言われた後、帰って行った。

その後、地蔵を傷つけたことがばれて、僕は滅茶苦茶怒られた。


あれから十年が過ぎたが、僕の右肩は今でも大きく赤黒く腫れあがっている。


       終

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洗い地蔵 ツヨシ @kunkunkonkon

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